りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2015/1 ひみつの王国(尾崎真理子)

それぞれにテイストは異なりますが、『かたづの!』も『風太郎』も『HHhH』も『甘美なる作戦』も、小説を読む醍醐味を味わうことができる、優れた作品でした。ランク外にはしましたが、桜庭さんや、川治さんの近作にも、楽しませていただきました。 でも…

ねじまき片想い(柚木麻子)

浅草にあるおもちゃ会社の敏腕プランナー富田宝子、28歳。美人で才能もあり、ヒット商品を次々に飛ばしている彼女の弱点は・・純情すぎることでした。仕事を依頼しているデザイナーの西島に、5年も片思い中。彼女の気持ちを知っている同僚も友人も、やき…

岳飛伝 8(北方謙三)

南宋、金、梁山泊の和平がかりそめにすぎないことは明白ですが、ようやく次の戦いの構図が見えてきます。やはり「物流による富国」に基盤を置く梁山泊は、封建主義国家である南宋からも金からも受け入れられず、「対梁山泊同盟」が優先されることになりそう…

甘美なる作戦(イアン・マキューアン)

米ソ冷戦ただなかの1970年代。かろうじてケンブリッジ大を卒業し、不倫相手の男性にスカウトされてMI5の一員となったセリーナの仕事は、単純な事務作業ばかり。そんな彼女に訪れたチャンスは、「文化工作のために、反共作家を支援する」という「スウ…

ゲームセットにはまだ早い(須賀しのぶ)

『流血女神伝シリーズ』や『芙蓉千里シリーズ』の著者による「普通の小説」ですが、どうも普通すぎたようです。 舞台はアマチュア野球のクラブチーム。業績不振に陥った企業が次々と実業団チームを閉鎖しつつある中でも、両者の実力差は歴然としています。大…

遠野物語remix(京極夏彦/柳田國男)

中島京子さんの新作『かたづの!』は、「遠野の原型」ができあがるまでの物語として読むこともできる作品だったようです。今まで『遠野物語』をきちんと読んだことがなかったので、本書を読んでみました。京極さんによる現代語訳リミックス版と、オリジナル…

第三の銃弾(スティーヴン・ハンター)

著者とおぼしき作家が暗殺される冒頭シーンは、「現実世界と小説世界を縦横に行き来する」本書に対する「仕掛け」なのでしょう。作家は、「ケネディ大統領暗殺の真相」を暴露する予定だったというのです。ボブ・リー・スワガーが、未亡人からの依頼に応えて…

夢は荒れ地を(船戸与一)

PKOの一環として自衛隊がカンボジアに派遣されたのは1992年。もう20年以上前のことになります。2003年に出版された本書は、カンボジアに派遣されたまま消息不明となった元自衛官の越路修介の足跡を追って、元同僚の現役自衛官・楢本辰次がブノ…

シフト(ヒュー・ハウイー)

文明滅亡後の地下世界を描く3部作の第2弾は、前作『ウール』の前日譚となっています。 近未来の2049年。合衆国の新人議員ドナルドは、実力者の上院議員サーマンから極秘プロジェクトへの参加を要請されます。そのプロジェクトでは、核廃棄物貯蔵施設に…

紙の月(角田光代)

著者は、女性銀行員による横領事件の目的が「男性に貢ぐため」とされることに違和感を覚えて、本書を執筆しようと思ったそうです。そうではなくて「お金を介在してしか恋愛ができなかった」女性が、むしろ能動的に事件を起こしたという形に再構築された物語…

海遊記(仁木英之)

唐時代の怪異ロードムービー『僕僕先生』でデビューした著者ですが、そのジャンルの大先輩はもちろん『西遊記』。モデルとなった玄奘三蔵はスーパースター的著名人ですが、ほぼ同じ時代に海路で天竺を目指した義浄はマイナーですね。本書は、あえてその義浄…

とっぴんぱらりの風太郎(万城目学)

「大坂の陣」の前夜、時代が豊臣から徳川に移ろうとしている時代。藤堂藩の支配下になっていた伊賀忍者は不要な存在になろうとしていました。ある不始末から伊賀を追い出されたニート忍者の風太郎の人生は、1個のひょうたんとの出会いによって、奇妙な方向…

王たちの道 1(ブランドン・サンダースン)

多少SF寄りとはいえ、これはまたストレートな「ハイ・ファンタジー」です。ほとんどトールキンを思わせるほど。 全能神によって遣わされた10人の「光の騎士」によって守られてきた、石と風の世界ロシャル。しかし、「無をもたらすもの」との終わりなき戦…

鍼師おしゃあ(河治和香)

幕末から明治にかけての時代を生き抜いた女鍼師おしゃあの一代記です。著者が、現代医療では対応できなかった急性腰痛に苦しんだ際、鍼灸によって救われたことが、本書を書くきっかけとなったとのこと。かつては地域医療の一環を担っていた鍼灸が、西洋医学…

雨天炎天(村上春樹)

1990年に出版された「辺境紀行」です。「ギリシャ編」と「トルコ編」からなっています。 「ギリシャ編」では、ギリシャ正教の聖地アトス半島の断崖に沿って点在する修道院を巡って、ひたすら歩きまわります。険しい山道、厳しい天候、質素な食事、固い寝…

ほんとうの花を見せにきた(桜庭一樹)

バンブーとは、植物性の吸血鬼。夜に生きて、空を飛び、生き物の血を吸い、老いる事なく、120年たつと白い花を咲かせて消滅する、竹から生まれた魔性の存在。人間との交流が許されていないバンブーが、こっそりと人間と心を通わせる連作小説集です。 「ち…

かたづの!(中島京子)

中島さん初のファンタジー、しかも歴史ファンタジーですが、とにかく面白い。江戸時代を通じて唯一の「女大名」であった八戸南部氏の清心尼こと弥々(ねね)の物語を包み込むファンタジー世界が素晴らしいのです。 八戸南部氏が移封された遠野に伝わる伝承は…

月と太陽(瀬名秀明)

「身体と意識」の問題をとりあげた5編の作品を収録した短編集です。著者が得意としていた「ロボット関連小説」から派生したテーマですね。2011年から2013年に執筆されており、どの作品にも「震災」というキーワードが登場します。 「ホリデイズ」 …

パステル都市(M・ジョン・ハリスン)

『風の谷のナウシカ』の種本のひとつと言われる作品です。 確かに共通点は多いのです。滅び去った古代文明の遺産にすがりながら生き延びようとする帝国。古代文明が遺した兵器(エネルギー剣、飛行艇、不死人・・)を「錆の砂漠」から発掘して、帝国に襲いか…

HHhH(プラハ、1942年)ローラン・ビネ

奇妙なタイトルですが、「ヒムラーの頭脳はハイドリヒと呼ばれる」というドイツ語のフレーズの先頭文字からきています。ちなみに、著者からの、発音に関しての指定はないとのこと。 本書のテーマは、1942年のプラハで実際に起こったナチス高官ハイドリヒ…

ささらさや(加納朋子)

夫を突然の交通事故で亡くしたサヤは、まだ首も据わらない赤ちゃんのユウ坊を抱えて、大好きだった伯母が残してくれた佐々良という田舎町の家に引っ越してきました。義父の跡継ぎとして、赤ちゃんを引き取ろうとする夫の遺族から距離を取りたかったのです。 …

明治・妖モダン(畠中恵)

「妖たちが、そう簡単にいなくなると思うかい?」江戸が終わって20年。煉瓦街が広がり、アーク灯が闇を照らす明治の世といっても、江戸とは地続きにすぎません。銀座4丁目交差点にたたずむ派出所勤務の原田と滝が調査する「妖(あやかし)」の物語は、『…

これからお祈りにいきます(津村記久子)

津村さんには珍しく、男子学生を主人公とした中編と短編から成っています。いつもの女性主人公と同様にテンションの低い男たちなのですが、それぞれ「熱くなる」祈りの瞬間がやってきます。 「サイガサマのウィッカーマン」 大阪南部の雑賀町では「サイガサ…

残り全部バケーション(伊坂幸太郎)

伊坂さんの作品によく登場する「裏の顔役」毒島からのアウトソーシングを稼業とする溝口と岡田のコンビを中心にする5章構成の連作長編小説です。テーマは、「人と人の関わりが起こす小さな奇跡」とでもいうことなのでしょう。 「1.残り全部バケーション」…

ノンちゃん雲に乗る(石井桃子)

石井桃子さんについての本格的評伝である『ひみつの王国(尾崎真理子)』を読み、石井さんの代表作である本書を再読してみました。 物語はシンプルです。主人公のノンちゃんは、お母さんのことが大好きな小学校2年生。ある朝、お母さんとお兄ちゃんが自分に…

ひみつの王国 評伝石井桃子 (尾崎真理子)

『プーさん』や『ピーター・ラビット』を翻訳し、『星の王子様』や『ちびくろサンボ』を紹介し、『ノンちゃん雲に乗る』を生み出し、「岩波少年文庫」を立ち上げ、児童文庫の普及に努め、2008年に101歳で亡くなるまで「児童文学」に全てを捧げた石井…