りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/9 ディア・ライフ(アリス・マンロー)

アリス・マンローさんの「最後の著作」は、年齢を感じさせない力強い作品です。塩野七生さんの著作は「中世三部作」のラストですが、まだまだ絶筆ではありませんよね。 冲方丁さんが「最後のラノベ」とするという作品も面白かったですね。主人公が闘う少女た…

陰陽師~蒼猴ノ巻(夢枕獏)

「行くか」と促す安部清明に、「行こう」と応える源博雅の名コンビが、平安の都に起きる怪異に挑む、著者渾身の「偉大なるマンネリ」シリーズ。蘆屋道満、賀茂忠輔、蝉丸、露子姫、藤原兼家などのレギュラー陣も総登場。 「鬼市」:死者たちが開く鬼市に迷い…

天冥の標2.救世群(小川一水)

日本を代表するSF作家である著者が、「できること全部やる」との覚悟で書き綴っている超大作の第2巻です。本書では、第1巻『メニー・メニー・シープ』で存在が示された7つの勢力のうち、「医師団(リエゾンドクター)」、「亡霊(ダダー)」、「救世群…

ディアスポラ(グレッグ・イーガン)

難解なハードSFの代表のように言われる作品ですが、そんなことはありません。サイバー空間における生命の誕生、宇宙を襲う未曾有の危機、壮大な宇宙進出計画、多次元宇宙の存在、そして超知的生命体との遭遇という、現代SFではお馴染みの概念が壮大なス…

リターン(五十嵐貴久)

第2回ホラーサスペンス大賞を受賞したデビュー作『リカ』の続編です。前書はホラーとのことで避けていたのですが、続編ということを知らずに読んでしまいました。前書が未読であっても理解できるように書かれています。 10年前にリカに拉致されたまま行方…

ミュンヘン(マイケル・バー=ゾウハー)

スピルバーグの映画「ミュンヘン」の原作ですが、本書の内容は、オリンピックさなかのミュンヘンでイスラエル選手団11人を惨殺したテロと、モサドによるその後の報復暗殺だけではありません。パレスチナ問題が発生したイスラエル建国時点から現代に至る、…

ディア・ライフ(アリス・マンロー)

2013年のノーベル文学賞受賞、おめでとうございます。83歳となって引退を宣言した著者の「最後の著作」には、今まで通りの高水準の作品がぎっしりと詰まっています。短編小説の巧みな技法を用いながら、大河小説のように人生を紡ぎあげることができる…

オイレンシュピーゲル肆(冲方丁)

ミリオポリス警察組織・遊撃小隊ケルベロスの3人の特甲少女たちが巻き込まれた、ウィーン空港でのハイジャック事件には、秘せられた目的が潜んでいました。それは、国連都市で開かれる国際法廷での証言者を巡る戦いだったのです。ちなみに国連都市での戦闘…

オイレンシュピーゲル参(冲方丁)

シリーズ第3巻は、ミリオポリス警察組織・遊撃小隊ケルベロスの3人の特甲少女のエピソードを描く3つの短編からなっています。 「吹雪との思い出」 スパイプログラムに脳を侵されたMPBの通信解析官の吹雪を救出するために奮闘する黒犬・涼月。いい関係…

こちら弁天通りラッキーロード商店街(五十嵐貴久)

映画「俺たちは天使じゃない」に対するオマージュのような作品です。それも、ハンフリー・ボガートの1955年版と、ロバート・デ・ニーロの1989年版の両方に対して。 友人の連帯保証人になったことから莫大な借金を抱えてしまった、印刷工場経営者の笠…

水軍遙かなり(加藤廣)

和田竜さんが『村上海賊の娘』で描いた村上水軍のライバルといったら、九鬼水軍。信長の発案による「鉄甲船」を建造して、毛利水軍を撃破した立役者として名高い志摩水軍の頭領です。信長、秀吉、家康に仕えた九鬼嘉隆、守隆親子が主人公。 『信長の棺』で「…

村上春樹 雑文集

インタビュー、受賞の挨拶、海外版への序文、音楽論、書評、人物論、結婚式の祝電・・。著者が「雑文」と名づけた文集には、デビュー作「風の歌を聴け」受賞の言葉から、エルサレム賞スピーチ「壁と卵」までの未収録・未発表の文章が69編、ぎっしりと詰ま…

皇帝フリードリッヒ二世の生涯(塩野七生)

「ローマ以降」を描いた「中世3部作」の棹尾を飾るのは、「中世を超えた男」であるフリードリッヒ2世。すでに『十字軍物語3』にも登場した人物です。 赤ひげ王フリードリッヒ1世の孫としてシチリア王であったフリードリッヒは、空位になっていた神聖ロー…

オイレンシュピーゲル弐(冲方丁)

ロシアの原子炉衛星が墜落。核爆弾への転用を狙って暗躍する7つのテログループ。裏で暗躍する、謎のテロ支援組織プリンチップ。この事態を予期していたかのように、たちまちミリオポリスに乗り込んできたロシアの特務捜査チーム。 ケルベロスの3人の少女た…

オイレンシュピーゲル壱(冲方丁)

あらゆるテロや犯罪が多発している近未来の国際都市ウィーン=ミリオポリス。超少子高齢化を背景にした児童労働の許可と、重度身体障害者に機械化四肢を与える福祉政策の融合によって、サイボーグ化された児童が公共事業に従事するようになっています。なか…

三銃士の息子(カミ)

ダルタニャンの機知、アトスの気高さ、ポルトスの精力を一身に受け継いでいる「三銃士の息子」。アラミスがいないのはとりあえず無視しましょう。3人の遺伝子を同時に受け継ぐという離れ業も可能としましょう。稲妻を切り落とすほどの腕を持っているのです…

岳飛伝 7(北方謙三)

南宋、金国、梁山泊の三者は、互いに講和を結んでいるものの、平和な状態はかりそめの姿にすぎないと理解しています。やがて来る戦闘への準備を怠るわけにはいかないのですが、それは単なる軍備増強ではありません。最終的には、国家の総合力が問われてくる…

もうひとつの街(ミハル・アイヴァス)

シュールな作品でした。雪降りしきるプラハの古書店で手にした、この世のものではない文字で綴られた菫色の本に誘われて、「もうひとつの街」に足を踏み入れた「私」が綴る物語。 プラハを「迷宮都市」にしてしまったのはカフカですが、本書が誘うプラハは、…

バージェス家の出来事(エリザベス・ストラウト)

メイン州に生まれ育ったバージェス家の三兄弟に起こったドラマは、アメリカ社会における「家族の絆」の重要性を再認識させてくれます。ピューリッツアー賞を受賞した『オリーヴ・キタリッジの生活』に続く翻訳です。 ニューヨークで弁護士として成功している…

ばんば憑き(宮部みゆき)

宮部さん得意の「江戸不思議譚」では、怪異を垣間見てしまう怖さと、怪異の背後にある物語を知ってしまう恐ろしさが同居しています。怪異を生み出した因果を知ると、怪異から逃れられなくなってしまうのです。くなるのです。それと闘わない限りは・・。 「坊…

グリード(真山仁)

バブル崩壊後の日本で不良債権の重みに潰れた企業を買い叩き(『ハゲタカ』)、カリスマ経営者のもとで経営判断を誤った企業の買収戦争に乗り出し(『バイアウト』)、中国ファンドから狙われた日本最大の自動車会社をめぐる謀略戦でキーパーソンとなった(…

世界が終わるわけではなく(ケイト・アトキンソン)

『博物館の裏庭で』の著者による、12の掌編は緩やかに繋がっていますが、それだけではありません。これらの物語は、変身をテーマとした「危機の時代の『千夜一夜物語』」だったようです。 窓の外では銃撃戦が繰り広げられ、何週間も降り続く雨によってシリ…

長女たち(篠田節子)

医療ミステリの依頼を受けて執筆されたという、3作の中篇が納められています。本書のタイトルは、著者の経験から来ているとのこと。親を病院に連れて行ったり、介護の申請をしたりするときの書類に記入する、本人との続柄が「長女」ということで、思いつい…

メアリー・アニングの冒険(吉川惣司/矢島道子)

著名なサイエンス・ライターであるサイモン・ウィンチェスター氏が『世界を変えた地図』において、「地質学の父」ウィリアム・スミスと同時代の人物として紹介していたのが、メアリー・アニング。閉鎖的で差別的であった19世紀の英国学会から、スミスと同…

スペース(加納朋子)

デビュー作『ななつのこ』と続編『魔法飛行』の後、10年以上の間を置いて書かれた「駒子シリーズ第3作」は、「起承転結」の「転」にあたるようです。「結」にあたる第4作まで執筆される計画であることを、著者が明かしています。 大晦日のデパートで偶然…

魔法飛行(加納朋子)

前作『ななつのこ』で作家の瀬尾さんに後押しされて物語を書き始めた駒子が遭遇する、日常生活の中のミステリ。駒子が記した不思議ストーリーの謎を、瀬尾さんが鮮やかに解いていきます。しかし最終章では駒子自身が、不思議な手紙の謎に巻き込まれてしまい…