りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/6 ペテロの葬列(宮部みゆき)

宮部みゆきさんの新作は、いつもながらの高水準の作品でした。昨年末に「日経小説大賞」を受賞した『スコールの夜』は「雇均法以降の女性総合職の大変さを描いた作品」とされていますが、審査員の方々が会社のことをわかって言っているのかどうか・・。私は…

暗くなるまで贋作を(ヘイリー・リンド)

伝説の贋作師ジョルジュ・ルフルールを祖父に持ち、サンフランシスコで「疑似塗装師」の仕事に携わるアニー・キンケイド。彼女を主人公とするアートミステリの第1作ではカラヴァッジョ、第2作ではシャガールの贋作が登場しましたが、今回の第3作で問題にな…

贋作に明日はない(ヘイリー・リンド)

サンフランシスコを舞台にして、疑似塗装師(フォーフィニッシャー)のアニー・キンケイドが探偵役を務めるライト・ミステリの第2弾。彼女の祖父ジョルジュ・ルフルールは希代の贋作師であり、彼女もまた優れた腕を持つという設定です。 今回は、サンフラン…

草の花 俳風三麗花(三田完)

高浜虚子門下の暮愁先生が主催する日暮里の句会で、昭和7年に出会った3人の女性たちの友情のはじまりを描いた『俳風三麗花』の続編は、3年後の昭和10年から始まります。 大学教授を父に持つ阿藤ちゑは、帝大助教授の妻となりますが流産してしまいます。…

貧乏お嬢さま、古書店へ行く(リース・ボウエン)

ヴィクトリア女王を曾祖母に持つ22歳の娘ジョージーは、英国王位継承権を持つといってもほとんど末席の34番目。スコットランド伯爵の称号を持つ実家は破産状態。兄嫁との衝突を避けてロンドンに出てきたジョージーは、従業員が自分ひとりのメイド派遣業…

満州国演義8 南冥の雫(船戸与一)

真珠湾攻撃からシンガポール占領まで華々しく開始された南方の戦局は、ミッドウェー海戦を境にして一変します。空母、航空機、操縦士の喪失。暗号解読の疑惑。伸びきった補給線。陸軍と海軍の反目。そして何より「大本営発表」として事実が隠蔽されるように…

ななつのこ(加納朋子)

「一体、いつから疑問に思うことをやめてしまったのでしょうか? いつから、与えられたものに納得し、状況に納得し、色々なことすべてに納得してしまうようになってしまったのでしょうか? いつだって、どこだって、謎はすぐ近くにあったのです」。 19歳の…

順列都市(グレッグ・イーガン)

21世紀半ば。記憶や人格をコンピューターにダウンロードさせることは可能になっています。本書が1990年代に書かれたことは割り引いても、これだけなら今どき珍しくもない設定です。しかし、本書を話題作としたのは、その擬似生命体に宇宙の寿命より長…

大江戸亀奉行日記(松井今朝子)

時は幕末。舞台は上野不忍池。イシガメたちがのどかに暮らす池を仕切っているのが、「亀奉行」こと亀山左衛門尉俊寛。といっても、江戸城内にそんな役職があったわけではありません。これはあくまでも「亀の世界」の物語。 最近、不忍池では不穏な空気が立ち…

キング・オブ・クール(ドン・ウィンズロウ)

オリバー・ストーン監督によって映画化された『野蛮なやつら』の続編というより、前日譚にあたる作品です。メキシコのバハ・カルテルと壮絶な闘争を繰り広げることになる、ベン、チョン、オフィーリアの幼馴染3人組のマリファナ・ビジネスはどのようにしは始…

愛と障害(アレクサンダル・ヘモン)

たまたまシカゴ滞在中にボスニア内戦が始まってしまったため、そのままアメリカに移住したサラエヴォ出身の作家による短編集です。先に読んだ長編『ノーホエア・マン』とテーマは同じであり、祖国喪失者である悲劇性と、実際の内戦を経験していないことに対…

ノーホエア・マン(アレクサンダル・ヘモン)

著者はボスニアのサラエヴォ出身ながら、シカゴ滞在中に内戦が勃発して帰国できなくなったといいますから、映画「ターミナル」の主人公と同じ状況。そのままアメリカに残る選択をし、英語をゼロから学びながら作家を目指した経歴の持ち主です。 本書は、著者…

ペテロの葬列(宮部みゆき)

『誰か』と『名もなき毒』に続く「杉村三郎シリーズ」の第3弾です。このシリーズのテーマは「現代社会における悪意と対峙せざるをえなくなった一般人」とでもいうものでしょうか。本書で主人公が向き合うものは「伝染する悪」でした。 今多コンツェルン会長…

銀行総務特命(池井戸潤)

『不祥事』だけではなく本書も、「花咲舞が黙ってない」の原作だそうです。主人公は異なっていますが、銀行で起こる「不祥事」を内部捜査する小説ですから、テーマはほとんど一緒です。本書で活躍するのは、総務部内の特命担当である指宿修平と、助手を務め…

魔女の宅急便6(角野栄子)

本書が出版されたのは2009年。第1作から25年後のこと。ジブリ映画の公開からも20年後。第5作でとんぼさんと結婚したキキは30代になり、いまや双子の母親です。そして双子が13歳を迎えようとしています。新米魔女が家を出て独り立ちしなくては…

黙示録(池上永一)

『テンペスト』を19世紀後半に琉球文化が消滅に至る過程を描いた小説とするなら、本書のテーマは、18世紀前半に琉球文化が成熟に至った過程です。琉球文化を大和でも清でもない独特のものとしているのは、「舞踊」だったのです。 時の王・尚敬が琉球を隆…

人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(ジャレド・ダイアモンド)

原題は「Why is sex fun?」。キワモノのような書名ですが、『銃・病原菌・鉄』と『文明崩壊』の著者による、れっきとした文明論です。 著者はまず、「ヒトの性生活は、他の動物と比較してみると極めて奇妙である」ことを指摘します。すなわち、「結婚、共同…

スコールの夜(芦崎笙)

第5回日経小説大賞受賞作です。審査員からは「政治・経済・産業社会のダイナミズムを真正面から小説化」とか、「キャリア女性の一級の成長物語」とか評されていますが、そんなに企業の実態が書けているとは思えません。むしろ「リアリズム」とか「インサイ…

空襲警報(コニー・ウィリス)

「ベスト・オブ・コニー・ウィリス」として、中短編のヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作品ばかりを集めた2分冊のうちの「シリアス編」です。姉妹編の『混沌ホテル』は「ユーモア編」。 「クリアリー家からの手紙」 コロラドの高山に住む一家の生活は素朴で単…

混沌ホテル(コニー・ウィリス)

「ベスト・オブ・コニー・ウィリス」として、中短編のヒューゴー賞、ネビュラ賞受賞作品ばかりを集めた企画ものです。本国では1冊なのですが、日本では「ユーモア編」の本書と「シリアス編」の『空襲警報 』の2分冊となっています。 「混沌ホテル」 ハリウ…

桜の森の満開の下(坂口安吾)

『二流の人』のついでと言ってはなんですが、著者の代表作である本書も再読してみました。 ストーリーは単純なのです。美女を誘拐した山賊が、逆に女に支配されて都に移り住み、自己を失ってしまいます。そして強引に女を背負って、山へと戻ろうとする途中で…

二流の人(坂口安吾)

坂口安吾さんが今年の大河ドラマの主人公である黒田官兵衛のことを書いていたのを思い出して、再読してみました。「秀れた知略を備えながら二流の武将に甘んじた」というのが黒田官兵衛に対する著者の評価ですが、ではなぜ彼が二流なのでしょう。 それを探る…

岳飛伝 6(北方謙三)

独立軍閥を率いて「対金主戦論」を貫き続ける岳飛と、「対金講和論」のもとに岳飛を南宋軍の総帥として取り込みたいと願う秦檜は、ついに歩み寄ることができません。互いの主張を認め合いながらも、両者は根底のところで相容れないものがあるのです。ついに…

怪獣記(高野秀行)

誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをして、それを面白おかしく書く」をモットーとしている「辺境作家」を自認する著者が2006年に挑戦したのが、トルコ東部のワン湖に棲息するといわれる怪獣ジャナワール調査です、 怪しいビデオから始まった調…