りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/5 海賊女王(皆川博子)

通称「銀背」なる「新☆ハヤカワSFシリーズ」の第2期出版が始まりました。1冊目が本格ハードSFの『白熱光』、2冊目がコミック要素を多分に含む『レッドスーツ』というラインアップも嬉しい限りです。 1位とした『海賊女王』には主人公の魅力に加えて…

たんぽぽ娘(ロバート・F・ヤング)

河出書房新社の「奇想コレクション(全20巻)」の最後を飾ったのは、SF的なガジェットを用いながらロマンティック愛を綴る作家でした。表題作の「たんぽぽ娘」は、最近『ビブリア古書堂の事件手帖』で紹介されて話題になりました。 「特別急行がおくれた…

妻が椎茸だったころ(中島京子)

2013年度の「日本タイトルだけ大賞」に耀いた作品です。梨木香歩さんの小説を思わせる雰囲気のタイトルですが、全く内容の想像がつかないところが凄い。「思いがけない人生の側面」を切り取った、5つの短編からなっています。 「リズ・イェセンスカのゆ…

三谷幸喜のありふれた生活11 新たなる希望

2000年から朝日新聞に連載されているコラムも、もう第11作になりました。本書は2011年後半~2012年前半のエッセイです。 冒頭いきなり、離婚された奥様が家を出て行く場面から始まります。50歳近くなって、人生初の一人暮らしの開始です。2…

きりきり舞い(諸田玲子)

18歳の娘・舞の周囲は変人ばかり。ベストセラー作家ながら、酒に目がなくお金は右から左に使ってしまう気難しい父親は十返舎一九。一九を尋ねてきたまま居候になってしまった朋友の息子は、舞に言い寄ってくるのですが、どうやら仇持ちの様子。それに加え…

もう一度(トム・マッカーシー)

昏睡状態から目覚めた主人公は、何らかの事故で重傷を負い、記憶の大半を失っていることに気づきます。思い出せることは脈絡のない断片的なことばかりであり、自分が「本当の人生」を生きているという実感を持つことができなくなっていました。 「事故につい…

琥珀の眼の兎(エドマンド・ドゥ・ヴァール)

タイトルの「兎」は、江戸時代の優れた工芸品である「根付」の一品のこと。本書の表紙になっています。東京で晩年を過ごした大叔父イギーから264個もの「根付コレクション」を相続した著者は、その来歴を調べ始めます。そのコレクションは、戦前の欧州で…

ことり(小川洋子)

鳥籠を抱えたまま孤独死した老人は何者だったのでしょう。生涯を町の片隅で暮らし、妻を娶ることも、人と深く交わることもなく、ましてや世俗的な成功からは最も遠いところで生きてきた老人の内面は、どのような豊饒に満たされていたのでしょうか。 両親を亡…

からくり乱れ蝶(諸田玲子)

清水次郎長に関連する小説を数冊著している諸田さんは、次郎長が養女とした姪の4代目の子孫にあたるそうです。次郎長は初代と二代目の妻に先立たれたため、生涯で3人の妻を娶っていますが、よほど初めの妻だった「お蝶」を愛していたのでしょう。3人とも…

冬虫夏草(梨木香歩)

百年ほど前の日本。亡き友人・高垣の実家の家守を任された綿貫征四郎が、琵琶湖疏水近くの田舎家で、ごく自然に四季折々の怪異と共存する『家守綺譚』の続編です。 前書では家の周辺を離れなかった綿貫でしたが、本書では旅に出ます。イワナの夫婦者が営むと…

ガソリン生活(伊坂幸太郎)

「伊坂版CARS」ともいうべき、クルマに「人格?」を持たせた本書は、人間たちの物語に対してクルマたちが噂や論評を加えたり、ご主人たちの運命に気を揉んだりしながら展開される、楽しいミステリです。 本書の語り手である緑色のデミオの持ち主は望月家…

チャイルド・オブ・ゴッド(コーマック・マッカーシー)

本書は、大ブレークした「国境三部作」(『すべての美しい馬』、『越境』、『平原の町』)以前の1973年に発表されており、現在邦訳が出ている中で最も古い作品です。 物語の舞台はテネシー州東部のアパラチア山中。家族も家も失ったレスター・バラードと…

オレたち花のバブル組(池井戸潤)

3冊ある「半沢直樹シリーズ」の第2弾。なんとなく読み損ねていたのですが、ドラマが大ヒットしてからは超人気本となり、半年以上待たされました。読むのは半日なんですけどね。 大阪支店から東京中央銀行営業第二部次長に栄転した半沢直樹に押し付けられた…

いにしえの光(ジョン・バンヴィル)

初老の舞台俳優が、少年時代の恋を思い出します。20歳も年上である友人の母親から性の手ほどきを受けて許されない恋にのめりこんだ少年は、2人の関係が終わった日のことを思い出します。彼女の娘に見られてしまってすぐに、一家は町を出て行ったのでした…

いつも彼らはどこかに(小川洋子)

人間と動物との接点をテーマとする短編小説集を著した理由は、「自分の小説では動物が重要な役割をはたしていると気づいた」からだそうです。そういえば『ミーナの行進』ではコビトカバのぽち子、『猫を抱いて象と泳ぐ』では象のインディラ、『最果てアーケ…

海賊女王(皆川博子)

16世紀。テューダー朝イングランドがアイルランド支配を強めていく時代に、誇り高く生きた女海賊の生涯とはどのようなものだったのでしょう。主人公のグローニャは実在した人物ですが、エリザベス女王に謁見したことが記録に残っているだけで、それ以外は…

ダンスシューズで雪のシベリアへ(サンドラ・カルニエテ)

ラトビアの外務大臣や各国大使を務め、現在も欧州議会議員である著者の生まれ故郷は、シベリアの寒村です。強制追放先のシベリアで出会って結ばれた両親が、スターリン死後の「雪解け」を機にラトビア帰還を許可されたのは1956年。著者が4歳の時のこと…

百鬼夜行 陰(京極夏彦)

「京極堂」シリーズ作品のサイドストーリーが10編収録されています。一応それぞれ独立した作品となっていますが、本編を読んでいるほうが楽しめるのでしょう・・たぶん。本編は未読なので、断言できないのですが。 「小袖の手」:「絡新婦の理」の絞殺魔・…

青嵐(諸田玲子)

「次郎長に佐十郎というお兄さんがいてその子どもの一人に、満(ま)つという女の子がいたんです。満つは次郎長と血のつながった姪に当たります。次郎長には子どもがいなかったので養女にして、お嫁に出したりしているんです。その満つが、私の祖母の祖母に当…

捨ててこそ空也(梓沢要)

空也上人といえば、底辺大衆の救済を説いた市井の聖。口から6体の阿弥陀仏を吐く六波羅蜜寺の肖像彫刻は有名ですが、教団も教本も残さなかったため、その生涯は明らかではありません。本書は、伝説に多くを負いながら、空也像の再構成を試みた作品です。 父…

レッドスーツ(ジョン・スコルジー)

25世紀。憧れの宇宙艦隊旗艦イントレピッド号に配属された銀河連邦の新任少尉ダールは、奇妙なことに気づきます。平均値を大きく上回る遠征任務。異常に高いクルーの死亡率。絶対に死なない上級士官たち。何でも解決できるけれど時間ギリギリにならないと…

白熱光(グレッグ・イーガン)

はるかな未来。銀河系周辺部は「融合世界」として異星人どうしの交流が進んでいます。DNA由来やソフトウェア由来の生命体が混在し、現実およびバーチャルの空間で暮らす満ち足りた世界が実現しているのです。しかし、超大質量ブラックホールを中心に有し…

サウンド・オブ・ミュージック アメリカ編(マリア・フォン・トラップ)

1938年、アメリカに亡命した一家を待っていたのは、ゼロからの出発。家も財産も市民権も持たない一家ができるのは歌うことだけでした。はじめは小さな音楽事務所のマネージメントで人気も上がらず、マリアの妊娠発覚もあってコンサートはキャンセル。ビ…

サウンド・オブ・ミュージック(マリア・フォン・トラップ)

ジュリー・アンドリュース主演で大ヒットしたミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」の原作は、激動の人生をおくった著者の自伝です。 第1次世界大戦後の1926年、ザルツブルクのフォン・トラップ男爵の屋敷に家庭教師として雇われたのは見習…

緩慢の発見(シュテン・ナドルニー)

18~19世紀の航海者にとって「北極航路」の探索は重大な問題でした。本書は「北極航路」を発見しながら北極圏で消息を絶った探険家ジョン・フランクリンの生涯を、「緩慢」という言葉をキーワードに据えながら「再構成した」小説です。 ジョンが育った時…