りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2014/1 こうしてお前は彼女にフラれる(ジュノ・ディアス)

1月の上位には自伝的な作品が並びました。どちらの作品からも、「書かれるべきもの」に対する著者の強い思いが感じ取れます。 諸説あり長年論争となっていた、鴎外の「舞姫」のモデルの人物同定を成し遂げた六草さんの探索は感動的でした。次作『それからの…

豆腐小僧その他(京極夏彦)

『豆腐小僧双六道中ふりだし』と『豆腐小僧双六道中おやすみ』の間に書かれた姉妹編の舞台は現代です。 豆腐小僧のことを思って豆腐小僧を出現させたのは、妖怪好きの少年でした。彼の母親は天候コントロール技術の完成を目指す技術者なのですが、成果を横取…

移動祝祭日(ヘミングウェイ)

ポーラ・マクレインの『ヘミングウェイの妻』に触発されて、ヘミングウェイの遺作となった本書を手にとってみました。 文豪が晩年に書き綴っていたのは、若かりしヘミングウェイが結婚間もない妻のハドリーとともにパリで生活を始めた1920年代の追想です…

量子怪盗(ハンヌ・ライアニエミ)

遠未来。小惑星群に「囚人のジレンマ監獄」に「偽神(アルコーン)」によって幽閉されていた男、量子怪盗ジャン・ル・フランブールを脱獄させたのは、高度な戦闘力を備えた美少女ミエリ。「開祖たち=精神共同体(ソボールノスチ)」のひとりである「集合的…

出訴期限(スコット・トゥロー)

『囮弁護士』で語り手役を務めたジョージ・メイソン判事を主人公とした作品です。もちろん「キンドル郡シリーズ」の一環であり、出番は少ないながらサビッチやモルトもキーポイントで登場します。 上訴裁判所判事のメイソンは苦悩していました。世論が厳罰を…

二人のガスコン(佐藤賢一)

主人公の「2人のガスコーニュ人」とは、『三銃士』のダルタニャンと、従妹ロクサーヌに純愛を捧げる戯曲で有名なシラノ・ドゥ・ベルジュラック。どちらも同時代に生きた実在の人物をモデルとした小説で有名です。 本書の物語は、デュマの「ダルタニャン物語…

旅する力-深夜特急ノート(沢木耕太郎)

1970年代前半に、香港を経由してデリーからロンドンまで乗り合いバスで旅をした著者が、『深夜特急シリーズ』の「最終便」として2008年に綴ったエッセイです。 著者がノンフィクション・ライターとして独り立ちするまでのエピソードにも興味深いもの…

岳飛伝 5(北方謙三)

南宋軍と金軍の全面対決は「岳飛vs兀朮」の直接対決の様相を呈してきたものの、決着がつきません。両国の境界を淮河と定めることに利害の一致をみた秦檜と撻懶による、政治的な幕引きが行われます。中原で金に搾取される漢民族のために領土奪還を掲げた岳飛…

夢幻諸島から(クリストファー・プリースト)

『限りなき夏』という短編集に、「夢幻諸島シリーズ」に属する作品が数編あったので、本書も連作短編集かと思ったのですが、違いました。「夢幻諸島にある島々のガイドブック」という体裁をとって、ひとつの世界観を表現した「長編」だったのです。 チェスタ…

リックの量子世界(デイヴィッド・アンブローズ)

幸福な家族と順調な仕事に恵まれているリックは、妻子が自動車事故にあう予感に襲われて現場に急行したものの、無残にひしゃげた車の中で愛妻のアンは息を引き取ろうとしていました。しかし、気がつくと妻は無事であり、事故にあったのは自分自身だったので…

ケイン・クロニクル 炎の魔術師たち 1(リック・リオーダン)

『ケイン・クロニクル3部作』に続く、新たなシリーズが始まりました。 エジプト考古学者を両親に持つカーターとセイディの兄妹は、古代ファラオの血を引く最強の魔術師でした。古代エジプト神のホルスとイシスと一体化して邪悪神セトを倒したものの、真の敵…

鴎外の恋 舞姫エリスの真実(六草いちか)

鴎外の『舞姫』のヒロイン・エリスにモデルがいたことは、かねてより知られていました。妹や息子たちによる手記によって、エリーゼなる女性が鴎外を追って来日していたことが残されているのです。 しかし、多くの鴎外研究者の長年の探求にもかかわらず、彼女…

黒書院の六兵衛(浅田次郎)

開城前夜の江戸城に官軍の先遣隊長として送り込まれた尾張徳川家の徒組頭・加倉井隼人が見たものは、宿直部屋に居座って動こうとしない御書院番士でした。 腕ずくで引きずり出す案は、城内の勝海舟からも官軍の西郷隆盛からも止められます。、無血開城は合意…

三途の川で落しもの(西條奈加)

橋から落ちて意識を失った小学生の叶人が気がつくと、そこは三途の川でした。叶人を待ち受けていたダ・ツ・エヴァ(脱衣婆)はアニメキャラの金髪美女で、県営王(懸衣爺)は役人風のおじさん。叶人が言葉からイメージした通りの姿を見せているようです。 し…

かの名はポンパドール(佐藤賢一)

ルイ15世の寵姫であったポンパドール侯爵夫人といえば、フランス・ロココをを代表する美女であり、王室財産を浪費してフランス革命の遠因を作った女性として知られています。フランス歴史小説の第一人者である著者が、彼女の本質に迫ります。 平民という身…

壺中の回廊(松井今朝子)

江戸時代の歌舞伎界を舞台にした物語を得意とする著者ですが、本書の舞台は昭和5年。7年前の関東大震災の記憶もまだ新しく、2年前のアメリカ大恐慌の影響を受けた不景気の中で労働争議が多発した年。特高による国民の締め付けも厳しくなっていき、日本の…

ダイヤモンド・エイジ(ニール・スティーヴンスン)

21世紀半ば、ナノテクを使いこなすようになった文明社会は激変しています。国家の枠組みは崩れ去り、人種・宗教・価値感などを共有する者の集まりからなる「多様な国家都市」に細分化されているのですが、どことなく19世紀の香りを感じさせます。 高い文…

ビブリア古書堂の事件手帖 3(三上延)

古書に秘められた「言葉」を読みとっていく鎌倉の古書店主・栞子と無骨な青年店員・五浦を中心にしたシリーズ第3作は、父子を置いて家を出た栞子の母・智恵子と娘たちの関係を中心に展開されていきます。 プロローグ『王さまのみみはロバのみみ』 栞子の妹…

神の棘(須賀しのぶ)

中学時代から『第三帝国の興亡(ウィリアム・L・シャイラー)』や『背教者ユリアヌス(辻邦生)』を愛読していたという著者にとって、「ナチスとカトリック」というテーマは避けては通れなかったものなのでしょう。1930年代のナチス勃興期から戦後のニ…

ようこそ、わが家へ(池井戸潤)

2013年の新刊文庫ですが、雑誌に連載されていたのは2005~2006年。大幅に加筆修正されているのでしょうが、もともとは『空飛ぶタイヤ』よりも前に書かれた作品です。 銀行で出世コースに乗れず、中小企業に総務部長として出向している平凡で真面…

平等ゲーム(桂望実)

『県庁の星』に始まって『嫌な女』や『ハタラクオトメ』など、「闘う女性の物語」を描くことが多かった著者にしては珍しく、「闘わない男」が主人公。 瀬戸内海あって約1600人の住民が「全員平等」という鷹の島は、仕事は4年ごとの抽選で決まり、住居も…

こうしてお前は彼女にフラれる(ジュノ・ディアス)

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の語り手であった、オスカーの友人ユニオールが本書の主人公的な存在ですが、彼には著者自身の人生が投影されているようです。 このユニオールがとんでもない人物なのです。米国に移民したドミニカ人の息子という貧しい…

ホテルローヤル(桜木紫乃)

道東の湿原を背にして建てられた同名のラブホテルが実家だったという著者による、ホテルを舞台に織り成す7編の連作短編は、2013年上半期の直木賞受賞作です。例によって、閉塞感の漂う土地に暮らす不甲斐ないダメンズたちが多く登場しますが、女性たち…

名もなき人たちのテーブル(マイケル・オンダーチェ)

2014年の1冊めは、スリランカに生まれたカナダの詩人による、少年のイニシエーション物語です。 おそらく著者の分身である11歳の少年マイナが経験した、故国スリランカから母が待つイギリスへの3週間の船旅。それは、少年を大人へと変貌させる旅とな…