りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/8 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

大阪の夏は暑い。去年でも悶死するほどだったのに、今年は狂死するほど暑い。でも、本の世界はもっと熱いのです。たとえエアコンの効いた車内や室内で読んでいても。 大作家たちの新作はもちろん素晴らしかったけど、須賀しのぶさんや紅玉いづきさんといった…

小説フランス革命10 粛清の嵐(佐藤賢一)

1793年5月31日のパリ蜂起の主役は、貧しい多数派であるサン・キュロットたちから絶大な支持を受ける「デュシェーヌ親爺」ことエベールでした。「精神的な蜂起や道徳的な暴動」を解いてきたロベスピエールも、「人間味あふれる革命家」ダントンも置き…

硝子の葦(桜木紫乃)

『氷平線』や『凍原』などで、北の国に生きる女たちの壮絶な生きざまを描いてきた著者の作品の中でも、本書の主人公・幸田節子の生き方はとりわけ強烈です。ふしだらな母を愛人として囲った男・幸田喜一郎と高校時代に関係を持ち、後には結婚。しかも勤め先…

母の遺産-新聞小説(水村美苗)

「今日、母が死んだ」で始まる有名な小説(『異邦人』)を思い浮かべながら、凄まじかった母の晩年をなぞる中年娘の美津紀。幼い頃から娘たちを振り回してきた自分本位な母との葛藤の終着駅は、痴呆と老醜に耐える介護の日々。「ママ、いったいいつになった…

編集ガール!(五十嵐貴久)

出版社の経理部に勤める27歳OLの久美子が、ワンマン社長の命令でいきなり新雑誌の編集長に就任。適当に書いた企画書が通ってしまったのです。経験もやる気もないのに「女性ファッションの通販雑誌」の創刊なんて不可能。しかも結婚を前提に付き合ってい…

永遠の曠野-芙蓉千里3(須賀しのぶ)

大陸に売られた孤児フミこと芙蓉が芸妓から舞姫へと変容していった『芙蓉千里』と『北の舞姫』に続くシリーズ最終巻。ここで芙蓉はさらなる大変身を見せてくれます。初恋の人・山村健一郎こと楊健明を追って極寒のシベリアで再会。不世出の舞姫は恋ゆえに芸…

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

今年前半の話題を攫ったベストセラーの、図書館からの借り出し順番が、ようやくまわってきました。 本書もまた、村上さん得意の「喪失と回復の物語」といって良いのでしょう。36歳のつくるは、大学2年の夏に高校時代の男女4人の親友たちから理由も告げら…

空気の名前(アルベルト・ルイ=サンチェス)

メキシコの作家によるこの小説は印象的な言葉で始まります。「そんなふうに見ていては、水平線は存在しない。視線が水平線を作るんだ。まばたきするたびに崩れる一本の糸」・・散文詩的です。 北アフリカの架空の港町モガドール。若い娘ファトマは、海辺の家…

夜に生きる(デニス・ルヘイン)

重厚な歴史大作であった『運命の日』の続編は、ダニー・コグリンの弟ジョーを主人公としたクライム・ノヴェルでした。あれから10年後の、禁酒法時代末期のボストン。市警幹部の息子でありながらギャングの手下になっていたジョーは、強盗に入った賭博場で…

アバウト・ア・ボーイ(ニック・ホーンビィ)

亡父の印税で高等遊民生活をおくっている36歳のウィルは、シングル・マザーとの気楽な関係に味をしめて、シングル・ペアレンツの会に乗り込みます。このためにシングル・ファーザーになりすますのですから、動機も不純で、行動は変態的。しかしそこで出会…

時間のなかの子供(イアン・マキューアン)

童話作家として成功しているスティーブンとジューリーの夫婦の幼い娘ケイトは、3年前にスーパーマーケットの混雑の中で誘拐されてしまっています。では本書は、失われた娘を求める夫婦の苦闘と再生物語なのかというと、全然そうはならないところがマキュー…

ジュリアとバズーカ(アンナ・カヴァン)

ヘロイン中毒を抱え、一度ならず自殺を試み、精神病院に入院していたこともある著者の作品は、「自伝と同義」と評されることがあります。確かに「不安や疎外感に満ちた強烈なビジョン」を特徴とする小説群は、基本的に「全て同じ物語」なのかもしれません。 …

そのころスイスは(オットー・シュタイガー)

「第2次大戦中のスイス人作家の青春」と副題を持つ本書は、枢軸国に包囲されていたスイスがいかにして中立を保ったかについて、大上段に振りかぶった歴史書ではありません。一兵卒として徴兵に借り出された駆け出しの若い作家による、戦争当時に見聞きした…

RDG6 レッドデータガール 星降る夜に願うこと(荻原規子)

前巻で「数千年の時を翔る姫神の正体」や「迫り来る人類滅亡の未来」などの壮大なテーマが明かされましたので、本当にこれで最終巻となるのか信じられなかったのですが、こういうエンディングだったのですね。 学園の目的が明らかにされ、影の生徒会長・村上…

八年後のたけくらべ(領家高子)

1896年(明治29年)に24歳で亡くなった樋口一葉の、没後100年というタイミングで書かれたオマージュ小説です。一葉の代表作である『にごりえ』と『たけくらべ』を再構成した2作品には、著者の一葉に対する深い尊敬の念を感じます。一葉の本編に…

ミミズクと夜の王(紅玉いづき)

先に読んでしまった続編『毒吐姫と星の石』が面白かったので、こちらも借りてきました。 魔物のはびこる夜の森を訪れた少女は、額に焼印を押され、両手両足には鎖を巻きつけたままの逃亡奴隷でした。自らをミミズクと名乗る少女の願いは、たったひとつ。フク…

LAヴァイス(トマス・ピンチョン)

なんとピンチョンが著した探偵小説は、ハードボイルドのプロットに忠実です。つまり「美女の依頼」→「無関係に見える殺人事件」→「探偵への恐喝と暴行」→「それが手がかりになって意外な事実が判明」→「ほろにがい真相」という流れを踏襲しているのです。 し…

岳飛伝2(北方謙三)

梁山泊は動き始めます。新たな頭領となった呉用が方針を示さず、事務的な現状維持に努めていたのは、各人に今後の進むべき道を考えさせるためでした。その背景には、かつて楊令に全てを託しすぎたという重鎮たちの忸怩たる思いがあったのです。しかし容易に…

岳飛伝1(北方謙三)

『水滸伝』から『楊令伝』へと虚実入り混じりながら続いた超大作の最終シリーズが、ついに始まりました。 まずはおさらいをしておきましょう。北宋を崩壊に導いた梁山泊が頭領・楊令の下で模索した新しい国の形。それは西域から日本までを結ぶ東西交易と自由…

あい(高田郁)

幕末から明治にかけての蘭学医師・関寛斎は、徳島藩の藩医として戊辰戦争に従軍し、維新政府から高い評価を受けたにもかかわらず市井に留まり続けたこと。さらには72歳にして北海道陸別町の開拓事業に全財産を投入して広大な牧場を拓き、自作農創設を志し…

アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること(ネイサン・イングランダー)

厳格なユダヤ教徒の家庭に育ったユダヤ系アメリカ人作家による短編集は、徹頭徹尾「ユダヤ人であること」をテーマに据え続けます。ホロコーストの地獄を生き延びた者たちは、約束の地パレスチナに新天地を求めた民族は、「選ばれた民」なのか。著者の意見は…

東洲しゃらくさし(松井今朝子)

寛政年間のほんの一時期、彗星のように登場して消え去った謎の絵師、写楽の正体については、。阿波の能役者・斎藤十郎兵衛、歌川豊国、葛飾北斎、喜多川歌麿、司馬江漢、谷文晁、円山応挙などの絵師から、山東京伝、十返舎一九、谷素外など、多くの人物の名…

毒吐姫と星の石(紅玉いづき)

とっても楽しい作品でした。「和製ファンタジー」の担い手というと、荻原規子さんや、上橋菜穂子さんや、小野不由美さんらの名前があがりますが、ライトノヴェル作家の中から新しい世代が育っているんですね。中世騎士やグリムの世界をクール・ジャパン風に…