りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/3 不滅(ミラン・クンデラ)

「新潮クレストブックス」から1冊、「白水社エクスリブリス」から4冊をまとめて読みました。どちらも優れた海外小説を翻訳して継続的に出版してくれる貴重なシリーズであり、新刊発行が止まっている「ハヤカワepiブックプラネット」のようにはならないで欲…

コブラ(フレデリック・フォーサイス)

南米コロンビアから流入するコカイン産業の撲滅を決意したアメリカ大統領は、「コブラ」の異名を持つ元CIA工作員のポール・デヴローに白紙委任状を与えます。冷戦を戦い抜き、9.11の直前にはビン・ラディンを追い詰めていたコブラは、かつて彼の前に…

ルパン傑作集6.水晶栓(モーリス・ルブラン)

ルパン自身が「生涯最大の難事件」と語った事件は、フランスで実際にあった「パナマ運河疑獄事件」という巨大な政治的背景、悪徳代議士ドーブレックという強敵、水晶栓という難解な謎、美女クラリス・メルジという手強い恋の相手と、4拍子揃った作品に仕上…

無分別(オラシオ・カステジャーノス・モヤ)

エル・サルバドルを追われて「南米のある国」に移住したジャーナリストの主人公が、その国の軍による先住民大虐殺の報告書を校閲する仕事に携わります。「ある国」とはグアテマラであり、「アルゼンチンやチリで行われたことなど、グアテマラに較べたら子供…

起終点駅(ターミナル)桜木紫乃

『ラブレス』で直木賞候補となった桜木さんの新作短編集は、北の大地に生きる人々がすれ違うときに生れる「出会いと別れ」ということなのでしょうか。 「かたちないもの」 化粧品会社で幹部として働く真理子に届いた手紙は、かつての上司であり、恋人でもあ…

手紙(ミハイル・シーシキン)

戦地に赴いたワロージャと、町に残された恋人サーシャの間のラブレターが織り成す物語・・と思いきや、読み始めてすぐに違和感が漂ってきます。それもそのはず、ワロージャは義和団事件の鎮圧のために1900年の中国に赴いたロシア兵であり、サーシャは2…

赤と黒(スタンダール)

本書を読んだことがない人でも、「美青年ジュリアン・ソレル」の名は聞いたことがあるのではないかと思います。ナポレオン失脚後の王政復古社会で、美貌と知力を武器に階級の壁を跳び越えようとした野心的な青年が挫折する物語。時は1830年、パリで起き…

金閣寺(三島由紀夫)

60年近く前の1956年に出版された小説ですが、いまだに輝きを失っていない作品です。吃音というコンプレックスを抱えて育った青年・溝口が、完璧な美の象徴と思い描いていた「金閣」を「焼かねばならぬ」と思い込み、行動に移すに至った理由は何だった…

ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ(キルメン・ウリベ)

バスク人の著者によってバスク語で書かれた小説です。バスクの中心都市ビルバオからニューヨークへ向かうフライトの最中に思い浮かべた記憶が綴られていくというスタイルは、マイノリティ言語を用いて世界に向けて発信しようとする小説にふさわしいですね。 …

アンデスのリトゥーマ(マリオ・バルガス=リョサ)

アンデス山中奥地のインディオの村ナッコスに赴任しているペルー治安警備隊のリトゥーマ伍長が遭遇した不思議な事件の物語です。あいついで姿を消した3人の男の行方を追うリトゥーマと助手トマスでしたが、無表情なインディオたちは非協力的で心を開かず、…

ルパン傑作集5.ルパン対ホームズ(モーリス・ルブラン)

本書の原題は「アルセーヌ・ルパン対エルロック・ショルメ」。コナン・ドイルから「シャーロック・ホームズ」の使用を断られた著者が、アナグラムで姓名のHとCを入れ替えた名前であり、キャラも微妙に違うのですが、日本では通常「ホームズ」としていると…

ルパン傑作集4.強盗紳士(モーリス・ルブラン)

「傑作集」の第4巻ですが、実際にはこれらの短編のほうが初期の作品になります。 いきなりルパンの逮捕からはじまる第1作や、6歳の時の最初の盗みや、著者ルブランがルパンと知り合いになったきっかけの事件など、全体として若い時期のルパンの活躍が描か…

双頭のバビロン(皆川博子)

世紀末のウィーン。オーストリア貴族グリースバッハへ家の血をひく双子は身体の一部が繋がっていた「シャムの双子」でした。2人を切り離す手術は成功し、ひとりは名家の跡取りゲオルグとして、もうひとりのユリアンは存在を抹消されてボヘミアの癲狂院「芸…

天使のゲーム(カルロス・ルイス・サフォン)

『風の影』に続いて、バルセロナの「忘れられた本の墓場」が登場する作品ですが、時代は30年ほど遡って1917年。17歳の孤児ダビッドは雑用係を務めていた新聞社から短編を書くチャンスを与えらます。いつしか本格小説をものしたいとの願いを秘めつつ…

陰陽師~酔月ノ巻(夢枕獏)

すべてを見とおしてしまう稀代の陰陽師・安倍晴明と、心優しき笛の名手・源博雅が、平安の都で起こる怪事件を解決する人気シリーズは、今年で25周年を迎えたとのこと。はじめからずっと、テーマもトーンも変わっていませんし、「偉大なるマンネリ」を極め…

ティンカーズ(ポール・ハーディング)

手巻時計が止まるまでの時間は8日間だそうです。本書は、時計修理人(ティンカー)だった80歳のジョージが死を迎える直前の8日間に見た幻想を描いた物語。病人用ベッドに横たわる彼の脳裏をかすめるものは、記憶とも思考とも感情とも幻覚ともいえる、夢…

カジュアル・ベイカンシー 2(J.K.ローリング)

貧困地区フィールズを支援していた若き教区会評議委員バリーの突然死による補欠選挙をめぐって、町の大人たちの対立が先鋭化していく中で、ティーンエイジャーの子どもたちが抱えていた不満も一挙に噴出。 亡くなった議員の名前を使い、市のサイトに父親の犯…

カジュアル・ベイカンシー 1(J.K.ローリング)

「ハリー・ポッター・シリーズ」の著者による新作です。イギリスの郊外町パグフォードで教区会評議委員を務めているバリー・フェアブラザーという住人が、40代という若さで突然亡くなったことから巻き起こる騒動を描いていきます。タイトルは議員の死去な…

満州国演義7 雷の波濤(船戸与一)

皇紀2600年の式典が盛大に挙行された昭和15年(1940年)。日本の運命は、大東亜戦争に向けての大きなうねりの中に飲み込まれていくかのようです。 すでに前年に独ソ不可侵条約のもとでポーランド分割を完了させていたドイツ軍は、1940年の5月…

ブルックリン(コルム・トビーン)

平易な文章で綴られる、平凡な少女のありふれた悩みが、いかに心を打つものなのか。小説なるものの原点を見る思いで、本書を読みました。時は1951年であり、舞台はアイルランドの田舎町エニスコーシーとニューヨークのブルックリンですが、たとえば現代…

晩鐘(乃南アサ)

殺人事件によって、被害者の家族も加害者の家族もともに損なわれてしまった『風紋』から7年後、心に癒しがたい傷を負った人々はどうしているのでしょうか。 母を殺害された時に高校生だった真裕子は、人と関わることを嫌って大学の農学部に進学したのですが…

黒王妃(佐藤賢一)

主人公のカトリーヌ・ド・メディシスは、フランス王アンリ2世の妻というより、ヴァロア朝の最後に相次いで即位した3兄弟(フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世)の治世に母后として摂政を務め、「サン・バルテルミの虐殺」を引き起こしてフランス宗…

不滅(ミラン・クンデラ)

映画化されて著者の名を世界的に高めた『存在の耐えられない軽さ』に続く長編ですが、完成度としてはこちらのほうが上でしょう。実際、著者らしき登場人物に「本書こそがそのタイトルにふさわしい」と言わせているのですから。 物語は、プールで目にした素敵…

風紋(乃南アサ)

家庭を顧みない父親と二浪して荒れる長女という問題を抱えていたとはいえ、普通の主婦であり母親であった女性が、突然殺害されてしまいます。逮捕された容疑者は、かつて長女も通い、今は次女も通っている女子高の教師。容疑者を巡る法廷ミステリ的な部分も…

カオス・シチリア物語(ルイジ・ピランデッロ)

「カオス」とはノーベル文学賞を受賞した著者の故郷である村の名前です。その名の通りに「混沌」とした村を舞台とした短編は、およそ100年前のシチリアの風土と結びついて寓話性の高い作品ばかり。1985年に公開された映画の原作にもなっています。と…