りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧

2013/1 エコー・メイカー(リチャード・パワーズ)

辻邦生さんの畢生の対策である『ある生涯の七つの場所』を一気に読むことができました、これまで断片的にしか読んでいなくて全貌を理解できていなかったのです。主人公たちのタテの物語のみならず、脇役にあたる人たちのヨコの物語が興味深いですね。もちろ…

日御子(帚木蓬生)

文字を有していなかった日本の古代史は謎に包まれていて、「漢委奴国王」の金印と「魏志」における「邪馬台国」の表記を除いては信頼に足る史料は存在していないと言い切れるほどです。しかも、金印と倭人伝の間には200年もの空白期間があるのです。 その…

ドリームガール(ロバート・B.パーカー)

スペンサーという私立探偵を主人公とするシリーズの一作であり、古典的なハードボイルド探偵ミステリです。今時珍しい。 かつて少女時代にスペンサーに救われた売春少女のエイプリルが、30代の美女となって再登場。もっとも「過去に救った」といっても、ひ…

最果てアーケード(小川洋子)

コミックの原作として書かれたという本書は、切ないけれども忘れがたい雰囲気に満ちています。「誰にも気づかれないまま何かの拍子にできた世界の窪み」という「世界でいちばん小さなアーケード」とは、ヨーロッパの小都市の片隅にひっそりと佇む古い商店街…

星の光、いまは遠く (ジョージ・R・R・マーティン)

『タフの方舟』の著者による第1長編です。 あまりに遠大な公転軌道を有するため銀河を彷徨っているかに見える辺境惑星ワーローンにダーク・トラリアンが降り立ったのは、かつての恋人グウェンに呼ばれたためでした。再会を喜ぶダークにグウェンが告げたのは…

小説フランス革命8 共和政の樹立(佐藤賢一)

パリに「正義」の名を借りた「狂気」の嵐が吹き荒れます。1792年8月10日のテュイルリー宮殿襲撃によるルイ16世一家の幽閉と王権停止、新たに召集された国民公会によるブルボン朝の廃止と共和政樹立の宣言まではまだ治安も保たれていたのですが、パ…

最後の暗殺者(ロバート・ラドラム)

「ボーン・シリーズ」最終作の原題は「ボーン・アルティメイタム」ですが、最後まで自らのアイデンティティを追及した映画と異なり、本書は仇敵の暗殺者カルロス=ジャッカルと最後の決着をつける展開になります。 ディビッド・ウェブとしての過去を取り戻し…

エコー・メイカー(リチャード・パワーズ)

脳というものは機能が分散されたモジュールではなく、各機能を司る箇所が損傷を受けても、別の箇所がそれを補おうとするとのことです。とはいえ失われた機能が完全に復元できるものではなく、その過程でさまざまな歪みがあらわえて来ざるを得ません。本書の…

光圀伝(冲方丁)

『天地明察』で渋川春海の「挫折と夢」を描いた著者による「徳川光圀伝」では、「光圀が生涯をかけて追及した大義とその限界」がテーマとなっています。2人の人生には重なるところもありますので、互いにクロスオーバーしている箇所も・・。 「水戸黄門」と…

ひなこまち(畠中恵)

『しゃばけ』シリーズも第11弾となりました。ひところ中だるみ感もあったものの、死生観や世界観を前面に出した重めの路線への転換は成功したと思います。前作と本作は少々軽めの路線に戻っていますが・・。 本書は、いつも元気に寝込んでいる長崎屋の若旦…

アイルランドの柩(エリン・ハート)

「アイルランドの泥炭遅滞で発見された古代の死体から始まる物語」というと、シヴォーン・ダウドの『ボグ・チャイルド』を思い起こしますが、そちらがアイルランド独立闘争と平穏な生活の狭間で揺れる高校生の心情を叙情的に描いた作品であるのに対し、こち…

無花果とムーン(桜庭一樹)

荒野に囲まれて孤立した無花果町に住む18歳の月夜は、家族の誰とも血は繋がっていず、紫の瞳と狼の歯を持つ「もらわれっ子」でした。それでも現実主義者である教師の父親と銀行員の長兄・一郎、明るくてカッコいい次兄の奈落に囲まれて不自由なく育ってい…

暴力の教義(ボストン・テラン)

1910年、メキシコ革命前夜。武器を満載してメキシコへ向かうトラックを強奪した男、犯罪常習者のローボーンは逮捕され、免責特権の条件として合衆国捜査局のメキシコ情勢の内偵に同行するという取引を行います。同行するのは若い捜査官ルルド。ルルドは…

神々の愛でし海(辻邦生)

最終巻である第7巻では、欧州を転々とした青年がアメリカ留学から戻ったエマニュエルと結ばれるまでが描かれます。一方で、エマニュエルの遠縁にあたるジュリアン・ブリュネが新聞記者として登場して過去の事件の謎解きを図り、「ヨコの物語」にも決着がつ…

椎の木のほとり(辻邦生)

シリーズ第6巻では、渡欧した父親の物語が成長した息子からの手紙と結びついていく「青の場所からの挿話」と、人民戦線の崩壊を生きた者たちの悲劇が描かれる「藍の場所からの挿話」の後半が綴られていきます。 【青の場所からの挿話】 「8.黒人霊歌」 タ…

国境の白い山(辻邦生)

シリーズ第5巻は、農業問題の調査に渡米した父親が日系アメリカ人の苦難に接する「青の場所からの挿話」と、それと同時代のスペイン内乱や国際旅団の参加者たちのさまざまな体験や報復の悲劇を綴る「藍の場所からの挿話」の前半です。 【青の場所からの挿話…

人形クリニック(辻邦生)

シリーズ第4巻では、社会主義に見切りをつけて欧州を立つまでの宮辺を追う「緑の場所からの挿話」と、主人公が大学を卒業して結婚するまでの「橙の場所からの挿話」の後半が綴られます。 【緑の場所からの挿話】 「8.人形(プッペン)クリニック」 ミュン…

雪崩のくる日(辻邦生)

シリーズ第3巻では、青年が日本近代史を調べて欧州各地で社会主義者・宮辺音吉の足跡をたどってゆく緑の場所からの挿話」と、山々に囲まれた都市の旧制高校に入学した少年の「橙の場所からの挿話」の前半が描かれます。 【緑の場所からの挿話】 「1.ドー…

夏の海の色(辻邦生)

シリーズ第2巻では、エマニュエルの渡米によって自由な恋愛に区切りがつく「黄の場所からの挿話」の後半と、成長した少年が幼年時代に終わりを告げるまでの「赤の場所からの挿話」の後半が綴られます。 【黄の場所からの挿話】 「8.泉」 チロルの村に滞在…

霧の聖マリ(辻邦生)

壮大なシリーズ「ある生涯の七つの場所」の第1巻では、恋人エマニュエルとともに欧州を転々としながら人民戦線や内戦の遺した傷跡に触れる「黄の場所からの挿話」と、少年が朧げな女性観や死生観を認識していく過程の「赤の場所からの挿話」の前半が、交互…

ある生涯の七つの場所(辻邦生)

辻邦生さんが15年間かけて書き進めた本書は、エピローグまで入れると60年に渡る期間の歴史と個人の関わりを描いた大河小説でありながら、短編連作集という様式を取っています。虹の七色「赤橙黄緑青藍菫」になぞらえた各14編の7つのシリーズにプロロ…