りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/9 背教者ユリアヌス(辻邦生)

前月の『カラマーゾフの兄弟』に引き続いて、ドストエフスキーの『罪と罰』を再読しましたが、「世界の名作」の上位に名を連ねる作品ですから、やはり別格扱いが妥当というものでしょう。 久しぶりに初読の優れた作品が多くて今月のランキングは迷いましたが…

ボーン・レガシー(ロバート・ラドラム)

本書の実際の著者はドラムエリック・ヴァン・ラストベーダーという人物であり、ラドラムは原案者となっていますが、傑作『暗殺者シリーズ』の続編ですので、ラドラムの名前で紹介しておきます。 映画の「ボーン3部作」はかなり手が加えられているので、そち…

珈琲相場師(デイヴィッド・リス)

コーヒーがヨーロッパに広がりつつあった17世紀のこと。アムステルダムの商品取引所を舞台にしたコーヒー相場を巡って術策を繰り広げる商人たちの物語です。 主人公はポルトガルからオランダに脱出してきたマラーノ(改宗ユダヤ人)のミゲル。宗教には比較…

強力伝・孤島(新田次郎)

日経新聞の文学作品の故地を訪ねるシリーズ・コラムで、「強力伝」で金時と呼ばれた主人公の娘さんが存命であることが紹介されていました。通称「金時娘」の妙子さん(小説では鶴子)は、今も元気で金時茶屋の看板娘(?)だそうです。 表題作は、白馬山頂に…

黄金の少年、エメラルドの少女(イーユン・リー)

『千年の祈り』の著者による第2短編集です。この人は本当にうまくなりました。前作では彼女の頭の中に存在する観念的な中国を描いているように思えたものですが、この作品では現実に存在している中国の物語のように読ませてくれます。9編の作品のテーマは…

どこから行っても遠い町(川上弘美)

川上さんは作家として「意地悪な人」ではないかと思います(笑)。 東京の下町にある商店街を舞台としたこの連作短編集では、何気ない普通の人間関係の奥に潜んでいる「何か得体の知れないもの」をむりやり暴き出そうとしているように思えるのです。ただ、最…

ヴィットーリオ広場のエレベーターをめぐる文明の衝突(アマーラ・ラクース)

アルジェに生まれ育ってアルジェ大学哲学課を卒業した後に、ローマ大学で文化人類学の博士号を取得した著者の作品は、「ミステリー仕立てのイタリア式喜劇?」と紹介されていますが、なかなか深い。 ローマ駅裏にあるヴィットーリオ広場に面したアパートで、…

この世は二人組ではできあがらない(山崎ナオコーラ)

恋愛映画やラブソングの世界では、カップルこそが全てであるかのように描かれますが、社会の構成単位は常にそうでなくてはならないのでしょうか。 川を2つ越えた先にある「彼」の狭いアパートで大学卒業後の半同棲生活が営みながら、主人公の女性は小説家を…

裁きの曠野(C・J・ボックス)

家族と自然を愛する心優しいワイオミング州の猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズ第6作になります。ただし1作未訳があるとのことで日本では5作めの紹介。 第1作の『沈黙の森』以来、次々降りかかる公私にわたる困難事を乗り越えてきたジョ…

夏の涯ての島(イアン・R・マクラウド)

いかにもイングランド的な叙情系SF短編が並ぶ秀作です。こういう雰囲気は好きですね。とりわけ「チョップ・ガール」から「夏の果ての島」までの3作、歴史を感じさせる作品が気に入りました。 「帰還」地球軌道に捉えられた小型ブラックホールへの突入ミッ…

アイルランド・ストーリーズ(ウィリアム・トレヴァー)

アイルランドのストーリーテラーによる『聖母の贈り物』に続くベスト・コレクション第2弾は、そのものズバリのタイトルだけあって、アイルランド紛争を背景とした粒よりの短編が揃っています。 「女洋裁師の子供」奇跡を起こしたとされる聖母像に観光客を案…

罪と罰(ドストエフスキー)

『カラマーゾフの兄弟』に続いて、亀山郁夫さんの新訳で再読しました。 物語は誰でも知っての通り。頭脳明晰であるものの貧しい元大学生ラスコーリニコフが、「非凡人はあらゆる犯罪をおかし勝手に法を踏み越える権利を持つ」とする独自の犯罪理論をもとに、…

蛍川・泥の河(宮本輝)

著者のデビュー作にして太宰治賞を受賞した「泥の河」は、昭和30年の大阪に生きる少年が、現実の社会や生と死に初めて接する体験を描いた情緒溢れる作品です。 戦後10年経っているとはいえ近代化はまだ遠く、前時代的な雰囲気が漂う大阪。川にはポンポン…

オウン・ゴール(フィル・アンドリュース)

イングランドのプレミア・リーグに所属するサッカー・チームを舞台にして起きた事件を巡る、「ハードボイルドもどきのミステリ」です。 主人公は30代で失業中、さらに妻との離婚手続き中のスティーブン・ストロング。いわば冴えない中年男なのですが、なん…

アーサー王と円卓の騎士(ローズマリ・サトクリフ)

「サトクリフ版アーサー王物語」は全3部作。第1作である本書では、アーサー王の誕生から聖杯の騎士パーシヴァルの登場までが描かれます。 本書には、魔術師マリーンの誕生と予言、アーサー王の誕生と「石に刺さった剣」や「湖の剣」のエピソード、王妃グウ…

僕僕先生6 鋼の魂(仁木英之)

このシリーズも第6作になりました。はじめは美少女姿の仙人に惚れた純情青年の冒険譚でしたが、途中から一気に深いテーマを扱うようになってきたシリーズです。そのあたり、プロットとキャラで売り出した「しゃばけシリーズ」が、次第に死生観、宇宙観を帯…

名被害者・一条(仮名)の事件簿(山本弘)

名探偵の陰に、名被害者あり。 名探偵となる最大の資質は、確率の法則を無視して頻繁に事件に出くわすことだそうです(笑)。では、頻繁に殺人者と遭遇して殺されそうになる「名被害者」と呼ばれる存在はいるのでしょうか。本書の答えはYESです。しかも「…

背教者ユリアヌス(辻邦生)

辻邦生さんの作品を再読しはじめて、ようやくこの作品にたどり着きました。学生時代に読んで大きな感銘を受けた作品です。 ユリアヌスとは、キリスト教を国教と定めたコンスタンティヌス大帝の甥として生まれながら、皇帝即位後には古代からの信仰を復活させ…

プラハ冗談党レポート(ヤロスラフ・ハシェク)

第一次大戦に徴兵されてロシアで捕虜となった体験を反戦ユーモア小説とした『兵士シュヴェイクの冒険』で知られる著者は、1911年のハプスブルグ支配下のプラハで政党を結成し、政治活動を行っていたことがあるそうです。そのとき著者は28歳。 その政党…

光線(村田喜代子)

2010年夏から「地の力、地の霊力」というようなものについての連作を開始して、2篇書いたところで大異変が起きたとのこと。ひとつは3月11日の大震災であり、もうひとつは著者自身の子宮ガン発覚と摘出手術。その後鹿児島の病院でのX線のピンポイン…