りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/8 存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ)

『カラマーゾフの兄弟』を再読しましたが、さすがにこれは別格ですね。やはり再読ですが、ミラン・クンデラの『存在の耐えられない軽さ』を1位にあげておきましょう。新作では、リュドミラ・ウリツカヤさんの軽妙な作品が印象に残りました。 大阪に引っ越し…

カラマーゾフの兄弟 エピローグ・ドストエフスキーの生涯(ドストエフスキー)

短い「エピローグ」では、主人公たちのその後が描かれます。 善悪の深淵を合わせ持ちながら崇高なものへの憧れを失わないロシア人独自の生命力と魂を「カラマーゾフシチナ(カラマーゾフ気質)」として描き出した本書は、それだけで傑出しているのですが、少年…

カラマーゾフの兄弟 第4部(ドストエフスキー)

カラマーゾフ家の再会から父親フョードルの殺害、長兄ミーチャの逮捕までの濃密な3日間を描いた前3部のあと、物語は数ヶ月先に飛びことになります。 兄ミーチャの無実を信じるアリョーシャですが、彼が兄の裁判のためにできることなど知れています。アリョ…

カラマーゾフの兄弟 第3部(ドストエフスキー)

いよいよ物語は「父殺し」のクライマックスへと入っていくのですが、その前に不思議な異変が起こります。大往生を迎えたロシア正教のゾシマ長老の遺体からおぞましい腐臭が漂い出すのですが、それは、天国に召された者の遺体は腐らないというロシア的信仰と…

カラマーゾフの兄弟 第2部(ドストエフスキー)

第2部ではアリョーシャの慌しい1日を通じて、物語の本質を貫く2つの思想が語られます。 死の淵にある長老ゾシマを残して父フョードルの家に向かったアリョーシャは、父と長男ミーチャとの確執の深さを思い知らされ、帰路で仲間から苛められている少年イリ…

カラマーゾフの兄弟 第1部(ドストエフスキー)

光文社文庫から発行された亀山郁夫さんによる新訳を読みました。 この新訳に対しては賛否両論あるようですが、確かにストーリー展開は読み取りやすくなっていうものの、以前に原卓也さんの訳で読んだ際に感じた、本書の登場人物たちの重厚さは薄れてしまって…

ジェーン・エア(シャーロット・ブロンテ)

ブロンテ3姉妹の長女、シャーロットの代表作を久しぶりに読み返しました。 この作品が「奇跡的」なのは、ヨークシャーの田舎牧師の家に生まれながらヴィクトリア期を代表する小説家として名を遺した著者の生涯が「奇跡的」であるのみならず、当時の文学にと…

修道士カドフェル13 代価はバラ一輪(エリス・ピーターズ)

イングランドの王権をめぐるスティーブン王と女帝モードの戦闘は、一進一退のまま硬直状態に陥っているようです。ただしそのことは、シュールズベリのような地方都市にとっては平安無事を意味しています。そんな時代背景の中で起きた本書の事件は珍しく、き…

女が嘘をつくとき(リュドミラ・ウリツカヤ)

離婚や再婚を経験し、息子を育てながら働いている女性・ジェーニャが、人生の時々に出会った「嘘つきの女たち」を描いた連作短編です。 第1編が1978年の物語であり、最後の第6編が1998年の出来事のようですので、この間には20年という長い年月が…

連環宇宙(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

『時間封鎖』、『無限記憶』と続いた3部作の最終巻です。ついに驚愕のテクノロジーで人類に影響を及ぼした仮定体の意味が明らかになっていきます。 仮定体による時間封鎖を乗り越えて繁栄を続ける地球に、1万年後の未来に復活した人々による物語を綴る謎の…

テロルの嵐(ゴードン・スティーヴンズ)

後に『カーラのゲーム』を書く著者のデビュー作です。本書はいわば国際的謀略のチェスゲームのようなもので、数多くの人物が登場するのですが、主役級はPLO強硬派の心優しいテロリストのワリドでしょう。 陰謀を企てるテロリストの側には、IRA暫定派や…

存在の耐えられない軽さ(ミラン・クンデラ)

日本では小説よりも先に映画で有名になった作品ですが、本書は、いきなり読者を身構えさせてしまいますね。「永劫回帰の世界ではわれわれの一つ一つの動きに耐え難い責任の重さがある」とするニーチェ哲学に対して、「たった1回限りの人生の限りない軽さは…

可笑しい愛(ミラン・クンデラ)

旧題『微笑を誘う愛の物語』の決定版とされたフランス語版からの新訳です。「プラハの春」以前の1959年から63年に書かれた初期の短編集なのですが、その後何度も手を入れたとのことですので、時代性は後景に退いています。その分「政治的不条理と自己…

伝授者(クリストファー・プリースト)

後に『魔法』、『奇術師』、『双生児』などの作品で独特の世界を築きあげた著者の処女長編ですが、本書においても途中までは先の見えない展開で、読者を迷路に入り込ませてしまいます。 南極大陸の氷の下にある集中研究所でウェンティック博士が行っていた機…

西行花伝(辻邦生)

晩年の作品ですが、『廻廊にて』や『夏の砦』など初期の小説に返ったようなテーマです。平安末期に生きて北面の武士から出家した歌人・西行の生涯を、彼が故人となった後に、弟子がフォロワーとして再現していくとの構成も似ています。 従ってテーマにも構成…

月に繭地には果実(福井晴敏)

この本は映画とタイアップした「ガンダム続編」だったんですね。 もともとのガンダムの物語をまったく知らずに読むというのは無謀だったかも・・。 どうやら本書の時代は、オリジナル・ガンダムの時代からすでに数千年後であり、いったんは荒廃して歴史も文…

郭公の盤(牧野修)

いわゆる「伝奇ロマン小説」ですが、最後はちょっと破綻してしまったようです。 イザナギ・イザナミの神話時代に端を発する「郭公の盤」とは、古くは卑弥呼が用い、古代中国でも模倣された形跡があり、平家滅亡とともに行方をくらまし、終戦末期に本土決戦を…

豊饒の海4 天人五衰(三島由紀夫)

かつては裁判官として人を裁き、また弁護士として人を救ってきた本多ですが、80歳に近くなって老醜をさらすようになります。妻を失って後遊興にふけり、公園での覗き見に快感を覚えるようになった本多に残されているのは、自分が転生の奇跡とともにあると…

豊饒の海3 暁の寺(三島由紀夫)

第1部『春の雪』では松枝清顕、第2部『奔馬』ではその生まれ変わりとされる飯沼勲の視点から書かれていたのに対し、これまで観察者の役割を果たしてきた本多の視点から書かれた本書では、「転生」というテーマの意味が大きく揺らぎ、起承転結の「転」にあ…