りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/6 ゴヤ(堀田善衞)

堀田善衞さんの『ゴヤ』は大きな収穫でした。ナポレオン戦争に端を発する内乱の時代を生きた巨匠ゴヤの評伝の主題は、歴史なのか、個人なのか。著者が自ら表面に出て語るのは、小説なのか、評伝なのか、それとも著者の思いなのか。独特のスタイルの作品です…

氷平線(桜木紫乃)

道東の大地を舞台に繰り広げられる6篇の男と女の物語は、閉塞感に満ちた世界でありながら、その一方で力強い生活感に溢れた作品となっています。『ラブレス』や『ワン・モア』の原点がここにあるんですね。 「雪虫」札幌で破産して十勝平野の実家に戻り、家…

史記武帝紀7(北方謙三)

シリーズ最終巻は、『三国志』や『水滸伝』、『楊令伝』と比較しても纏まりのいい、それでいて爽やかな余韻を遺したエンディングとなりました。 ようやく死を意識し始めた武帝・劉徹は、それまでの老醜から抜け出たかのように最後の輝きを放ちます。ただし、…

夜のサーカス(エリン・モーゲンスターン)

1885年に天才プロデューサーのチャンドレッシュの企画によって生まれたサーカスは、元プリマバレリーナのセンスや、建築家の技術や、美人姉妹の審美眼を注ぎ込んだ豪奢で魅惑的なイベントとして話題を集めます。 黒と白のテント、風変わりなからくり時計…

ゴヤⅣ 運命・黒い絵(堀田善衞)

独立戦争に「勝利」したはずのスペインですが、復位したフェルナンド7世の反動政治は文化人の大半を弾圧や迫害の対象としていきます。友人たちも次々に投獄されていく中で、ゴヤも「裸のマハ」が公序良俗を侵害する作品と批判され異端審問所に召喚されます…

ゴヤⅢ 巨人の影に(堀田善衞)

ゴヤが51歳となった1807年に、ナポレオン率いるフランス軍がスペインへ侵攻。翌年にはブルボン王室が追い出されて、ナポレオンの兄ジョゼフがスペイン王位につくとスペインは独立戦争の時代に入ります。全土でゲリラ戦争が勃発するのです。内乱のきっ…

ゴヤⅡ マドリード・砂漠と緑(堀田善衞)

40歳でアカデミー会員に、43歳で新王カルロス4世の宮廷画家となったゴヤは、まるで写真屋を開いたかのように王侯貴族からの注文を次々とこなしていきますが、46歳の時に不治の病に侵されて聴力を失ってしまいます。 しかし彼の代表作とされる作品の大…

ゴヤⅠ スペイン・光と影(堀田善衞)

著者はゴヤの生涯の前景として、18世紀末のスペインの状況から語り始めます。イスラムを追い落して豊かな南部を侵略して、不寛容なカトリックを国教としたスペイン帝国は、新大陸の発見と征服・植民地化とは裏腹に、わずか3世紀間に人口が半分になるほど…

潮流の王者(パット・コンロイ)

映画「サウス・キャロライナ」の原作ともなった本書を再読したのは、主人公の構成が大江健三郎さんの『同時代ゲーム』と似ていると感じて、確認しようと思ったためです。 何度も自殺をはかる詩人の姉サヴァナを救うために、精神科医スーザンに家族の歴史を語…

残念な日々(ディミトリ・フェルフルスト)

ベルギーのフランダース地方の貧しい村で生まれた著者による自伝的連作短編には、残念な男たちが溢れています。祖母の家に身を寄せている離婚した父親と独身の叔父たちは、ビールと生のミンチ肉を主食とし、猥歌を大声で歌い、女性にはすぐに手を出し、もち…

ルーズヴェルト・ゲーム(池井戸潤)

野球を愛したルーズヴェルト大統領は「一番おもしろい試合は8対7だ」と語ったそうです。とはいえ同じ得点にもさまざまなパターンがあり、逆転また逆転のシーソーゲームもあれば、「0対7」からの大逆転劇もあるのです。 本書は、リーマンショック後の業績…

玉村警部補の災難(海堂尊)

『チーム・バチスタの栄光』から続く「田口・白鳥シリーズ」の脇役が、桜宮警察署の玉村誠警部補。彼の視点で、病院の不定愁訴外来責任者の田口公平と一緒にさまざまな事件を振り返ります。実質的な主人公は「デジタル・ハウンドドッグ」こと加納警視正です…

居心地の悪い部屋(岸本佐知子/編訳)

「ダークサイドのアンテナ」を持つ翻訳者、岸本佐知子さんが編集したアンソロジーには、読者に不思議な不安感を起こさせる作品が揃っています。「居心地の悪い部屋」にようこそ。 「ヘベはジャリを殺す(ブライアン・エヴンソン)」 親友どうしの2人が穏や…

氷山の南(池澤夏樹)

「スケールの大きな21世紀の冒険小説」との触れ込みでしたが、期待外れでした。少年が大人になるための「通過儀礼」のために、無駄に大げさな舞台装置を設定したように思えます。 2016年、ニュージーランドの大学を卒業したばかりの18歳のジン・カイ…

戦闘機(レン・デイトン)

ル・カレと並び称される英国スパイ小説の大御所による「バトル・オブ・ブリテン」は、史上初めて登場した戦闘機による戦争を、兵器開発や生産体制、戦術や戦略の優劣などを含めて克明に解析し、イギリス空軍に対して圧倒的な航空戦力を持っていたドイツ空軍…

姿三四郎 人の巻(富田常雄)

最強の柔道家と謳われる三四郎の前に、最後の強敵が現れます。三四郎と同様の天分を持ち、最強の柔術家として九州から登場した津久井譲介には三四郎の必殺技・山嵐が通用しないのです。一方、これまで無心で勝利を得てきた三四郎でしたが、自分の勝敗に柔道…

姿三四郎 地の巻(富田常雄)

柔術諸派との対戦に勝利した紘道館柔道が人気を博し、最強の柔道家として名声をあげた三四郎でしたが、闘いは終わりません。次なる相手はアメリカ人ボクサーや、兄・桧垣源次郎の敵討ちを目論む狂犬のような唐手家、桧垣鉄心と源三郎の兄弟でした。これはも…

姿三四郎 天の巻(富田常雄)

柔道草創期の加納治五郎と講道館四天王らの異種格闘技戦を迫真の描写で綴った夢枕獏さんの『東天の獅子』を読んで、四天王の中で最強と言われた西郷四郎をモデルとした本書を読んでみたくなりました。以前、映画では見たんですけどね。 第1巻「天の巻」は、…

顔のない軍隊(エベリオ・ロセーロ)

『無慈悲な昼食』の著者の出世作です。 南米の僻村でのんびり暮らしているかのような元教師の老人イスマイルの趣味は、隣家のブラジル人の奥さんが裸で家にいる姿を覗き見すること。長く連れ添った老妻オルティアからは、いつもたしなめられています。 こん…