りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/5 悪い娘の悪戯(マリオ・バルガス=リョサ)

1.悪い娘の悪戯(マリオ・バルガス=リョサ) ペルーの上流階級に育った少年リカルドが恋に落ちた少女は、とんでもない悪女でした。彼女は生涯に渡ってリカルドを翻弄し続けるのです。パリ、ロンドン、東京、マドリッドと、時代と世界を股にかけたS女とM…

ロスト・シティ・レディオ(ダニエル・アラルコン)

長い内戦状態にあった南米の架空の国では、多くの人々の消息が失われていました。村の少年たちは政府軍にもゲリラ組織にも身を投じて消息を絶ち、崩壊した村から流入した人々で首都のスラムは膨張し、しかもそのスラムで激戦が戦われたのです。 家族や恋人の…

ボートの三人男(ジェローム・K・ジェローム)

古きよき時代の19世紀後半のロンドン。休暇を利用してテムズ川のボート旅行を計画した、男3人と犬1匹の珍道中を描いた傑作ユーモア小説です。ボート旅行を計画したきっかけは、医学事典を読んだ主人公がほとんど全ての病状にあてはまると気づいてしまい…

風のダンデライオン(川端裕人)

少年少女サッカー小説の傑作『銀河のワールドカップ』の前日譚ですが、主人公は『銀河』でもスピードスターとして活躍する高遠エリカという女子小学生。「なでしこジャパン」のワールドカップ優勝を意識して書かれた作品なのでしょう。 チームが解散してコー…

ガープの世界(ジョン・アーヴィング)

社会現象となるほどのベストセラーとなった、アーヴィングさんの第4作めの長編で、いまだに「代表作」といわれ続けている作品を再読しました。とにかく大好きな小説です。 後に女性解放のリーダー的存在となる看護婦ジェニーを母親に、死を目前にした兵士を…

マグマ(真山仁)

『ハゲタカ』で外資系ファンドの視点から、日本という仕組みの危うさを描いた著者が、エネルギー問題に挑んだ作品です。 地熱発電会社の再建を任された外資系ファンドの野上妙子は、政治家の息子の経営者や地熱発電に命をかける老研究者と出会って、地熱エネ…

野蛮なやつら(ドン・ウィンズロウ)

名作『犬の力』の続編のようなプロットですが、雰囲気は全く異なっています。 カリフォルニアのラグーナ・ビーチで幼馴染みとして育った2人の青年、学級肌で平和主義者のベンと特殊部隊で訓練を受けた武闘派のチョンは、やはり幼馴染みのオフィーリアと友好…

クロス・ファイヤー(柴田よしき)

日本のプロ野球界に女性が進出して数年たった時期という設定の物語ですから、近未来SFでしょうか? 女性のプロ野球選手といっても、実力はぎりぎり通用するかどうかのレベル。まだ客寄せパンダ扱いであり、東京レオパーズに所属する楠田栞も早蕨麻由もほと…

プロヴァンスの贈りもの(ピーター・メイル)

『南仏プロヴァンスの12か月』のピーター・メイルさんによる小説ですが、ロンドンからプロヴァンスに移り住んだ著者の体験も多く含まれていますので、一連の名エッセイの雰囲気が味わえる作品になっています。 ロンドンの証券会社で干されて辞表を出したマ…

南仏プロヴァンスの昼さがり(ピーター・メイル)

『12か月』と『木陰から』に続く、プロヴァンス・エッセイ3部作の完結編です。第1作が1989年に出版されて世界的ベストセラーとなり、リュベロンの片田舎が観光ブームに襲われてから10年後、一時アメリカに住んでいた著者が久しぶりに帰ってきたプ…

エンプティスター(大崎善生)

『パイロットフィッシュ』と『アジアンタムブルー』の続編であり、合わせて3部作になるとのことですが、この作品だけ読んでも構わないようです。前2作のエピソードは本書の中で何度も登場してきますので。 学生時代には恩人を大韓航空機撃墜事件で失ったこ…

無慈悲な昼食(エベリオ・ロセーロ)

コロンビアの首都ボゴタの教会での1日の出来事をシニカルに描いた作品です。 この教会では、アルミダ神父が「慈悲の昼食」と名づけた無料昼食を施しています。月曜から金曜までを娼婦の日、不良の日、盲人の日、老人の日、母子の日と定めているのですが、最…

満つる月の如し(澤田瞳子)

平安時代後期に登場した天才仏師・定朝の「誕生」をドラマチックに描いた作品です。柔らかな曲線と曲面からなり、瞑想的でありながら微睡むような表情を持つ柔和で優美な定朝の仏像はどのようにして生まれたのか・・そこには華やかな藤原時代の影に埋もれた…

河・岸(蘇童)

「文革期を背景に陸地を放逐された父と息子の13年間にわたる船上生活」というと、壮大な大河ドラマ小説を期待してしまいますが、本書は最後までめちゃくちゃ情けない父子の姿を滑稽に描いた小説です。 父親の庫文軒は、革命に散った女性烈士・鄧少香の遺児…

ハゲタカ(真山仁)

今では「外資系ファンド」という言葉も耳新しくありませんが、「死に体」となった企業を買収・転売することによって利益を稼ぐ欧米流のドライなビジネスは、当初、日本型経営にとっては異質な集団と思われたことは想像に難くありません。 本書は、ニューヨー…

鮫島の貌(大沢在昌)

いずれも長編で第10作まで出ている『新宿鮫シリーズ』の短編集です。新宿署刑事の鮫島というキャラが短編に馴染むのかどうか、いささか不安もありましたが、どの作品もしっかりと「新宿鮫」のエピソードになっているのはさすがです。コミックの「こち亀」…

アイアン・ハウス(ジョン・ハート)

デビュー作『キングの死』以来、家族愛をテーマにして上質なミステリを書き続けている 著者の最新作も期待にたがわぬ力作でした。 ギャングの殺し屋マイケルは、恋人エレナの妊娠を機に組織の脱退を誓います。 孤児だったマイケルの育ての親ともいえるボスの…

東天の獅子 第4巻(夢枕獏)

孤高の武術家・武田惣角が西郷四郎に語ったのは、琉球での壮絶な修行の日々でした。秘術「御式内」を見せずに琉球唐手と闘い、その真髄を会得して去っていった惣角との闘いを望む唐手家が「梟」の正体だったのですが、やはり「御式内」を継承する四郎が代わ…

東天の獅子 第3巻(夢枕獏)

新興勢力の講道館と古流柔術各派が対決する「警視庁武術試合」がついに始まります。投げ技や絞め技はもちろん、パンチもキックもあってこれはもう異種格闘技戦ですね。 第3巻の前半では、講道館代表4人の死闘が血湧き肉踊る迫真の描写で綴られます。講道館…

震える牛(相場英雄)

地方都市の衰退、デフレ価格、狂牛病、食の安全など、現代日本の消費者を取り巻く問題が凝縮された社会派ミステリです。 迷宮入り目前の事件を捜査する田川は、2年前に起きた強盗殺人の再調査を開始します。被害者は何の繋がりもなさそうな獣医と産廃業者で…

悪い娘の悪戯(マリオ・バルガス=リョサ)

ペルーの上流階級に育った少年リカルドは、チリからやってきたリリーという少女と出会って恋に落ちますが、実は彼女はペルーの貧民地区の出身で、名前すら偽名だとバレた途端に姿を消してしまいます。しかしそれは、40年に及ぶ壮絶な愛の物語の始まりでし…

軍医たちの黙示録 蛍の航跡(帚木蓬生)

前巻『蠅の帝国』の続編となる、戦場への従軍を余儀なくされた軍医たちの物語。 医大を卒業したばかりの青年や町の開業医まで動員され、通常の医療とはかけ離れた体験をした医師たちが遺した文章から紡ぎ出された小説は、すべて一人称で書かれています。 著…

軍医たちの黙示録 蠅の帝国(帚木蓬生)

精神科医である著者は恩師に軍医としての従軍経験があることを知って、第2次大戦中の軍医制度について調査したところ、ほとんど全ての医師が根こそぎ動員されていたことを知って衝撃を受け、その事実が広く知られていないことに疑問を抱きます。 著者の結論…

コーパスへの道(デニス・ルヘイン)

苛酷な人生を生きる者たちの心の闇を鮮やかに切り取った短編が7編、収録されています。傑作長編を多く残している著者はですが、『運命の日』の第1章などはそのまま優れた短編となるような作品ですし、「現代短篇の名手たち」と銘打ったシリーズの1番手と…

同時代ゲーム(大江健三郎)

『万延元年のフットボール』に始まる「森と再生」をめぐる物語群の最後の作品は難解なのですが、それは異なる時間軸に属する複数のできごとがランダムに語られ、しかもその全てが「硝子玉のようなヴィジョン」として少年時代の主人公によって既に幻視されて…

豊饒の海2 奔馬(三島由紀夫)

第1部『豊饒の海1 春の雪』で、美青年・松枝清顕が「禁断の恋」に燃え尽きてから19年後、かつての清顕の親友で今は大阪控訴院の判事となっていた本多繁邦は、清顕と同じ脇の下に3つの黒子を持つ青年・飯沼勲と出会います。 その青年・飯沼勲は、松枝家…