りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/4 冬の眠り(アン・マイクルズ)

カナダの詩人であるアン・マイクルズさんの作品は、詩情に溢れた美しい文章で深いテーマを歌い上げてくれます。そこにあるのは、深い哀しみに沈んだ者にも再び浮上の機会は訪れるという希望のようです。 南仏プロヴァンス関係の本をたくさん読んだのは、旅行…

修道士カドフェル12 門前通りのカラス(エリス・ピーターズ)

シリーズ第12巻になります。モード女帝のスティーブン王の戦闘は膠着状態のまま動かず、両者とも味方の確認や、相手側の情報収集に努めている状況です。州執行長官の戦死後に代理を勤めていたヒュー・ベリンガーはスティーブン王から正式に執行長官に任命…

第四間氷期(安部公房)

中学生の頃に国語の先生から勧められて読んだ本です。当時は「教科書の小説」がつまらなかったせいで、むしろ「小説嫌い」だったのですが、この本で小説のおもしろさを知りました。 20年以上たって読み返してみると・・あれから色んな本を読んで「おもしろ…

鬼平犯科帳 5(池波正太郎)

シリーズ第5作では、以前から平蔵を殺害しようとしていた網切の甚五郎と、さらには平蔵を兄の敵として恨んでいた霧の七郎との因縁に決着がつきます。一段落した感じですから、ここで中断しても良いかもしれません。 「深川・千鳥橋」労咳で死期を悟った大工…

鬼平犯科帳 4(池波正太郎)

シリーズ第4作では、重要な密偵が新たに登場します。ひとりは平蔵が放蕩をしていた頃に入り浸っていた本所の居酒屋「盗人酒屋」の娘、おまさ。父の亡き後、盗賊の一味となっていたおまさでしたが、少女時代から恋心を抱いていた平蔵と再会して、自ら進んで…

家族を駆け抜けて(マイケル・オンダーチェ)

スリランカで生まれ育ったオンダーチェが帰郷して自分の家族のルーツをたどり、小説にした作品です。もともと「オンダーチェ」という名前はオランダ系ですが、彼の一族は現地女性と混血した「バーガー人」であり、特権階級ではあったもののセイロン独立とと…

風車小屋だより(ドーデー)

ピーター・メイルさんの現代プロヴァンスの物語の次は、19世紀プロヴァンスの作品読んでみましょう。舞台はアルルから8キロほど離れた丘の上にある風車小屋。小説ではドーデーが「購入して住んだ」との設定になっていますが、実際の所は、知人の住居がそ…

凍原(桜木紫乃)

主人公は30歳の女性刑事、松崎比呂。彼女は17年前に当時10歳だった弟を釧路湿原で亡くしたことに、まだ気持ちの整理がつけられずにいます。 札幌から釧路に戻ってきた比呂は、釧路湿原で発見された30代男性の殺人事件を担当しますが、その男性は青い…

ラブレス(桜木紫乃)

親に愛されなかった姉妹の百合江と里美の物語を追うのは、やはり親の愛情に恵まれずに育った百合江の娘・理恵と、里美の娘・小夜子です。 物語は戦後の北海道、標茶の開拓小屋から始まります。極貧の愛のない家は父親・卯吉の酒と暴力に支配され、母親・ハギ…

道化師の蝶(円城塔)

『これはペンです』と同様、「言葉」を使って文章を書くことにこだわった作品です。芥川賞を受賞しました。 第1章は、稀代の多言語作家・友幸友幸の行方を追うエージェントが日本語に翻訳した、友幸友幸が無活用ラテン語で書いた「猫の下で読むに限る」とい…

コラプティオ(真山仁)

現在の日本に最も不足しているものは、首相のリーダーシップと原発政策でしょう。本書はその2つの問題をテーマにして「処方箋」に迫った作品です。 国民に希望をもたらして復興政策を進め、国民から圧倒的な支持を受ける宮藤総理が打ち出したのは、「世界一…

道絶えずば、また(松井今朝子)

世阿弥の能楽論『風姿花伝』からタイトルを採った時代ミステリー三部作の完結篇。 『非道、行ずべからず』で事件の原因になった三代目荻野沢之丞の後継者争いが再燃し、『家、家にあらず』で探偵役を勤めた若い瑞枝が大奥の年寄となって再登場するなど、完結…

儚い光(アン・マイクルズ)

ナチス占領下のポーランド。両親と美しい姉ベラが捉えられた夜、かろうじて追跡を逃れた7歳の少年ヤーコブは、遺跡発掘をしていたギリシャ人地質学者アトスに救い出され、2人でアトスの故郷のザキントス島に脱出します。 アトスから息子のように慈しまれて…

極北ラプソディ(海堂尊)

『極北クレイマー』の続編となります。極北市の破産と同時に財政破綻した極北市民病院の再建に乗り出したのは、『ブラックペアン1988』の新米医師、その後「病院再建請負人」として悪評高い世良雅志でした。 世良の経営方針は明快です。献身的な産科医師…

傷痕(桜庭一樹)

「この国が20世紀に生み落とした偉大なポップ・オブ・キング」のモデルは、明らかにマイケル・ジャクソンです。 いたずら好きな少年が、父親から兄や姉とともに楽器と歌を仕込まれてデビューし、一躍キングへの道を駆け上っていった後のプライベート生活は…

ここはボツコニアン(宮部みゆき)

宮部さんのファンタジーにはついていけないことが多いのですが、これはちょっとやりすぎでしょうか。はじめからRPGゲームを念頭において、しかもちゃかした作品なのです。 そもそも舞台が「ボツネタ」が集まってできた、出来損ないの世界「ボツコニアン」…

南仏プロヴァンスの木陰から(ピーター・メイル)

プロヴァンスでの最初の1年を描いた『南仏プロヴァンスの12か月』の続編です。移住して3年、すっかりこの地に馴染んで「土地っ子」に近づいた著者ですが、まだまだ新しい発見はつきません。 怪しげな売人からトリュフを買い、棄てられていた犬と運命の出…

南仏プロヴァンスの12か月(ピーター・メイル)

1989年に出版され、一躍プロヴァンスを多くの人に身近に感じさせた作品です。TVドラマにも映画にもなりました。旅行者として何度も訪れるうちにプロヴァンスに魅せられ、ロンドンを引き払って夫婦でプロヴァンスに移り住んだ著者の1年間の物語は、あ…

アマルフィ(真保裕一)

織田祐二主演の観光映画の企画に参加して、ストーリーと脚本に携わった著者が映画をノヴェライズした作品ですが、映画とはラストを変えているとのこと。 海外の邦人保護という特別任務を担当する外交官・黒田康作が、ローマで起きた日本人少女誘拐事件に巻き…

異邦人たちの慰め(イアン・マキューアン)

ヴェニスとおぼしきイタリアの古都を訪れた英国人カップルのコリンとメアリは、道に迷った夜、ロベルトという精力的な男と知り合って、彼の家に招かれますが、そこには身体が不自由で病的な妻キャロラインが2人を待っていました。 それは奇妙な罠だったので…

東天の獅子 第2巻(夢枕獏)

第2巻では一転して、後に講道館のライバルとなる柔術王国・九州と千葉の柔術家たちの凄まじさが描かれます。 まずは警視庁の武術指南役となった、久留米・良移心頭流の中村半助。同じ久留米・関口新々流の仲段蔵を破った熊本・竹内三統流の佐村正明との死闘…

東天の獅子 第1巻(夢枕獏)

明治時代、講道館創世期の格闘小説です。とにかくおもしろい! 著者によると、①講道館創成期の物語、②明治大正における外国人格闘家との異種格闘技戦、③コンデ・コマこと前田光世の物語、④前田以外の海外へ渡った日本人格闘家の物語という4部構成で、とりわ…

アルプスの谷アルプスの村(新田次郎)

長野県生まれで山岳小説も多く著わしている著者が、昭和36年に雑誌の企画でアルプスを旅し、「山と渓谷」に連載した紀行文です。今から50年以上も前のことですから変わっていることも多いのでしょうが、現在にも共通する視点で書かれているように思えま…

アルプス・プロヴァンスの小さな旅(秋本和彦)

会社勤めを辞めて写真家となった著者が55歳の時、1993年に行ったバイク旅行は、スイス・アルプスとフランス・プロヴァンスを結んでいる全長812kmのローヌ河を、源泉のローヌ氷河から河口の地中海までたどる旅でした。 ローヌ河はサン・ゴダルト峠…

誰でもよかった(五十嵐貴久)

2008年6月に秋葉原で起きた無差別殺傷事件をモチーフにした作品です。インターネット掲示板に「明日。昼。渋谷で人を殺します」と犯行予告を書き込んでトラックで渋谷のスクランブル交差点に突入した犯人は、倒れた人々をナイフで刺し、11人の大量殺…

冬の眠り(アン・マイクルズ)

かけがえのないものを失った者への癒やしや贖罪は、欺瞞にすぎないのでしょうか。 建設の進むエジプトのアスワン・ハイ・ダムによって水没するアブ・シンベル神殿の移設工事に携わる技術者エイヴァリーと、植物を愛する妻のジーンが出会ったのは、運河建設に…

豊饒の海1 春の雪(三島由紀夫)

「三島美学」を極めた「豊饒の海4部作」の第1作は、大正初期の大悲恋の物語。 維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の嫡子で学習院に通う19歳の松枝清顕は、幼馴染の伯爵令嬢・綾倉聡子に特別な想いを抱いているが故に、彼女に翻弄されていることに耐えられませ…