りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/3 あの川のほとりで(ジョン・アーヴィング)

アーヴィングさんの新作は、これまでの作品と同様に「事故の起こりがちな世の中」で繰り広げられる「父と子の物語」ですが、作家である主人公の経歴に著者との共通点が多く「シンボリックな自伝」になっています。「作家の視点」の解説や、いつも同じテーマ…

日本を捨てた男たち(水谷竹秀)

「フィリピンに生きる困窮邦人」との副題がつけられたドキュメンタリー作品。「困窮邦人」とは海外で経済的困窮状態に陥った日本人のことですが、在外公館に駆け込む日本人は増加しつつあり、その半数近くがフィリピン滞在者だそうです。 典型的なパターンは…

解錠師(スティーヴ・ハミルトン)

8歳の時に悲劇に巻き込まれたショックから言葉を話せなくなった青年マイケルには才能がありました。それは、絵を描くことと、どんな錠も開くことが出来る能力。鍵を開けるには、ピン位置が正しく合った手ごたえを敏感に感じ取る芸術的な感性が必要なんです…

海に降る(朱野帰子)

光合成に必要な太陽光が届かない、水深200m以上の海を「深海」と言うそうです。人類の手はほとんど届かず、「宇宙よりも遠い場所」なんですね。宇宙飛行士が世界で500人いるのに対し、深海パイロットはたったの40人だけで、うち日本人が20人とい…

望月のあと(森谷明子)

源氏物語の幻の第2帖「かかやく日の宮」が失われた理由をロマンティックに推理した『千年の黙』と、紫式部日記がつまらない理由に大胆に迫った『白の祝宴』に続く本書は、「玉蔓10帖」と、源氏物語の転換点となった「若菜」が書かれた背景に挑みます。 玉…

十字軍物語3(塩野七生)

シリーズ最終巻では、第3次十字軍から十字軍時代の終焉までが描かれます。 「キリスト教徒でもイスラム教徒でもない客観的な立場から、戦闘の時代の合間に双方から試みられた共生の物語」では、獅子心王リチャードとサラディンが対する「花の第3次十字軍」…

とんずら屋 弥生請負帖(田牧大和)

隅田川の船宿「松波屋」の裏の仕事は、借財がかさんだり、亭主や奉公先の無体に耐えられなくなった人たちを逃がしてあげる「とんずら」でした。仕組みは「仕掛人シリーズ」のようですが、内容は「夜逃げ屋本舗」のようなもの。 松波屋で働く弥吉は、兄貴分の…

あの川のほとりで(ジョン・アーヴィング)

作家を主人公としたアーヴィングの最新長編は「自伝的な作品」と言われています。アイオワ州立大でヴォネガットに学び、ベトナム戦争を扱った第4作が大ヒットし、堕胎をテーマにした作品が映画化されてアカデミー脚本賞を受賞するなど、実際の著者の歩みと…

火星の挽歌 - タイム・オデッセイ3(アーサー・C・クラーク/スティーブン・バクスター)

クラークさんの遺作となった「タイム・オデッセイ3部作」の最終巻になります。 人類抹殺を決意したとおぼしき宇宙種族「ファーストボーン」が起こした太陽嵐を宇宙空間に建設した巨大な盾によって生き延びたものの、27年後の2069年、新たな攻撃が仕掛…

トワイライト・テールズ(山本弘)

『MM9』の外伝的な短編を集めたものですが、本書の舞台は日本だけでなく、怪獣と人間の「交流」をテーマにした作品が中心になっています。 「生と死のはざまで」 怪獣によって倒壊したビルの地下に女性自衛官と2人で閉じ込められた学生は、彼の空想世界…

ねじまき少女(パオロ・バチガルピ)

石油の枯渇によって電力は消え失せ、全てのエネルギーが生物由来となった近未来、海面上昇が低地の都市を呑み込み、遺伝子組み換えによる疫病が蔓延した世界には「カロリー企業」と呼ばれる巨大農業企業のみが君臨しています。多くの国家が崩壊した中で、徹…

親鸞 激動篇(五木寛之)

親鸞の生涯は大きく3つの時期に分けられるそうです。30代までの勉学の時代と、流刑者として越後へ送られ後に関東で暮らした60代までと、京都に戻ってから90歳で亡くなるまで。少年期から青年期を描いた前書『親鸞』に続く「激動篇」では、第2の時期…

眺望絶佳(中島京子)

東京スカイツリーからの「往信」と東京タワーからの「復信」の間に挟まれた物語は、東京のそこかしこで起きた数々の人間模様でした。 「アフリカハゲコウの唄」会社サイトに相談を持ちかけてくる客に共感メールを送る仕事を担当した女性社員が、健康相談にの…

怪物はささやく(シヴォーン・ダウド/パトリック・ネス)

早世した『ボグ・チャイルド』の著者による原案を、カーネギー賞作家が仕上げた作品は、母の死に直面した少年の心の底を残酷なまでに抉り出してくれています。ホラーじみた展開が、残酷な悲しみに、そして癒やしに・・。 ある夜、癌にかかった母親のことで頭…

アレクシア女史、欧羅巴で騎士団と遭う(ゲイル・キャリガー)

人間と異界族が共存する19世紀英国が舞台の「怪奇スチームパンクシリーズ」第3作。ロンドンでただひとりの「反異界族」で、接触している間は異界族を人間に戻す能力を持っているアレクシアは、人狼団の長であるマコン卿と結婚しているものの、前巻にて妊…

土曜日(イアン・マキューアン)

ロンドンに住む中年男性ヘンリー・ペウロンの1日を鮮やかに切り取った作品です。「その日」はイラク戦争が始まる前、2003年2月頃のある土曜日。 ヘンリーは円熟した脳神経外科医、妻のロザリンドは法務弁護士、娘のデイジーと息子のシーオはそれぞれ将…

戦火の馬(マイケル・モーパーゴ)

戦闘の前夜に希望と恐怖を馬に話しかけたという老兵の思い出話、馬と心を交わした少年の逸話、画家が描いた騎兵の突撃シーンという3つの要素から想を得て生まれた作品だそうです。 本書の主人公はジョーイという馬であり、ジョーイによる一人称で語られてい…

ヒア・カムズ・ザ・サン(有川浩)

たった7行のあらすじを、有川さんは小説へ、劇団キャラメルボックスは演劇へとクロスオーバーな競作を行なった作品とのこと。著者の小説と、実際に上演された演劇を著者がノベライズした「パラレル版」の両方が収録されています。 共通のあらすじは「人が品…

ワタクシハ(羽田圭介)

オーデション番組の企画で選ばれ、高校生でギタリストとしてメジャー・デビューを果たした山木太郎でしたが、栄光も束の間でバンドは解散し、預金も底をつきそうに。大学3年を迎えた太郎は、「シューカツ」に向けて慌ただしく動き出す周囲の雰囲気に押され…

碧奴(蘇童)

「新・世界の神話シリーズ」に中国から加えられた作品は、夫の死を悼む涙で万里の長城を崩壊させたという「孟姜女伝説」を幻想的に再構成した小説です。 著者はまず、女たちが泣くことを禁じられた村を作り出します。国王と仲違いして配流された叔父の死に際…

ライオンの蜂蜜(デイヴィッド・グロスマン)

「新・世界の神話シリーズ」の一冊である本書は、創作神話ではなく「旧約聖書」の士師紀に登場するサムソンの物語を紡ぎ直した作品です。不妊の女性から生まれて、ペリシテ人の支配からユダヤの民を救う神の子となる運命を予言され、ライオンを素手で引き裂…

魔法使いクラブ(青山七恵)

10歳の少女が「魔法を使えるようになりたい」と願ったのは、子どもの力ではどうにもならない「現実」と対峙を迫られる予感を抱いたからだったのでしょう。危うい孤独感を抱えたまま思春期を生きた少女が自分にかけた魔法が解けるのは8年後、18歳になっ…

曾根崎心中(角田光代)

大阪駅のすぐ近くにある露天神社は、近松門左衛門の浄瑠璃「曾根崎心中」のモデルとなった遊女と手代の心中事件が起こった場所であり、遊女の名前から「お初天神」と呼ばれています。神社の周囲は大繁華街であり、かつてここが曾根崎洲と呼ばれる島だったこ…

野いばら(梶村啓二)

幕末の日本で触れ合った「国籍を超えた男女の想い」を現代から俯瞰する物語です。明治初期に訪日した女性旅行家イザベル・バードと通辞イトウの心の交流を描いた中島京子の『イトウの恋』と共通するものを感じますが、男女の国籍が逆ですから読後感は全く異…

デッド・ゼロ(スティーヴン・ハンター)

タリバンやアルカイダに協力するアフガニスタンのカリスマ指導者・ザルジの暗殺ミッションに派遣された海兵隊きっての狙撃主レイが、正体不明の傭兵の襲撃や謎の爆発に襲われて行方不明になってしまいます。 半年後、親米派に豹変したザルジの評価は一変し、…

峠うどん物語 (重松清)

中学2年生の淑子(よっちゃん)の祖父母が長年営んでいるうどん屋「峠うどん」は、市営斎場の前にありました。そこを訪れる客は、故人と微妙に遠い関係の人たちだということに、よっちゃんは気づきます。知人や親族の命の終わりに立ち会いながら、故人の旅…