りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2012/2 シャンタラム(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ)

波乱万丈の自伝を小説化した『シャンタラム』は、まさに奇跡の小説です。この本を今月の1位にするために、アーヴィングさんの新作を後回しにした価値は十分にありました。続編の構想もあるようですが、再び奇跡は起こるのでしょうか。 直木賞候補となった桜…

約束の地(樋口明雄)

野生鳥獣保全管理センターの八ヶ岳支所に赴任してきた環境省技官を主人公とする物語というと、ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケットが登場する『沈黙の森』シリーズを連想してしまいます。野心も政治的背景も持たず、ただ家族を愛し、大自然を畏敬する…

エージェント6(トム・ロブ・スミス)

『チャイルド44』と『グラーグ57』に続く、3部作シリーズの完結編です。1950年。スターリン統治下のソ連で秘密警察のエリートだったレオは、モスクワを訪れた共産主義者の米国黒人歌手ジェシー・オースティンの警護を担当している最中に、後に妻と…

赤い三日月(黒木亮)

「小説ソブリン債務」との副題を持つ本書は、1990年代に財政不安に陥って大規模な資本逃避と通貨下落が発生し、IMFの緊急融資を受けたトルコ経済を題材とした小説です。デフォルト寸前に陥ったギリシャに端を発して、全欧州・全世界が揺らいでいる現…

ステップファザー・ステップ(宮部みゆき)

ドラマ化されたと聞いて、この作品が未読であったことを知りました。 屋根から落下した泥棒が、両親に逃げられた13歳の双子の男の子に助けられ、彼らのステップファザー(継父)にされてしまうという奇抜な設定でありながら、最後には「家族」の意味を考え…

平成猿蟹合戦図(吉田修一)

人を騙して生きていく「猿」に対して、騙された側の「蟹」が仲間とともに復讐を果たす物語なのですが、誰が「猿」で誰が「蟹」なのか、なかなか着地点が見えてきません。でもその過程が本書の醍醐味なのでしょう。 行方不明になった夫を探して長崎五島から上…

変死体(パトリシア・コーンウェル)

「検屍官ケイ」シリーズに期待しなくなってから、だいぶ経ってしまいました。シリーズ第18作となる本書は、初めて明かされるケイの過去や意外な真犯人、さらには信頼していた者の裏切りなど、初期に戻った雰囲気の作品となっていて高水準だとは思うのです…

ワン・モア(桜木紫乃)

安楽死スキャンダルに巻き込まれて市民病院から離島の診療所に赴任した37歳の女医、柿崎美和が、離島での浮気相手の年下の漁師の家庭を破壊し、身重の妻から罵られても平然としているのは、彼女自身が「漂うくらげ」となってしまっているから。 そんな美和…

ビブリア古書堂の事件手帖(三上延)

鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」の女店主で、極度の人見知りまがら、本に関することだけ饒舌になる篠川栞子がホームズ役。小学生の頃の事件によって「活字恐怖症」なのに、縁あってビブリア古書堂のアルバイターとなってしま…

天草の雅歌(辻邦生)

『廻廊にて』と『夏の砦』が、中世のタピスリに織り込まれた不滅の芸術性の物語として対になっているように、『安土往還記』と『嵯峨野明月記』と本書とは、安土桃山時代の終焉を謳いあげた3部作なのでしょう。 本書の舞台は、家康時代に興隆を極めた東南ア…

嵯峨野明月記(辻邦生)

「光悦本」とも呼ばれる「嵯峨本」は、豊臣から徳川へと政権が移った17世紀に作成された豪華な古活字本です。2004年の「琳派展」で実物を拝見しました。本書は、桃山文化の粋ともいえる「嵯峨本」誕生に関わった3人の人物の物語。 1人めは、刀剣鑑定…

おいしいきのこ毒きのこ(吹春俊光、公子)

小説ではありませんが、知人が出版した本ですので紹介させていただきます。 「おいしいきのこと毒きのこ275種類を掲載し、特徴や見分け方を丁寧に解説した、ポケット版きのこ図鑑の決定版」であり、きのこ狩りのマナーと注意や、採集方法、調理方法なども…

ヴァンパイアハンター・リンカーン(セス・グレアム=スミス)

前作『高慢と偏見とゾンビ』は、徹底的なバカバカしさが面白かったものの、やはりジェーン・オースティンの世界をここまで凌辱してしまったことに抵抗感が残りました。 本作は、南北戦争を引き起こしケネディにまで引き継がれていく人種差別との戦いは、白人…

ミッション・ソング(ジョン・ル・カレ)

アイルランド人宣教師とコンゴ人女性の間に生まれた主人公のサルヴォは、英国で高等教育を受けて一流の通訳となっていますが、アフリカの諸語に通じていることから、時おり政府依頼の仕事も受けています。 英国政府情報部の依頼で急遽、サルヴォが通訳を命じ…

北の舞姫-芙蓉千里Ⅱ(須賀しのぶ)

明治末期から大正時代の満州で、芸妓への道を歩む少女フミの物語『芙蓉千里』の続編です。どうやら3部作となるシリーズの第2巻のようですね。「続編」には残念な作品もよくあるのですが、本書もそんな一冊。 ロシア革命とシベリアでの内戦、日本軍のシベリ…

芙蓉千里(須賀しのぶ)

時代背景と舞台と主人公のキャラが奇妙にマッチした、楽しい小説です。明治40年。孤児として生まれ、育ての親からも棄てられた12歳の少女フミが、母のような「一流の女郎」になるという「大志」を抱いて自ら人買いに買われ、大陸へと渡ります。 たどり着…

史記武帝紀6(北方謙三)

老境に入った武帝は、死を意識しはじめるようになります。それは一方では政治に対する無関心となって現れ、丞相の公孫賀や、かつての愛姫、衛子夫との間に生まれた皇太子に対して巫蟲の罪を着せるに至る官僚間の権力争いを放置したりもするのですが、一方で…

修道士カドフェル11 秘跡(エリス・ピーターズ)

シリーズ11作めになります。1141年、イングランド王位をめぐる身内の争いは重大な局面を迎えていました。女帝モードはスティーブン王を捕虜としたものの、ロンドン市民から入場を断られ、王位につく絶好のチャンスを失ったばかりか、逆に英国南部のウ…

007白紙委任状(ジェフリー・ディーヴァー)

イアン・フレミングによって生み出され、映画のシリーズで世界的ヒーローとなった「007」の物語が、現代のサスペンスの巨匠、ジェフリー・ディーヴァーによって書き継がれることになったようです。 秘密機関の長であるM、Mの秘書のミス・マニーペニー、…

シャンタラム(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ)

「奇跡の小説」です。武装強盗の罪で20年の懲役刑に服していたオーストラリア人のヘロイン中毒者が、白昼堂々と脱獄してインドへと逃走。ボンベイのスラムに潜伏してスラム住民のため無資格診療所を開設した後にボンベイ・マフィアの一員となり、さらにソ…

ルー=ガルー2(京極夏彦)

50年後の日本。世界的規模のパンデミックによって激減した児童を保護するために「物理接触」は極力排除され、「端末」を中心とした生活が営まれている時代。第1作『忌避すべき狼』の事件から3ヶ月後、再び14歳の少女たちを巻き込んでいく事件が動き出…

復活(トルストイ)

「カチューシャかわいや別れのつらさ♪」で有名な、トルストイ晩年の小説です。 ストーリーは単純明快。人生への熱意を失いつつあった若い貴族ネフリュードフが陪審員として出廷した裁判において殺人の罪で被告となっていたのは、かつて彼が弄んで棄てた下女…

偉大なる、しゅららぼん(万城目学)

京都、奈良、大阪と、関西を舞台にして不思議小説を書き続けている著者が次に選んだのは「琵琶湖」でした。「湖の民」として不思議な能力を受け継ぐ日出一族の涼介は、高校入学を機に湖東・石走城にある本家で修行をすることになったのですが、本家の跡継ぎ…

2012/1 おまえさん(宮部みゆき)

先月の『回廊にて』に続いて、辻邦生さんの作品を2冊再読(プラス1冊初読)。高校時代に読んだ時には大きな感動を得たものの、芸術至上主義と思えてしまい少々鼻についたのですが、今になって読み返してみるとやはり優れた作品です。もう少し、せめて名作…