2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧
長谷川平蔵はずっと火付盗賊改の長官職に就いていたのではなく、間の期間もあったようです。この巻では、休職期間に父の墓がある京都に旅をした平蔵の活躍が描かれます。お供についた木村忠吾の「いじられキャラ」ぶりが楽しい! 「麻布ねずみ坂」平蔵は、前…
少々前にシリーズ第1作を読みましたが、鬼の長谷川平像の暗殺すらねらった大盗賊の「蛇(くちなわ)の平十郎」の件に決着がついていませんでしたので続編も読むことにしました。 「蛇の目」平蔵に恨みを抱いて意地になっている蛇の平十郎が目を付けたのは、…
漂流して欧米船に救助された後に帰国が認められ、幕末に活躍した日本人といえばジョン・万次郎が有名ですが、本書の主人公はジョセフ・ヒコこと浜田彦蔵です。 アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策によって帰国を阻まれてやむなく渡米。多くの米国人の…
緒方拳と夏目雅子が父娘を演じた同名の映画は、学生時代に名画座で見ました。父娘の葛藤もさることながら、厳寒の津軽海峡でマグロの一本釣りに生死を賭ける漁師の生活の孤独な厳しさが強く印象に残りました。大間のマグロがとても高価と知ったのは後のこと…
頻繁に転勤を繰り返す二流大学教授の父を持つ女子高生のブルー・ヴァン=ミアは、全米各地を転々としながら本を唯一の友として育ってきましたが、最終学年になってある私立のエリート校に転入します。 人づきあいが苦手なブルーは、なぜか謎めいた美人女性講…
1799年。エジプトを蹂躙したナポレオンはトルコ支配下のパレスチナへと軍を向けます。対するイギリスはシドニー・スミス代将率いる海軍をトルコの防衛に差し向け、ここに「アッコ攻囲戦」が始まります。 本書は「中東の皇帝」たらんとしたナポレオンの野…
世界の様々な場所を舞台にして「孤独と救済」を描いた『シェル・コレクター』の著者による新しい短編集のテーマは「記憶」です。 メモリー・ウォール 人の記憶をカートリッジに記録することが可能となっている近未来の南アフリカ。認知症が進む老女アルマの…
著者はオーストラリアの女性ファンタジー作家です。「奇想コレクション」は作家の代表的短編を編纂した本というのが基本形ですが本書ははじめから『ブラックジュース』という単行本として出版された作品。全体のバランスが良いように感じたのはそのせいでし…
『守り人シリーズ』の番外編となる短編集は、女傭兵バルサと呪術師タンダの子ども時代のエピソードからなっています。 「浮き籾」 一族の厄介者だったタンダの叔父が化けて出たという噂が村に広がります。実のない籾のような生涯をおくったものの、気のいい…
地方都市を舞台に住民たちの関係を描いていく「地域ミニマリズム」的な作品には阿部和重の『シンセミア』や奥田英朗の『無理』などがありますが、どの作品もつまらないのが特徴です(笑)。面白かったのは東方仗助らとキラー・クイーンの壮絶な闘いをクライ…
『ぼんくら』と『日暮らし』に続く、本所深川のぼんくら同心の井筒平四郎と、甥の天才少年・弓之助を主人公にしたシリーズ第3作です。 辻斬りにあったような身元不明の男と、評判の薬屋・瓶屋の主人が斬殺された事件の繋がりは、20年前に起きた事件にあり…
トム・ハンクス主演の映画は、もちろん見ています。本書はその原作本ですが、映画のほうが優れているようです。 並以下の知能指数の持ち主ながら多くの才能と無垢な心を持つフォレストが、大学フットボールのスターとなり、ベトナム戦争の英雄となりながら反…
シリーズ第2巻では、第2次十字軍とイスラム勢力によるイェルサレム奪還までの時代が描かれます。年代で言うと「第1次十字軍世代」の最後の一人となったイェルサレム王のボードワンが死去した1118年から、サラディンがイェルサレムを奪還した1188…
意外と面白かった『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』シリーズの続編です。 不死の存在であり、時代に応じて世界の中心に拠点を移しているギリシャ神話の神々の、現在の住まいはアメリカ。エンパイアー・ステート・ビルが現代のオリンポス山。「英雄…
辻邦生さんの作品を再読中ですが、晩年に書かれた作品にちょっと寄り道。本書は初読でした。 浮世絵師・歌川貞芳が描く美人画のモデルとなった女たちが漂わせる翳りが、幕藩体制の矛盾を背景とした各藩の内部抗争の犠牲者たちの姿と交差して、哀しい物語を紡…
著者の3作めの長編です。『廻廊にて』と『夏の砦』では、自分の過去と和解し、自分が生きてきたことに普遍的な価値を見出すに至った女性が主人公でしたが、本書では一転して、「虚空の中でただ力技によって自分の世界を支える」男性が主人公になります。 そ…
北欧の都会にタピスリの研究に訪れ、荒れる海で突然消息を絶った支倉冬子が死の直前に到達した境地とはいかなるものだったのか。著者の第2長編である本書は『廻廊にて』の主題をさらに推し進めた作品です。 織物工芸に携わっていた母の自殺、没落していく旧…
アメリカの英国大使館員であった著者が1829年にアルハンブラに滞在した際の体験に当地の伝説などを含めた紀行文学であり、歴史に埋もれていたアルハンブラを一躍世間に知らしめた、歴史的な意義を持つ作品です。 8世紀にグラナダの沃野ベガに入植を始め…
宮部さんの「ホラー&ファンタジー」作品で短編集に未収録の傑作を選りすぐって文庫化した本とのことですが、「ホラー臭」はあまり感じません。どの作品にも宮部さんらしい人間観察の深さとストーリー展開の巧みさを感じます。 「雪娘」12歳で死んだユキコ…
熊野の神社で生まれ育った泉水子が入学した東京の高校は、異能力者たちが集まり、何らかの目的のために「誰か」を選び出すことに存在意義があるという、不思議な学園でした。 「候補者」と見られていた陰陽師の高柳は、学園祭の日にライバルとみなしていた戸…
フィギュアスケートに打ち込む名古屋の小学6年生の竹中朱里の1年間を描いた物語は「ジュニア小説」に分類されるのでしょうが、侮ってはいけません。 基本は「スポ根小説」ですが、練習施設の確保や費用や両親にかかる負担など、フィギュアスケート選手をめ…
「言葉の海を渡る船=辞書」の編集者たちの物語。辞書編纂者というと、19世紀英国「オックスフォード英語大辞典」のマレー博士や、明治日本「言海」の大槻文彦などを思い浮かべますが、本書の登場人物も個性的です。 玄武書房の営業部で変人扱いされていた…
日経新聞に連載されていた時から気になっていた小説です。 江戸時代中期、幕府と朝鮮国の外交を仲介して対朝貿易で立国を図っていた対馬藩の窮地を救うため、将軍吉宗に伝説の汗血馬を献上する使命を帯びてモンゴルの平原に乗り込んでいったのは、かつて対馬…
「叔父は文字だ。文字通り。」との文章ではじまる表題作は、書くことの原点に迫る試みなのでしょう。自ら発明した文章の自動生成装置なるものを駆使して自由自在に文章を生み出す叔父からの、手紙の受け手であり読み手である姪が、もはや手紙でしか確認でき…
新年第1発は、おめでたいタイトルの作品からいきましょう。 ナチュラル指向のNPO起業に失敗してから派遣の仕事を転々としていた船山のぞみ32歳は、前の恋人がインドで死んだとのウワサを聞いて衝撃を受けます。平凡な学生だった男を「社会に目覚めよ」…