りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-09-01から1ヶ月間の記事一覧

2011/9 イルストラード(ミゲル・シフーコ)

今月のキーワードは、「複数の視点」だったように思えます。1位とした作品のフィリピン作家による「主体と客体の逆転の仕掛け」も、『ゲド戦記』の後半で自ら作り上げた世界を破壊した著者のエネルギーも、次点にあげた作品の「犬の視点」も、物語に深みを…

史記武帝紀5(北方謙三)

16歳で即位した武帝も60歳。既に治世は45年の長きに及んでいます。 シリーズ第5巻では、武帝晩年の悪政の代表例「李陵の族滅」と「司馬遷の宮刑」を中心に物語が進行していきます。その背景にあったのは、長年孤高の座にあったが故の自己過信なのか。…

僕僕先生5 先生の隠しごと(仁木英之)

「僕僕先生シリーズ」の第5作目となります。 前巻『さびしい女神』で、神話時代の黄帝と炎帝の大戦争が紹介されていましたが、黄帝の最終兵器「魃(ばつ)」のライバルであった炎帝の最終兵器「雷娘」こそが、やはり「僕僕先生」の正体だったようです。 遠…

ゲド戦記④⑤⑥ (ル=グィン)再読

このシリーズの凄いところは、前半3部作で作りあげた秩序と調和ある世界観を後半3部作になって自らの手で叩き壊してしまうところです。そこから生まれてくるものは混沌であるように見えるのですが、もちろん著者はその先を見据えています。 ④帰還 第3巻の…

ゲド戦記①②③ (ル=グィン)再読

著者が激怒したというジブリ映画をTVで見て、読み返してみたくなりました。まずは、初期3部作である第1巻から第3巻まで。 ①影との戦い 魔法の才能にあふれるゲド少年が自惚れから禁じられた術を使い、死者の霊とともに「影」をも呼び出してしまいます。…

イルストラード(ミゲル・シフーコ)

フィリピンに生まれてアメリカで学び、現在はカナダで暮らしている新世代作家のデビュー作には、歴史、犯罪、ジョーク、YA、ロマンスなど多様な内容が含まれ、しかも仕掛けに満ち満ちています。 フィリピン人亡命作家クリスピンの死体がハドソン川で発見さ…

その腕のなかで(カミーユ・ロランス)

タイトルはシャンソンの一節からとられています。 「わたしを抱きしめて、わたしを連れていって♪ なんて心地いいのかしら、その腕のなかで♪」 離婚寸前の女性作家である主人公が、一目惚れした精神分析医の気を引くために患者を装い、人生に登場したあらゆる…

マルチーズ犬マフとその友人マリリン・モンローの生活と意見(アンドリュー・オヘイガン)

ハリウッド版の「吾輩は犬である」ですね。でも、この犬も飼い主も実在しています。しかも、名前もあるんです。マリリン・モンローが実際に飼っていたマルチーズ犬「マフィア」が、犬の視点から大女優の最後の数年間の生活と交友を眺めたという仕立ての作品…

はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか(篠田節子)

篠田さんによる「SF小説」? 各作品のタイトルこそパロディっぽいけど、なかなか本格的な理系作品です。しかもどの作品にも、篠田さんらしい「作家の想像力」が現れていますから、SFファンでなくても楽しめます。これきっと、作家も楽しんでますね。 「…

大江戸釣客伝(夢枕獏)

日本の釣りには、「鉤(つりばり)」の種類が異常に多いという特徴があるようです。ありとあらゆる魚用の鉤が作られて、世界中で使われているというのですが、そのルーツは元禄時代に釣りを楽しんだ、無役の侍たちがこらした工夫にあるとのこと。 本書は、徳…

新宿鮫Ⅹ・絆回廊(大沢在昌)

前作『狼花』で警察内外の好敵手との決着をつけた後のシリーズ10作めでは、主人公の鮫島を理解して擁護してきた上司の桃井や、恋人のショウとの関係に大きな転機が訪れることになります。 22年の長期に渡って服役していた伝説のアウトローが、恨みを抱い…

赤葡萄酒のかけら(ロバート・リテル)

本書は、十月革命からのロシア内戦時代、スターリン独裁下の大祖国戦争時代を生きた男の希望と絶望、愛と幻滅を描いた大河小説です。 19世紀末のロシアに生まれ、ユダヤ人迫害を逃れてアメリカに移住した青年は、勃興期のアメリカ資本主義に疑問を感じ、ロ…

天と地の守り人(上橋菜穂子)

「守り人」シリーズ最終巻は、現世「サグ」と別世「ナユグ」が交錯する世界で、王道に悩む皇太子チャグムと、庶民として用心棒に徹して生きるバルサの人生が再び交差して、壮大なエンディングに向かっていきます。 大国タルシュの侵略を受けた新ヨゴ王国の帝…

サトリ(ドン・ウィンズロウ)

日本文化を背景とする海外ミステリの大傑作、トレヴェニアンの『シブミ』の続編が、なんとドン・ウィンズロウによって書かれました。本書は『シブミ』の中でサラッと触れられていたエピソードを膨らませたもの。主人公ニコライ・ヘルの人格と技が形成される…

ストーリー・セラー(有川浩)

雑誌「Story Seller」に発表された同名の小説を「Side:A」とし、それと対をなす「Side:B」を加えて刊行された単行本です。どちらの作品にも、著者の分身と思われる女性小説家が登場し、彼女のファンだという男性と出会って結ばれ、2人で支え合って生きてい…

ピンチョンの『逆光』を読む(木原善彦)

アメリカのポストモダン文学の代表的作家ピンチョンの代表作『逆光』の解説書です。もともとメタな既存テキストなど存在しませんから、読者の数だけ読み方があることは言うまでもありません。著者も本書を「補助線の引き方の一例」と位置づけています。 では…

ペリー(佐藤賢一)

黒船のペリーというと、日本では誰でも知っている歴史上の著名人ですが、本国アメリカではマイナーな存在のようです。本書はペリーの人物像に迫り、アメリカから見た日本の開国記を描いた作品。 このペリーという人物、当時のアメリカ海軍の最上級官位であっ…

ダルタニャン物語 ⑪剣よ、さらば(アレクサンドル・デュマ)

ルイ14世と、世に知られていない双子の弟フィリップを入れ替えるという、アラミスの大陰謀はほとんど成功するところでした。ではなぜ失敗したのでしょう。ルイ14世を救ったのは、これまで悪役として描かれてきた財務官フーケの意外な忠誠心だったのです…

ダルタニャン物語 ⑩鉄仮面(アレクサンドル・デュマ)

いよいよ「第3部」のクライマックス。権力をもぎ取られようとしているフーケは、ルイ14世の歓心を買うために、破産覚悟で自身の居城に国王を招いて園遊会を催します。この機会を狙って進行するアラミスの大陰謀! 太后アンヌのみが知るフランス王室の大秘…

ダルタニャン物語 ⑨三つの恋の物語(アレクサンドル・デュマ)

「三つの恋」とは、「ルイ14世とルイズ」、「ブラジュロンヌ子爵とルイズ」、「ルイ14世と王弟妃アンリアット」の四角関係のことでしょうか。 アトスの息子であり、他の四銃士メンバーからも息子のように愛されているラウル=ブラジュロンヌ子爵の恋は、…

アーサー王宮廷のヤンキー(マーク・トウェイン)

H・G・ウェルズの『タイムマシン』の6年も前、1889年に書かれた本書は、「タイムトラベル」による「歴史改変」を扱った最初の作品として有名ですが、本質的には当時の文明批判の書であり、社会風刺の色濃い内容のものです。 コネチカット生まれのヤン…

みをつくし料理帖5 小夜しぐれ(高田郁)

シリーズ第5作となる連作短編集ですが、物語の背景としては、以前書いたことを繰り返しておきましょう。でも、少しずつ進んではいるんですよ。 大阪の料亭で働いていた天涯孤独の少女・澪は、没落した主家のご寮さん・芳とともに江戸にやってきて、小さな料…

百年の孤独(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

「マジック・リアリズム」という言葉はこの作品から生まれました。1967年に発表され、20世紀の世界文学のあり方を一変させた大傑作です。ホセ・アルカディオ・ブエンディアと妻ウルスラを始祖とする一族が、蜃気楼の村マコンドを創設し、隆盛を迎えな…

ダルタニャン物語 ⑧華麗なる饗宴(アレクサンドル・デュマ)

ルイ14世が「太陽王」と呼ばれるようになったのは、莫大な金額を財務卿のフーケに用立てさせて開催した、フォンテーヌブローでの大饗宴からのこと。国王自ら「四季」のバレエを披露するなど、連日連夜繰り広げられた饗宴の陰で、危険な恋愛ゲームが繰り広…

ダルタニャン物語 ⑦ノートル・ダムの居酒屋(アレクサンドル・デュマ)

宰相マザラン亡き後、ルイ14世はコルベールを財務官に、ダルタニャンを銃士隊長に起用して、自ら国務を執り始めます。復帰したダルタニャンに下った最初の密命は、不穏な動きを見せる財務卿フーケの所領を偵察することでした。 ブルターニュにあるベル・イ…

ダルタニャン物語 ⑥将軍と二つの影(アレクサンドル・デュマ)

第2部「20年後」からさらに10年。第3部「ブラジュロンヌ子爵」は、太陽王ルイ14世の時代が始まろうとする中での、四銃士の最後の活躍の物語。主人公ダルタニャンは50歳を超え、最年長のアトスは60歳になっていますが、華々しさでは第1部に負け…