りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2011/8 蛙鳴(莫言)

大震災以降、皆様のブログを訪問できていませんでしたが、そろそろ再開させていただきます。気がつけばあれからもう半年近くたっています。きっとたくさん記事がアップされているんでしょうね。それを全部読み切れるでしょうか。コメントは一部しかつけられ…

ウエディング・ベル(五十嵐貴久)

『年下の男の子』の続編です。大手メーカー課長で38歳独身の晶子が、14歳年下で出入り業者の派遣社員の児島君と意気投合し、年齢差も格差も越えて結婚を決意した所までが前巻のお話。人間的に尊敬できる部長からのプロポーズもあったんですけどね~。 本…

ボビーZの気怠く優雅な人生(ドン・ウィンズロウ)

海兵隊あがりのコソ泥ティム・カーニーは、服役中にヘルズ・エンジェルスの男を殺害して命を狙われる身になってしまいます。そこから逃れる道は、ただひとつ。麻薬取締局の要求を飲んで、南カリフォルニアの麻薬王ボビーZになりすまして、メキシカン・マフ…

柳生十兵衛死す(山田風太郎)

冒頭から、あの柳生十兵衛が何者かに殺害されてしまっています。しかも開かぬはずの方の眼が、かっと見開いている不思議な姿で。いったい、天下無敵の大剣豪に何が起こったのでしょうか。 柳生十兵衛三厳というと江戸時代初期の剣豪ですが、250年前の室町…

蛙鳴(あめい) 莫言

「堕せば命と希望が消える。産めば世界が必ず飢える」 タイトル「蛙鳴(アメイ)」の「蛙」は「娃(赤ちゃん)」に通じています。現代中国の根源的問題である「一人っ子政策」をテーマとした重厚な小説。「一人っ子政策」に翻弄された世代の主人公が、大江健…

この女(森絵都)

「阪神淡路震災によって断ち切られた人生」との大枠に包まれた物語ということは、冒頭の手紙によって知らされます。本書は、震災の15年後に発見された小説との体裁を取っているのです。ただ著者は、格差社会やワーキングプアという現代的な問題のルーツを…

説教師カニバットと百人の危ない美女(笙野頼子)

笙野さんが、自分の正体が『金毘羅』であると気づく以前に書かれた小説です。 決して笙野頼子ではない小説家・八百木千本は、デビュー後いくつかの賞をとった後には、静かな一カルト作家に留まっていて、決して売れてはいないが、自らがブスであることをネタ…

食べて、祈って、恋をして(エリザベス・ギルバート)

20代半ばで作家デビュー。処女短編集『巡礼者たち』は数々の文学賞を受賞。ステキな結婚もしてニューヨーク郊外の家で、小説やノンフィクションを綴る毎日。他人から見たら「羨ましいほどの成功者」だったはずなのに、彼女は「精神的迷子」になってしまい…

三谷幸喜のありふれた生活9 さらば友よ

現在の三谷さんのホットな話題といえば、小林聡美さんとの「離婚」ですけれど、本書は2009年4月から2010年4月までに書かれたエッセイです。離婚はまだ先のこと。この時期の三谷さんの主な仕事は、連続人形劇「新・三銃士」や、ミュージカルの「ト…

ばらばら死体の夜(桜庭一樹)

「本の街・神保町を舞台にした極上サスペンス」とありますが、古書店主や翻訳家を登場させたにもかかわらず「書くこと」や「本」に関する思い入れの現れ方は希薄だったように思えます。サスペンス性もあまり感じませんでしたしね。 中年の翻訳家・吉野が、学…

夜のオデッセイア(船戸与一)

夢を失って八百長ボクシングで小銭を稼ぎながらアメリカ大陸を漂っている、ボクサーとトレーナーが、ベトナム帰りのプロレスラー2人組につかまって、ジェットコースターストーリーが始まります。 かつて主人公を棄ててチャンピオンのもとに走ったものの零落…

オスカー・ワオの短く凄まじい人生(ジュノ・ディアス)

『ハイウェイとゴミ溜め』に、「英語で書いていること自体が、自分が英語の世界どころかどこにも属さないことを裏切っている」とのキューバ詩人の言葉が引用されていましたが、スパニッシュや世界のオタク文化の言葉を散りばめながら、祖国ドミニカの過去の…

御師弥五郎 お伊勢参り道中記(西條奈加)

『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューした西条さんは、すっかり「時代小説作家」になってしまったようです。 主人公の弥五郎は、お伊勢参りの案内役「御師」の手代見習。お伊勢参りを専門とする旅行会社の社員が、日ごろから旅行…

唄う都は雨のち晴れ(池上永一)

長編『テンペスト』からのスピンオフ小説『トロイメライ』の続編です。新米筑佐事(岡っ引き)の武太を狂言回しにして綴られる那覇の人情物語には、祖先を崇め、自然とともに生きる「沖縄テイスト」がたっぷり。毎回登場する沖縄料理と、三線音楽の歌詞もい…

ピエタ(大島真寿美)

冒頭で知らされるヴィヴァルディのウィーンでの客死は1741年のことですから、ヴェネツイア共和国の終焉まではあと半世紀ほど。ヴェネツィアの文化が、最も爛熟した時代の物語。 語り手は、ヴェネツィアのピエタ慈善修道院で育てられた孤児のエミーリア。…

バディ・ボールデンを覚えているか(マイケル・オンダーチェ)

20世紀はじめのニューオーリンズで「ジャズ」という新しい音楽を生み出した、天才コルネット奏者のバディ・ボールデンの演奏を録音した音源は全く存在せず、たった1枚の写真を除いては、伝説しか残されていないとのこと。 本書は、写真と録音という20世…

ダルタニャン物語 ⑤復讐鬼(アレクサンドル・デュマ)

物語は佳境へと進んでいきます。イギリスの戦場でアトスやアラミスと敵味方に別れて闘ったものの、クロムウェルに捉えられたチャールズ1世を救出するために、ダルタニャンはマザランの命令に背く決意をします。 捨て身の救出劇を演じる四銃士ですが、そこは…

ダルタニャン物語 ④謎の修道僧(アレクサンドル・デュマ)

四銃士の活躍の舞台は、清教徒革命の嵐が吹き荒れるイギリスへと向かいます。そのきっかけとなったのは、妖女ミラディーの息子で、今はクロムウェルの副官となっている修道僧モードント。彼は、クロムウェルの使いとしてマザランを訪問し、フランスが英国王…

ダルタニャン物語 ③我は王軍、友は叛軍(アレクサンドル・デュマ)

第一部『三銃士』に続く『二十年後』は、フロンドの乱に揺れるパリで始まります。かつては銃士隊の仇敵であった大政治家リシュリューは既に亡く、薄幸の王妃であったアンヌ・ドートリッシュは幼いルイ14世の母として摂政となり、マザランを起用して重税政…

日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか(竹田恒泰)

日本が世界で好感度ナンバーワンと聞くと、驚く人が多いのではないでしょうか。日ごろ、隣国から発信される日本批判をイヤというほど聞いていますもんね。ところが、2006年から英国BBC放送が行なっている世界の世論調査では、日本が3年連続1位。そ…

キャンティとコカコーラ(シャルル・エクスブラヤ)

『ジュリエット』に続いて、「ロミジュリ」に関係する作品を読みました。とはいっても、こちらはコメディタッチのミステリです。 ヴェローナ警察の中年警部補ロメオ・タルキニーニは、中年太りしてしまった妻のジュリエットを今でも熱愛し、「すべての犯罪の…

ジュリエット(アン・フォーティア)

シエナのカンポ広場に面するプブリコ宮殿の内部は市民美術館。そこで、アンブロージョ・ロレンツエッティの「善政の効果」を見たことは覚えています。でも、その絵画に秘められた意味があったとは・・。シェークスピアの「ロミオとジュリエット」はヴェロー…

ポリティコン(桐野夏生)

大正時代に東北の寒村に芸術家たちが創りあげたユートピア「唯腕(イワン)村」は、現代でも「楽園」であり続けているのでしょうか。 「自給自足の理想社会」の理念が、過疎・高齢化・農業破綻・村外協力者の減少という現実に呑み込まれ、共同体の維持が難し…

ダルタニャン物語 ①②三銃士(アレクサンドル・デュマ)

有名な作品ですが、これまでジュブナイル版しか読んだことがなかったようです。あらためて全訳を呼んで見ると、結構きわどいシーンも多いんですね。 はじめの2巻のストーリーは有名です。17世紀のパリに上京してきた、ガスコーニュ地方の貧乏貴族の息子ダ…

RDG4 レッドデータガール 世界遺産の少女(荻原規子)

シリーズ第4巻となりますが、こんなにゆっくり物語を進めていいんでしょうか。やっと1年生の夏休みが終わって学園祭かと思ったら、1巻使って準備段階だけ!『西の善き魔女』のように、最後になってバタバタというのでは困ります。 ただし今回は、泉水子に…

巡礼者たち(エリザベス・ギルバート)

ジュリア・ロバーツ主演の映画「食べて、祈って、恋をして」の原作者として、最近名前を聞いた著者による、クレスト・ブックス初期の短編集。アメリカ各地に点在する主人公たちの、とまどい、ためらい、決断の瞬間を鮮やかに切り取った作品が光っています。 …

2011/7 なずな(堀江敏幸)

早稲田大学教授でフランス文学者の堀江敏幸さんは、作家としては「理詰め」の作品を書かれる方との印象を強く持っていました。「言葉あまりて心足らず」という言葉が浮かんでしまうほどで、少々敬遠気味だったのですが、中年男のイクメン生活を描いた『なず…