りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2011/2 逆光(トマス・ピンチョン)

北方謙三さんの『楊令伝』全15巻が完結しました。賛否両論ある幕切れでしたが、『水滸伝』全19巻から続く超大作の完結に、まずは感謝。緊張感に満ちた独特の「北方ワールド」をたっぷり堪能させていただきました。 でも今月の1位は、1700ページを超…

廃院のミカエル(篠田節子)

『Xωραホーラ』と同様に、ギリシャ宗教施設の廃墟をテーマにした小説ですが、雰囲気はかなり異なります。 現地採用の商社をクビになった美貴は、ギリシャで口にした濃厚な蜂蜜にビジネスチャンスを見出して、通訳の綾子や、偶然知り合った壁画修復士の吉園と…

核心(パトリシア・コーンウェル)

「スカーペッタ・シリーズ」17作めとなります。 ケイは、ニューヨーク検屍局の仕事に加えて、法医学解説者としてCNNに出演。ベントンは、FBIは引退し、精神科医師としてのコンサルティング活動に専念。マリーノは、ニューヨーク検事局ジェイミー・バ…

ピスタチオ(梨木香歩)

「自然と共生する生命」をテーマにして独特の物語世界を紡ぎ出している梨木さんがアフリカに関心を持つようになるのは、ある意味「必然」だったのかもしれません。出版社を辞めてアフリカに渡り、今は日本に戻ってライターとして生活している翠のペンネーム…

孤鷹の天(澤田瞳子)

日経新聞の書評欄で絶賛されていた作品です。 天平宝宇年間。奈良の大仏の開眼供養から、まだ間もない頃の物語。まだ草創期の「日本国」では、国家の基礎となる理念はまだ揺れ動いていました。高僧・道鏡に深く帰依した女帝・孝謙上皇が仏教中心の国造りを志…

災害ユートピア(レベッカ・ソルニット)

地震や洪水などの大規模災害を被災したとき、人々はどういう行動を取るのでしょう。良くてパニック、悪ければ暴徒化して略奪や殺人を犯すという「性悪論」的な印象を持っている人が多いのではないかと思います。多くのハリウッド映画も、このようなイメージ…

元気なぼくらの元気なおもちゃ(ウィル・セルフ)

「奇想コレクション」には一癖二癖ある作家が並んでいるのですが、この作家のブットビぶりには「別格」の感があります。なんせ、12歳でドラッグに手を出し、コカイン漬けになりながらもオックスフォード哲学科を卒業。25歳ではアル中とヤク中で治療セン…

尼僧とキューピッドの弓(多和田葉子)

多和田さんの小説は苦手です。『変身のためのオピウム』を読みかけて、あまりの気持ち悪さに途中で放棄して以来ですが、「いつになくストーリーラインが明確で読みやすい」との書評に騙されてしまいました(笑)。 本書は、作者の分身とおぼしきドイツ在住の…

楊令伝15(北方謙三)

全19巻の『水滸伝』から続く、長い長いシリーズがついに完結しました。思えば、好漢・豪傑による自然発生的な反乱に過ぎないオリジナルの「水滸伝」を、経済的な裏づけのある組織された革命軍と体制内改革を目指す国家との戦いとして再構成した「前シリー…

歌うクジラ(村上龍)

2022年、ハワイの海底で発見されたグレゴリオ聖歌を歌うザトウクジラから、不老不死の遺伝子が抽出されてから100年後の日本では、最上層の人間のみが長寿を手に入れ、中下層の人間や移民たちは国家によって分断されて生活する「究極の棲み分け」が進…

醜聞の作法(佐藤亜紀)

18世紀末、フランス革命前夜のパリにおけるゴシップ情報戦の物語。ちょっと前なら週刊誌や写真誌、今ならネットやツィッターに相当する、当時最先端の情報ツールは、印刷されたパンフレット。匿名情報のゴシップほど始末に終えないものはありません。噂を…

サンタ・クルスの真珠(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

「セビリアの教会が殺人を犯している」と、法王のパソコンに侵入したハッカーが残した怪文書の真相を探り出すために、ヴァチカン外務局が乗り出します。現地に赴いたのは、テンプル騎士団員のイメージを漂わせる、有能で精悍なクアルト神父。彼がセビリアで…

アリアドネの弾丸(海堂尊)

今や「超売れっ子作家」となった海堂さんはさまざまなシリーズを書いていますが、本書はデビュー作『チーム・バチスタの栄光』の直系の作品です。 MRIやCTなどの医療器具を死亡判断に用いることによって「死因不明社会」の変革をもくろむ医療側と、警察…

小さいおうち(中島京子)

直前に書かれた『女中譚』は、永井荷風、林芙美子、吉屋伸子などの小説に登場する女中に語らせることによって、「人間としての女中」を生き生きと描いた作品ですが、本書ではさらに一歩踏み込んで、大正・昭和期の「女中文化」を再構築しているかのようです。…

塩の街(有川浩)

「塩が世界を埋め尽くす塩害の時代」との紹介からバラードの『結晶世界』のような作品をイメージしていましたが、人間が「ロトの妻」のように次々と塩のオブジェになってしまうんですね。『空の中』と『海の底』と合わせて「自衛隊3部作」となる、著者のデ…

リボンステークス(須藤靖貴)

競馬雑誌「ギャロップ」に連載された小説とのこと。「競馬小説」というと、ディック・フランシスさんの良質な「競馬ミステリ」を思い浮かべますが、本書は主人公が挫折から這い上がっていく再生の物語。「リボン」は「リ・ボーン(再生)」だそうで、しかも…

夜をゆく飛行機(角田光代)

谷島酒店の4姉妹の末っ子である里里子の視点による、転換期を迎えた家族の物語。昔ながらの商店街が駅の反対側へのスーパー進出で寂れ行く中、谷島酒店も例外ではありません。父は「リカーショップ」への改装を試みるのですが、その程度で流れが変わるもの…

逆光(トマス・ピンチョン)

「歴史小説にしてSF、恋愛小説にしてポルノ、テロ小説にして大河家族小説」と紹介文にあるように、第一次世界大戦によって終焉を迎えることになる「19世紀末」という時代を多面的に描いたカオス的小説です。 では「19世紀末」とはどのような時代だった…

優しいおとな(桐野夏生)

「優しい大人は滅多にいない。優しくない大人は敵。どっちつかずは要注意」。近未来、荒廃した東京でストリート・チルドレンとしてサバイバルを余儀なくされている少年イオンは、人への「愛着」を知りません。自分を助けてくれる唯一の大人モガミにも、冷た…

下町ロケット(池井戸潤)

政治に題材を求めた前作の『民王』はイマイチでしたが、やはり池井戸さんの真骨頂は経済小説ですね。「本業回帰」したこの作品は、爽やかに仕上がっています。 かつてロケット開発に携わっていたものの、打ち上げ失敗の責任を取って辞職した佃。彼は親の跡を…

嫌な女(桂望実)

挑発的なタイトルですが、2人の女性の「人生」を描いた、しみじみとした作品に仕上がっています。 語り手は、新米弁護士の徹子。物語は、同い年で遠い親戚の夏子が弁護士事務所に持ち込んできた訴訟から始まります。夏子から一方的に婚約を破棄された男性が…

カルテット!(鬼塚忠)

昨年末に浦安市民会館で「カルテット・コンサート」がありました。浦安在住の作家が浦安を舞台に書いた小説が、音楽劇にアレンジされた舞台とのこと。映画化もされるそうです。コンサートには行けませんでしたが原作を読んでみました。 これは「家族小説」な…

ライオンの皮をまとって(マイケル・オンダーチェ)

不思議なタイトルですが、登場人物のひとりである女優のアリスが説明する芝居によって種明かしがなされています。その芝居では、はじめに女家長がまとっていた皮のコートが、登場人物に次々と渡されることによって、それまで「さなぎ状態」にあった女優たち…