りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

天保悪党伝(藤沢周平)

天保年間の江戸の町に咲いた悪の華、「天保六花撰」と呼ばれた悪党たちが知り合って、大胆にも大悪事に挑む、大江戸ビカレスク・ロマン。とはいえ本書の悪党たちは皆、悩みも屈託も抱えていて、歌舞伎大見得を切るような「大悪党」らしくはありません。その…

満州国演義5 灰塵の暦(船戸与一)

2・26事件で決起した皇道派を粛清した統制派は、日本を全面戦争へと引きずり込んでいきます。陸海軍大臣の現役武官世制を復活させ、経済の戦時体制化を進め、第二、第三の満州国を作るべく、内蒙古や北支へ向けて謀略を進めていくのです。 そしてついに、…

恐怖の谷(コナン・ドイル)

「めざせ!シャーロキアン!」とスタートした個人企画も、新潮文庫版全10冊のうち、7冊めまできてしまいました。本書は最後の長編となります。 事件を巡るホームズの謎解きに次いで事件の背景を物語る2部構成となっているのは『緋色の研究』や『四つの署…

パリ左岸のピアノ工房(T.E.カーハート)

パリに住み着いたアメリカ人の著者が、ふとセーヌ左岸にあるピアノ部品屋に気付いて足を踏み入れてみると、別世界が広がっていました。そこは、製造時代も種類も異なる古今東西の古ピアノが集まり、再生されている工房だったのです。 スタインウェイやプレイ…

RDG3 レッドデータガール 夏休みの過ごしかた(荻原規子)

修験道の本場である紀伊山地の奥深い神社で生まれ育ち、「姫神さま」の依り代の能力を持つ泉水子が入学した鳳城学園は、異能力者が集まる不思議な高校でした。前巻でいきなり、陰陽師の力を持つ生徒・高柳一条の術を見破った泉水子でしたが、日ごろは、やは…

史記武帝紀3(北方謙三)

16歳で即位した武帝も40歳となり、彼の治世はピークを迎えようとしています。彗星の如く現れた若き将軍・霍去病は匈奴を破って、張騫がもたらした西域への道を開き、大将軍・衛青との共同作戦で、匈奴を漠北の地へと追いやります。武帝の幼馴染であり、…

マラーノの武勲(マルコス・アギニス)

スペインで起こった異端審問は、植民地であった南アメリカでは本国よりも厳しく行なわれていたようです。欧州では既に国家を成していた新教徒に配慮する必要がなかったことと、インディオやユダヤ人に対する人種差別意識の存在が、残虐さを助長してしまった…

天海の秘宝(夢枕獏)

著者は「傑作」と自評していますが、もともときっちりした「ハードSF」を書く方ではありませんので、矛盾が目についてしまいます。最後まで「奇想ファンタジー」として仕上げたほうが良かったのではないかと思いますが、まず、この発想があって生まれた小…

金春屋ゴメス 異人村阿片奇譚(西條奈加)

前作『金春屋ゴメス』の続編であり、近未来の日本に存在する「鎖国状態の江戸」との特殊な設定を生かしたファンタジー系(?)ミステリー。 海外に出回った上質阿片の産地として、日本をはじめ諸外国から非難を受けた江戸国が、長崎奉行・馬込播磨守こと「金…

金春屋ゴメス(西條奈加)

まるで時代小説のようですが、「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作です。近未来の日本の中に鎖国状態の「江戸国」が存在しており、社会体制も経済水準も全てが江戸時代のままの生活を営んでいる人々がいるというのですから。この「江戸国」、さすがに…

そんな日の雨傘に(ヴィルヘルム・ゲナツィーノ)

主人公はフランクフルトに住む45歳の男性。雨傘をおともにして一日中街を歩き回っているのは、靴の試作品の「試し履き」を仕事にしているから。でも、そんな仕事だけでは生活が成り立つはずもありません。同棲していたリーザに養ってもらっていたようなも…

「悪」と戦う(高橋源一郎)

これから世に出て行く幼い子どもたちには、どんな試練が待ち受けているのでしょう。親としては、さまざまな形で襲い掛かってくる「悪」と戦っていなかくてはならない我が子を、「悪」に負けないで欲しいと、ただ見守るしかないのでしょうか。そんな親の思い…

白い牙(ジャック・ロンドン)

『荒野の呼び声』は、カリフォルニアからアラスカに売り飛ばされた混血犬バックが、ついに巡り合った理想の飼い主の死とともに野生へと旅立っていく物語ですが、本書はその逆バージョン。 犬の血を1/4ひくとはいえ、野生の狼として生まれた「ホワイト・フ…

アメリカ西部開拓博物誌(鶴谷寿)

昨年、新型インフルエンザのせいで幻に終わったサンフランシスコ・ヨセミテ旅行を計画していた際に、シェラネバダ近郊に点在している「ゴールドラッシュ関連史跡」が気になっていたので、遅まきながら関連書籍を探してみました。 アメリカ独立前に西部奥地へ…

メイスン&ディクスン(トマス・ピンチョン)

アメリカ独立戦争の直前のこと。ともにイギリス国王の勅許状によって中間の州境地帯の領有を主張するペンシルヴァニアとメリーランドの両植民地の境界を定めるよう、天文学者のチャールズ・メイソンと測量士のジェレマイア・ディクソンに依頼が舞い込みます。…

満州国演義4 炎の回廊(船戸与一)

シリーズ第4巻では、混乱の中で生れた満州国が歩み始めた苦難の道のりが描かれます。建国当初の抗日反満勢力だった寄せ集まりの「抗日義勇軍」に変わって、コミンテルンに指導される「抗日連軍」が、満州国内の反乱勢力となっていきます。現地事情に対する…

丹生都比売(梨木香歩)

強い母を持つ息子が母の期待に応えようと苦しむ物語・・というとありがちですが、ここでいう母親は「鸕野讚良皇女(うののさららひめみこ)=後の持統天皇」であり、息子は皇太子でありながらついに皇位につくことのなかった「草壁皇子」ですから、シリアス…

蟻の革命(ベルナール・ウェルベル)

地上で社会生活を営む2大生物である人間と蟻が、互いに相手の存在を「発見」して手探りで共生を試みるという「奇想シリーズ」の完結編。 アリの側では、あの103号が引き続き主役を務めます。第1巻『蟻』では「世界(フォンテーヌブロー公園)の果て」ま…

東京島(桐野夏生)

岸本佐知子さん編集の『変愛小説集2』に収められている「彼氏島」という作品は、イケメンの原住民だけが住む島に漂着して逆ハーレム状態になったギャルの悲喜劇がテーマですが、この作品の清子の場合はもっとシリアスです。 夫とのクルーズの最中に暴風雨に…

ロスト・シンボル(ダン・ブラウン)

『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』に続く「ラングドン・シリーズ」第3弾は、ワシントンDCを舞台にした「フリーメイソン」の秘密に関わる事件でした。アメリカが舞台で、アメリカ建国の父たちが関わる秘密というと、ニコラス・ケイジの「ナショナ…

小暮写眞館(宮部みゆき)

宮部さんのひさびさの現代小説は、「心霊写真バスター」の高校生の物語。といっても、超能力者が登場したり、アクション場面があるわけではありません。心霊写真は、それぞれの人物が過去に決着をつけるための「きっかけ」にすぎず、全体を通してみると、ご…

ファンタジーのDNA(荻原規子)

和製ファンタジーの大傑作『勾玉シリーズ』や『[http://blogs.yahoo.co.jp/wakiabc21/30381102.html 西の善き魔女』の著者が、子どもの頃からの読書体験を紹介しながら「ファンタジー論」を展開します。 ファンタジーの原型となることが多い「神話」は、「取…

隔離小屋(ジム・クレイス)

文明は荒廃し、盗賊団は跳梁し、自然は猛威をふるう、時代不明の「アメリカ」。中世に逆戻りしたような世界で細々と生き延びている人々の間には、2つの熱病が蔓延していました。ひとつはペストのような伝染性の死病であり、罹患した者は直ちに隔離されます…

求天記 宮本武蔵正伝(加藤廣)

宮本武蔵というと、昔なら吉川栄治の小説、最近ならコミックの「バガボンド」。器の大きな悪ガキが修行や真剣勝負を重ねながら、宗教者との出会いもあって、剣の道を究めていく中で悟りを得た人物というイメージができあがっているのではないでしょうか。(…

鍵のかかった部屋(ポール・オースター)

幼馴染みの友人ファンショーが、美しい妻と小説の原稿を残して失踪してしまいます。小説を出版するのか、焼き捨てるのかは「僕」の判断に委ねるとの置手紙を残して。小説は傑作であり、出版されて好評を博します。主人公は残された友人の妻ソフィーを愛する…

2010/8 サラの鍵(タチアナ・ド・ロネ)

めちゃくちゃ暑い日が続きましたが、読書量は落ちませんでした。今年の夏はあまり休めず、せっせと通勤していたからでしょうね。通勤電車内が、最大の読書場所なんです。それとベッドの中。^^ 8月には大御所の若いときの作品を2つ読みました。アーヴィン…