りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「ウィジェット」と「ワジェット」とボフ(シオドア・スタージョン)

河出書房新社の「奇想コレクション」の中心はスタージョンのようですね。現在まで刊行されている18冊のうち、3冊がスタージョンですので。 「帰り道」: 家出した少年が、故郷から出て行く道で奇妙な男たちと出会います。彼らは皆、かつて家出して広い世界…

読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール・バイヤール)

「本は読んでいなくてもコメントできる。むしろ読んでいないほうがいいくらいだ」との衝撃的なキャッチコピーがついていましたが、その種のキワモノ本ではありません。 「本を読んだ」とはどういうことなのか。「本を読んでいない」とはどういうことなのか。…

ザ・万遊記(万城目学)

『鴨川ホルモー』や『鹿男あをによし』のマキメさんのエッセイ集です。破天荒な設定の小説と比較すると、意外とマトモでフツー。もっともマキメさんの小説のほうも、最近は破天荒な面白さが薄れてきています。直木賞を狙って作風を変えている最中なのでしょ…

満州国演義3 群狼の舞(船戸与一)

壮大な歴史クロニクルの第3巻では、1932年3月の満州国建国から、熱河作戦を経て塘沽停戦協定が結ばれるまでの1年半ほどが描かれます。満州国建国に沸く国内の熱狂と現地で目にする理想と現実の差を背景にして、主人公の敷島4兄弟が満州に抱く思いも…

盗まれたコカ・コーラ伝説(ブライアン・フォークナー)

変わった才能を持つニュージーランドの中学生たちが活躍する、YA冒険小説です。この作品ではほとんど活躍しない少年のエピソードもチラッと紹介されていますので、シリーズ化されているようです。 本書の主人公は、ソフトドリンクなら何でも当てられる「奇…

ソルハ(帚木蓬生)

カブールで生まれ育った少女ビビにとっての日常は、戦争でした。彼女が10歳になったとき、既に統治能力を失っていたアフガン政権は崩壊して、カブールを制圧したタリバンによる支配がはじまります。戦争の終結を喜んだのもつかの間、タリバンの統治は残虐…

私の家では何も起こらない(恩田陸)

「恩田ホラー」全開の小説です。女流作家が1人で暮らす、丘の上の二階建ての旧い家。幽霊屋敷と噂されるその家では、様々な猟奇事件が起きていました。さらわれてきてカニバリズムの餌食になった子どもたち。アップルパイが焼けるキッチンで互いに刺し合った…

シャーロック・ホームズの帰還(コナン・ドイル)

前巻『シャーロック・ホームズの思い出』の「最後の事件」で、悪の天才モリアーティと相打ちでライヘンバッハの滝に落ちて死亡したと思われていたホームズが再登場。シリーズを終了させるつもりだった著者が、読者からの強い要望に応えてホームズを「帰還」…

代替医療のトリック(サイモン・シン/エツァート・エルンスト)

ハロウィーンの挨拶をもじった「Trick or Treatment?」との奇抜なタイトルがついていますが、ここでいう「Treatment」とは治療のこと。鍼、ホメオパシー、カイロプラクティック、ハーブ療法などの代替医療の有効性や有害性を「科学的に」検証した本です。 そ…

紅無威おとめ組 壇ノ浦の決戦(米村圭伍)

軽業師の小蝶、女剣士の桔梗、発明家の萩乃が特技を生かして、お江戸を騒がす大悪人・紀伊国屋幻之介と闘う「大江戸チャーリーズ・エンジェル」シリーズの第3弾。 前作『南総里見白珠伝』で、「智の珠」で不思議な力を発現させた小蝶の活躍によって幻之介の…

変愛小説集2(岸本佐知子 編)

「レンアイ」ではありません。「ヘンアイ」です。独特の感性を持つ翻訳家の岸本さんによる「変愛小説アンソロジー」の第2集。常人には感情移入できないこと、間違いなし! 一方で、現代の「純愛」とは「変愛」にしか存在しないのかとも思えてきます。 1.…

少女には向かない職業(桜庭一樹)

大ブレイクした『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞を受賞し、『私の男』では初候補で直木賞をかっさらってしまった桜庭さんの一般小説デビュー作品。多感な思春期の少女が自分をとりまく「せかい」に闘いを挑むというのは、桜庭さんが得意とするテーマ…

夏への扉(ロバート・A.ハインライン)

1957年出版の、古典的な「タイムトラベルSF」であり「猫SF?」でもある作品です。 1970年のロサンゼルス。主人公ダンが起こした家事用ロボットのベンチャーは好調で、美しい恋人ベルとの結婚を控えて幸福の絶頂にいましたが、共同経営者の親友マ…

熊を放つ(ジョン・アーヴィング)

アイオワ大学でのライターズ・ワークショップ時代に書かれた、アーヴィングのデビュー作。1968年に刊行されましたが、売れ行きはさんざんだったとのこと。でも本書には、後に『ガープの世界』で花開く「圧倒的な物語」の萌芽が見て取れますし、「ウィー…

満州国演義2 事変の夜(船戸与一)

満州国の成立から滅亡までを対象とする壮大な歴史クロニクルの第2巻。本書では1931年9月に起きた満州事変の前夜から、1932年1月の第一次上海事変に至る時期が描かれます。それぞれ異なった立場から満州国と関わっている敷島4兄弟も、歴史の激動…

不思議のひと触れ(シオドア・スタージョン)

河出書房新社の「奇想コレクション」は、もう18冊も発刊されているんですね。そのうちの3冊を占めているスタージョンは、エース的存在なのでしょう。はじめに発刊された本書は、SF的サイコ・ミステリの色彩が強い第2短編集の『輝く断片』よりも、著者…

リミット(五十嵐貴久)

ラジオの深夜番組に届いた「番組終了後に自殺する」との予告メール。局の幹部は、「いたずらの可能性を否定できない」として無視するよう指示しますが、ディレクターの安岡は、パーソナリティを務める人気お笑い芸人の奥田に働きかけて、放送の中で自殺の翻…

蟻の時代(ベルナール・ウェルベル)

前作『蟻』で、密かに「異種文明コンタクト」を果たすことになった人類と蟻でしたが、人類代表とも言える、生物学者だった故エドモンの甥であるジョナサン一家と救出隊は地下に閉じ込められて蟻たちから栄養補給を受けて生き延びている状態。 一方で、人類の…

数えずの井戸(京極夏彦)

「四谷会談」からの『嗤う伊右衛門』、「復讐奇談安積沼」からの『覘き小平次』に続く、古典怪談を題材にしたシリーズ第3作は「番町皿屋敷」でした。人口に膾炙している「皿屋敷怪談」のさまざまなバージョンを紹介して、それではつじつまが合わないとして…

新参探偵、ボツワナを騒がす(アレグザンダー・マコール・スミス)

「サバンナのミス・マープル」とも言われる、ボツワナ唯一の女性探偵、マ・ラモツエの活躍を描く「No.1レディーズ探偵社」シリーズ第4作。 例によって、アフリカ唯一の成功国家とされるボツワナらしい、アフリカの伝統と世相が絡んだゆる~い事件が起こ…

婆沙羅(山田風太郎)

鎌倉幕府滅亡後の南北朝史は、めまいがするほどに複雑怪奇です。建武の親政から離反した足利尊氏・直義兄弟は、一時は京に入るものの新田・北畠連合軍に破れて都落ちしまずが、九州で勢力を立て直して再度上京。新田・楠を破って後醍醐天皇を吉野へ追い落と…

サラの鍵(タチアナ・ド・ロネ)

7月16日は、フランスにとっての暗い記念日です。1942年のこの日、ナチスの支配下にあったとはいえフランス警察の手でユダヤ人の一斉検挙が行なわれ、4千以上の子どもたちを含む多数のユダヤ人が、ヴェロドローム・ディヴェールという室内競技場に押…

バスカヴィル家の犬(コナン・ドイル)

ホームズシリーズの第5作は、さすがにかつて読んだ覚えがある名作長編です。悪の天才・モリアーティ教授と相打ちでライヘンバッハの滝に沈んだホームズですが、復活を待望するファンの声に後押しされて書いた作品とのこと。でも本書は「思い出話」との扱い…

民王(池井戸潤)

「銀行小説家」から「企業小説家」へと変貌を遂げてきた池井戸さんが、政治の世界を題材とした作品に踏み込んできました。 2人続けて1年しかもたずに辞任していく総理。選挙対策のために担ぎ出された後任の総理は、答弁メモに書かれた漢字も読めずに、誤読…

道徳という名の少年(桜庭一樹)

野田仁美さんの手による挿絵がついた、ヴィジュアルストーリーです。小説部分は、これまでの桜庭さんの作品のエッセンスを集めた「大人びた童話」で、近親相姦という背徳によって生まれた「ジャングリン(道徳)」という名の少年を中心にした、不思議な一族…

2010/7 ナニカアル(桐野夏生)

桐野さんの『ナニカアル』に刺激されて、林芙美子さんの『放浪記』を読んでみました。「私は宿命的な放浪者である。私は古里を持たない」とはじまる昭和初期のベストセラーは、20代の著者が上京してダメンズばかりと出会い、都会の底辺を這い回った体験を…