りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

小さな命が呼ぶとき(ジータ・アナンド)

ピューリッツァー章受賞記者による、実話ドラマです。ハーバード大学院を卒業して高給のコンサルティング会社に就職し、愛する女性とも結ばれ、順風満帆のキャリアを踏み出したジョンの生活が一転してしまいます。幼い娘と息子が、ポンペ病という難病にかか…

輝く断片(シオドア・スタージョン)

アメリカのSF・幻想小説家として知られる著者の、1941年から1957年にかけて書かれた、ミステリ色の濃い8つの作品を選んで集めた短編集。といっても、通常のミステリとは一味違います。前半の3編には特異な状況が描かれていて、SFもしくは幻想…

幽霊たち(ポール・オースター)

『ガラスの街』に続く、「ニューヨーク三部作」の第2作。前作に続いて、「都会の探偵」というモチーフが登場します。 私立探偵ブルーは、ホワイト氏から、ブラックなる男を見張るようにとの依頼を受けます。ホワイト氏が用意した真向かいの部屋に住み、ブラ…

震える山(C・J・ボックス)

ワイオミングの心優しい猟区管理官ジョー・ピケットが、自殺した先輩の後釜として花形地区のジャクソンへと単身で赴任することになりました。この表紙を見てください。グランド・ティトンです。映画「シェーン」の舞台です。ティトンとイエローストーンをド…

アンジェリク 緋色の旗(藤本ひとみ)

フランス革命期をたくましく生き抜く、貧乏貴族の娘アンジェリクの物語。フランス革命がバスチーユ城砦の襲撃から始まったことは有名な史実ですが、アルプスに近い国境の街・グルノーブルでも、城砦が暴徒に襲われました。美貌の青年貴族との結婚を控えてい…

親鸞(五木寛之)

昭和を代表する文豪であり、仏教にも造詣の深い著者が、青年僧・親鸞の魂の彷徨を描いた大傑作・・・と期待して読んだのですが、アレッという感じで終わってしまいました。 底辺に生きる者たちとも交流していた少年が比叡山に入り、20年に渡って厳しい修行…

楊令伝12(北方謙三)

宋末の混乱期、限定された地域で「民のための国」を実現すべく、日本と西域を含む交易の道を築くことによって民を富ませる政策を進める楊令ですが、梁山泊が天下統一を目指さないことに対して、内部からも不満の声があがってきます。 一方で、周囲の情勢は刻…

去年はいい年になるだろう(山本弘)

何とも謎めいたタイトルですが、これはタイムマシンが登場するパラレル・ワールドもの。2001年9月11日、24世紀の地球から「ガーディアン」と名乗るアンドロイドの大群が現れます。圧倒的な技術力を持ち、過去の歴史を熟知している彼らは、世界中の…

八甲田山死の彷徨(新田次郎)

30年以上も前に、高倉健と北大路欣也のダブル主演で映画化された作品です。当時の出演者を見ると、三國連太郎、島田正吾、大滝秀治、丹波哲郎、藤岡琢也、前田吟、小林桂樹、加山雄三、森田健作、緒形拳、栗原小巻、加賀まりこ、秋吉久美子といった大スタ…

運命の書(ブラッド・メルツァー)

アメリカ合衆国大統領専用車を狙った銃弾に当って次席補佐官は絶命。銃弾にビビッた瞬間を写真に撮られた大統領は再選に失敗。末端補佐官であったウェスは流れ弾に当って、顔と心に深い傷を負います。 8年後、元大統領の秘書というキャリアの行き詰まりの仕…

新・雨月(船戸与一)

江戸から明治への激動期に日本を二分して争われた戊辰戦争を、歴史の底でうごめいて沈んでいった3人の男たちの視点から描き出した力作です。 1人は長州藩の間諜・物部春介。木戸孝允から命を受けた春介は、修験僧に身をやつして奥羽越列藩同盟の力を削ぐべ…

遺失物管理所(ジークフリート・レンツ)

北ドイツの大きな駅の遺失物管理所に、24歳の青年ヘンリーが着任します。裕福な家庭の出身でコネによってドイツ鉄道に入社したものの、出世欲も金銭欲もなく、花形職場とは程遠い遺失物管理所にたどり着いたヘンリーは、これまでの人生において、居場所を…

四つの署名(コナン・ドイル)

「シャーロック・ホームズ」シリーズの長編第2作です。 ホームズがコカイン注射で退屈を紛らわしているというショッキングな場面に、後にワトソンの妻となるメアリ・モースタン嬢が、不思議な事件を携えて登場。彼女の父親が失踪しての後、正体不明の人物か…

高慢と偏見とゾンビ(ジェイン・オースティン/セス・グレアム=スミス)

なんとジェイン・オースティンさんの名作を「ゾンビもの」として改変するという荒業小説。18世紀末のイギリスでは謎の疫病が蔓延し、死者がゾンビとなって人々を襲っていました。田舎町ロングボーンに暮らすベネット家の5人姉妹は、少林拳をマスターして…

ラウィーニア(ル=グィン)

アウグストゥスの時代の詩人ウェルギリウスの創作による叙事詩「アエネーイス」で、炎上するトロイを脱出してイタリアにたどり着き、やがてローマの祖となる主人公は、地方王族の娘ラウィーニアを巡って、彼女の婚約者であったトゥルヌスと争います。でも本…

三世相~並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

大阪から江戸に移ってきた歌舞伎・狂言作家の並木五瓶に師事し、師匠のために市井の事件からネタを拾ってくる役割の青年・拍子郎を狂言回しとする人情もの。『一の富』、『二枚目』に続く、シリーズ第3弾です。3作とも5編の連作短編というのは、「五瓶」…

夜と灯りと(クレメンス・マイヤー)

東西統一後のドイツで、旧東ドイツ地域はベルリンを除いてすっかり「負け組」に入ってしまった印象があります。本書は、1977年に旧東ドイツのハレで生まれた若い作家が、「負け組」としての人生をおくる旧東ドイツ出身者のさまざまな姿を描き出した短編…

シナン(夢枕獏)

旧ユーゴスラビア唯一のノーベル文学賞受賞者イヴォ・アンドリッチ氏の『ドリナの橋』を読んだことがあります。ボスニアとセルビアを結ぶ橋を境にして、同じ民族でありながら国家と宗教を異にするようになってしまった人々が繰り広げる愛憎の大河歴史小説。…

岩崎弥太郎と三菱四代(河合敦)

大河ドラマ「龍馬伝」で脚光を浴びている岩崎弥太郎の「成り上がり物語」がメインですが、二代目の弟・弥之助、三代目の息子・久弥、四代目の甥(弥之助の息子)・小弥太へと至る歴代三菱当主の業績を中心に、敗戦による財閥解体までの岩崎家の歴史を紹介し…

1Q84 Book3(村上春樹)

『Book1・2』を読んだ時には「続編がなくてもかまわない」との感想を持ちましたが、「Book3」は続編を必要とする作品であるように思えます。謎解きははじめから期待していませんが、ここではまだ問題の提起の仕方が不十分なように思えてしまった…

LAタイムズ(スチュアート・ウッズ)

NYのイタリア人貧民街に生まれ、マフィアの取立て屋をしていた少年ミケーレの趣味は映画を見ることで、ボスからも「腕は立つが映画好きが気にかかる」と言われるほど。 やがて、自分を掟に縛りつけようとするボスを衝動的に射殺してしまったミケーレは、名…

赤死病(ジャック・ロンドン)

『荒野の呼び声』や『白い牙』で有名なジャック・ロンドンが、鉄道無賃乗車でアメリカを渡り歩くホーボー少年であったことや、アザラシ漁船の乗組員だったり、アラスカの極地でゴールドラッシュに加わったりと、流行作家となる前は波乱万丈の生活を送ってい…

蟻(ベルナール・ウェルベル)

奇想の書です。アリが文明を築いていて、人類とファースト・コンタクトを果たすというのですから。 死んだ伯父が遺してくれたパリ郊外のアパートに移り住んだウェルズ一家は、地下室のドアに書かれた「立入厳禁」の文字に気づきます。誘惑に抗しきれずに地下…

ロジー・カルプ(マリー・ンディアイ)

カリブ海のリゾート島、グアドループに降り立った子連れの白人妊婦ロジー・カルプ。フランス本土での暮らしに疲れ、この地で成功を収めているという兄ラザールを頼って一文無しでたどり着いたのですが、迎えに来るはずの兄は一向に姿を現しません。やがて彼…

2010/5 T・S・スピヴェット君傑作集(ライフ・ラーセン)

山田風太朗さんの『明治小説シリーズ』を読み終えてしまい、楽しみがひとつ減ってしまったように思えたものですが、まだまだ素晴らしい作品がありました。明治維新に先駆けた水戸天狗党の乱の顛末を描いた『魔群の通過』も悪くありませんでしたし、滝沢馬琴…