りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

須賀敦子を読む(湯川豊)

著者は、『コルシア書店の仲間たち』と『ヴェネツィアの宿』の担当編集者だった方です。さぞ須賀さんのエピソードをたくさんご存知なのでしょうが、「本ができるまでの舞台裏を書く気はない」として、あくまでも須賀さんが生前に出された5冊の著作をテキス…

想い雲 - みをつくし料理帖(高田郁)

シリーズ3作めとなります。大阪の料亭で働いていた天涯孤独の少女・澪は、没落した主家のご寮さん・芳とともに江戸にやってきて、小さな料理屋の主人・種市に気に入られて料理を任されています。 上方仕込みの薄味料理の腕に似合わず、澪に降りかかってくる…

ウォータースライドをのぼれ(ドン・ウィンズロウ)

『ストリート・キッズ』あがりの心優しい青年探偵「ニール・ケアリー」シリーズの4作目。これまで事件があるたびに関係者の女性に惚れてしまい、イギリスや中国でフラフラしていたニールですが、前作『高く孤独な道を行け』で出会ったカレンとは「運命の出…

アンチェロッティの戦術ノート(カルロ・アンチェロッティ)

ACミランを率いて欧州チャンピオンズ・リーグを2度制覇し、今期は就任1年目のチェルシーをプレミア・リーグ制覇に導いたばかりの名監督が語る、欧州サッカーの戦術論、選手論、監督論。 まずは、印象に残った戦術論をいくつか紹介しましょう。・「ボール…

二枚目 並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

人気狂言作者・並木五瓶と、奉行所に勤める兄を持ち、師匠の創作のために「町の噂」を集める弟子の拍子郎を主人公にした、シリーズ2作めです。前作に続いて、男女の仲の難しさをしみじみと描いたエピソードが並んでいるのですが、今回の事件は、五瓶自身に…

お行儀の悪い神々(マリー・フィリップス)

ベックさんが紹介してくれた、とっても楽しい本でした。かつてギリシャで栄華を誇ったオリュンポスの神々が、現代のロンドンで困窮に喘えぎつつ細々と生活しているというのですから。 アポロンはいんちき霊能者として、アルテミスはドッグ・シッターとして、…

作家と新聞記者の対話(高村薫/藤原健)

2006年10月からの3年間、作家の高村薫さんが、大阪毎日新聞の編集長であったジャーナリストの藤原健氏と、多面的な問題を討論した対談集です。対談が行なわれた時系列を逆にたどるような3章構成となっていますが、民主党政権の誕生直後に行われて民…

八犬伝(山田風太郎)

やはり近世の大奇想文学であるデュマの『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』より3年早く登場した滝沢馬琴の『八犬傳』は、実に28年という年月をかけて書き綴られたものだそうです。 本書は、滝沢馬琴が老友の葛飾北斎に向けてこれから執筆しようとしている『…

スカーペッタ(パトリシア・コーンウェル)

一時「国際的陰謀」に走った時期の評判が悪かったせいでしょうか、この数作はシリーズ初期に戻ったような作品が続いています。ただし、登場人物が年齢を重ねているのは仕方ありませんね。「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のように、「永遠の○○歳」とは…

シンメトリーの地図帳(マーカス・デュ・ソートイ)

オックスフォード大学教授であり、イギリスで抜群の知名度を誇る数学者である著者が、「素数論」に次いで紹介してくれたのは「対称性」をキーワードとした「群論」でした。 読み物としては楽しめましたが、数学的な内容は難解。「3次元空間でのオレンジの積…

空の中(有川浩)

ラピュタとガメラとプテラノドンが好きだという作者が書いた、「怪獣ものと恋愛ものを足し合わせて、航空自衛隊で和えた小説」だそうですが、まさにその通り。 200X年、高度2万メートルの日本上空で立て続けに起きた航空機事故。ひとつは純国産民間ジェ…

花のあと(藤沢周平)

1985年に出版された短編集ですから、作家として油が乗り切っていた頃の作品ですね。8編が収録されていますが、『隠し剣シリーズ』や『用心棒シリーズ』のように統一されたテーマがあるわけではなさそうです。 「鬼ごっこ」 身請けして囲っていた若い女…

アンゲル叔父(パナイト・イストラティ)

前作『キラ キラリナ』に続いて、著者自身がモデルと思われる若きアドリアン青年が、先人たちの凄まじい人生の物語を聞くという構成です。今回の語り手は、死を間近にしたアンゲル叔父と、彼の朋友であるイェレミア。 アンゲル叔父は貧しい一族の中での成功…

つくも神さん、お茶ください(畠中恵)

『しゃばけシリーズ』の著者によるエッセイです。畠中さんは、短大のビジュアルデザインコースを卒業された後、漫画家のアシスタントやイラストレーターの仕事をしながら、都築道夫さんが主催する「創作講座」で7年間学び、ついに、日本ファンタジーノベル…

T・S・スピヴェット君傑作集(ライフ・ラーセン)

本書の内容を一言で言ってしまうと、家族皆から愛されていた弟を事故で亡くした(注1)モンタナの牧場に住む図版制作の天才少年が、両親(注2)のもとを離れてワシントンまで一人旅をした末に、両親の愛を再発見する物語。 ではなぜこの本が、大辞典のよう…

ダブリンで死んだ娘(ベンジャミン・ブラック)

ブッカー賞作家ジョン・バンヴィルが、別名義で著わしたミステリです。 1950年代のダブリン。聖家族病院の病理医クワークは、出産直後と見られる若い女性の遺体の死因に疑問を持ちます。しかも、その女性の死亡診断書を書いたのは、義兄のマルだったので…

コララインとボタンの魔女(ニール・ゲイマン)

話題の3Dアニメ映画の原作は、ニール・ゲイマンさんが書いていたんですね。大きな古い家に引っ越してきたものの、忙しい両親に構ってもらえないコララインが、どこにも通じていないはずのドアを開くと、ボタンの目をした「もうひとりのママ」に出会います…

アルネの遺品(ジークフリート・レンツ)

舞台は北ドイツの港町、ハンブルク。船乗りの父親と家族を一家心中で失った12歳の少年アルネは、父親の友人であった家族に引き取られますが、15歳の夏に自殺してしまいます。本書は、新しい兄としてアルネを理解しようと努めながら果たせなかった5歳年…

魔群の通過(山田風太郎)

幕末の水戸藩で、尊皇攘夷派と佐幕派とが武力で対立した「天狗党事件」を、山田さんは「日本史上唯一の内戦」と位置づけています。幕藩体制を支える御三家のひとつでありながら、尊王思想を提唱した水戸国学の総本山でもあるという、ともに譲れないイデオロ…

「ジャパン」はなぜ負けるのか(サイモン・クーパー/ステファン・シマンスキー)

南アフリカW杯の日本代表が選出されました。アントラーズの小笠原が入らなかったのは悔しいけど、選ばれたメンバーには大活躍して欲しいものです。 なんとも挑発的なタイトルですが、本来のタイトルは「経済学が解明するサッカーの不条理」。本書では、ジャ…

存在という名のダンス(大崎善生)

北海道の岩見沢にある謎の教育施設は、厳しいルールと鉄条網で世間から隔離されており、毎年何人もの生徒が行方不明になるといいますから、まるで収容所。函館で危篤に陥ったという父に会うために、黄色いインコとともに施設を脱走した少年は、海に沿ってひ…

償い(矢口敦子)

主人公は、元脳外科医のホームレス。家族への無関心から息子を病死させ、妻を自殺させてしまったことで、生きる価値を見失い、自分の名前という固有名詞を捨て去った男が、東京郊外のベッドタウンに流れ着きます。 そこは、彼が医師免許取立ての頃に目の前で…

千の輝く太陽(カーレド・ホッセイニ)

「アフガニスタンの激動に翻弄されながらも生き抜く女性たちの姿を感動的に描く」との硬いテーマであるにもかかわらず、とっても読みやすい本でした。翻訳も素晴らしい。にもかかわらず、途中で挫折しそうになってしまいました。理由は・・あまりにも辛すぎ…

宇宙の戦士(ロバート・A.ハインライン)

「パワードスーツ(強化服)」というアイデアは、日本では「ガンダム」で一般的なものとなり、映画「マトリックス」や「アバター」にも使われて、今やグローバル・スタンダードとなった感がありますが、それがはじめて登場したのが50年前に書かれた本書で…

2010/4 アニルの亡霊(マイケル・オンダーチェ)

今月の上位に選んだ作品には、著者が祖国に抱く感情がストレートに現れていたようです。それは、内戦に苦しむ祖国への鎮魂であり、戦乱の中でも生活を営む庶民への愛情であり、許されない犯罪を起こした国家の国民であるとの原罪意識であり、さらには祖国を…

逃げてゆく愛(ベルンハルト・シュリンク)

かつてナチズムの台頭を許した国民であるとの「原罪意識」に正面から向き合った秀作である『朗読者』や『帰郷者』の著者による、「愛」をテーマとした短編集です。どうして「愛」は、自分の気持ちに忠実になろうとすればするほど、遠ざかってしまうのか。決…