りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

個人的な体験(大江健三郎)

昨年暮れから大江さんの本をポツポツ再読しているのですが、なんとこの名作が初読でした。 ストーリーはシンプルなのです。結婚後もまだアフリカ冒険旅行を夢見ているモラトリアム青年の予備校講師、鳥(バード)が、障碍児の出産を機に、一時はその子の衰弱…

海の底(有川浩)

図書館というもっとも平和的な機関が武装しなくてはならない状況を描いて、読者の意表を衝いてくれた『図書館戦争シリーズ』は楽しかったのですが、ラブコメ的な雰囲気が苦手でそれ以外の本は読んでいませんでした。 本書はその前に書かれた作品で、もちろん…

跳躍者の時空(フリッツ・ライバー)

全10編のうちの5編を占める「天才猫ガミッチ」シリーズが最高に楽しいですね。IQ160のスーパー猫ガミッチが、「馬肉の先生」と「ネコちゃんおいで」と呼ぶ飼い主の夫妻と繰り広げる、思索と冒険の物語。 5編とも楽しく読みましたが、やはり一番は表…

エスケイプ/アブセント(絲山秋子)

闘争と潜伏に明け暮れた20年の末に、気がついたら40歳になっていた活動家。長い悪夢から覚めたような主人公・正臣は、妹が開いた託児所を手伝うために郷里に戻る前に、あてのない旅行に出るのです。 失うものも、信じられるものもない。あるのは小さな自…

ボート(ナム・リー)

1978年に南ベトナムに生まれ、生後3ヶ月で両親に抱かれてボートピープルとしてオーストラリアに渡った著者が、オーストラリアで異邦人として生きながら、作家への道を歩む物語・・ではありません! まず冒頭から、アメリカのアイオワ大学のライターズ・…

陰陽師~天鼓ノ巻(夢枕獏)

平安時代の陰陽師・安部清明と、彼の親友で横笛の名手・源博雅安部の名コンビが、京の都で起こる怪しく妖しい事件を鮮やかに解決していく人気シリーズの最新作。8編が収録されていますが、今回「助演」で登場したのは、百人一首でもおなじみの盲目の琵琶法…

アフリカ・レポート(松本仁一)

「悪魔の銃」カラシニコフを切り口にして、国家と武力のあり方を問いかけた名レポート『カラシニコフ』の著者が、アフリカ問題に切り込んだ作品です。 豊かだったジンバブエの農業を10年で壊滅させ、大量流民を発生させた原因は何か? アパルトへイトを克…

すべては遠い幻(ジョディ・ピコー)

幼いときに母親を亡くしてからずっと、愛情深い父親によって育てられたディーリアに衝撃的な事件が降りかかります。28年前に起こしたという幼児誘拐事件で、愛する父が逮捕されてしまうのです。被害者はなんと、当時4歳だったディーリア自身。父は、離婚…

太陽のパスタ、豆のスープ(宮下奈都)

突然、婚約破棄を言い渡された明日羽(あすわ)は、目の前が真っ暗になります。そんな明日羽の再生を助けたのは、料理が下手な叔母の六花(ロッカ)さんが作ったまずい「太陽のパスタ」と、友人の郁ちゃんが作ってくれたおいしい「豆のスープ」でした。 ・・…

乾隆帝の幻玉(劉一達)

舞台は、中華民国が成立した後の北京。袁世凱帝政があえなく失敗した後といいますから北京には諸外国も駐留しており、各地では軍閥が割拠し、中国は独立国家の体を成していない頃のことでしょうが、戦火は収まっていたので庶民の生活は比較的安定していたの…

バウンド - 纏足(ドナ・ジョー・ナポリ)

北京師範大学の夏期講座で創作を教えた経験を持つ著者による「中国版シンデレラ」。もともと「シンデレラ」の原型は中国にあったのだそうです。でもこれは、伝承とは一線を画したオリジナル・ストーリー。 幼い時に母を亡くし、自分を大切にしてくれる父も亡…

SOSの猿(伊坂幸太郎)

孫悟空は、体毛の一本一本を自らの姿に変える分身の術を使うのですが、その体毛はその後本体に戻るのでしょうか。それとも抜けた体毛として死に絶えるのでしょうか。もそも、本体にも戻らずに生き延びた分身がいて、その「気」が現実世界に広がって、誰かに…

ルー・サンクション(トレヴェニアン)

『アイガー・サンクション』の主人公、登山家にして大学教授、天才的美術鑑定家のジョナサン・ヘムロックは、アイガーでの仕事を最後にアメリカの組織CI I から引退していたのですが、今度はイギリスの諜報機関の任務に引きずり込まれます。 タイトルの「…

地図のない道(須賀敦子)

須賀敦子さんの遺構を含む作品集です。友人が贈ってくれた一冊の本に誘われてヴェネツィアへと向かい、中世から長い間監視され迫害をされてきた貧しい階層のユダヤ人居住地を訪れた著者は、生涯で一番辛かった日々のことを思い出します。それは、結婚して5…

高く孤独な道を行け(ドン・ウィンズロウ)

「ニール・ケアリー」シリーズの3作め。『ストリート・キッズ』では薬づけのお嬢様に心を奪われ、『仏陀の鏡への道』では中国の美女工作員に一目惚れしてしまったニールの次の仕事は、ハリウッドで働く母親の依頼で、親権のない父親が連れ去った赤ちゃんを…

旅人 国定龍次(山田風太郎)

『明治小説シリーズ』に先駆ける内容の作品です。時代は幕末、幕軍に破れた水戸の天狗党が大阪城にいる一橋慶喜卿に請願するために上京する途上、上州を通過する時から物語が始まります。足利を避けて通って欲しいと願い出たのは、上州の渡世人を仕切る大前…

象牙色の賢者(佐藤賢一)

佐藤賢一さんによる「アレクサンドル・デュマ三代史」シリーズの最終巻です。デュマ家の歴史は、フランスで食い詰めた貴族がハイチで黒人奴隷に産ませた私生児であるトマ・アレクサンドルに遡ります。父親の姓を継ぐことを許されず、姓を持たなかった母の呼…

冠・婚・葬・祭(中島京子)

中島京子さんの著作で、唯一未読だった本です。「冠・婚・葬・祭」をテーマに、人生の断片を切り取ったエピソードとでもいう内容ですが、最後の節目である「葬」と、死者を送るお盆をテーマにした「祭」が、強く印象に残りました。「婚」の話に萌えないよう…

アニルの亡霊(マイケル・オンダーチェ)

現在もまだ状況は流動的ですが、1980年代以降のスリランカは、南部の反政府過激派と北部の分離独立を求めるゲリラがともに政府軍に宣戦布告をし、内戦状態に陥っていました。政府軍による掃討も激しく、「組織的な大量殺人」が行われているという訴えを…

殺してもいい命 ― 刑事 雪平夏見(秦建日子)

「刑事・雪平夏見シリーズ」の3作目となります。前2作はいかにも「シナリオライター」が書いた小説という感じで、粗さが目立ちましたが、惰性で借りた第3作は、「小説」として仕上がっています。 「フクロウ」と名乗る人物が起こす連続殺人の最初の犠牲者…

翔べ麒麟(辻原登)

大唐帝国で秘書監・衛尉卿という高官にまで上り詰めた阿倍仲麻呂(中国名:朝衡)を、玄宗皇帝から信頼を寄せられて晩年の悪政を正そうと活躍した人物として描きながら、「安史の乱」の内幕にまで大胆に想像力を持って踏み込んだ小説です。狂言回し的な役割…

花粉の部屋(ゾエ・イェニー)

「通りを二、三本へだてた所に母が越し、わたしは父と残った」冒頭からいきなり、両親の離婚があっさりと語られます。第1部は、主人公の少女、ヨーの幼年時代。両親は離婚し、それぞれ別の相手と暮らし始めます。 第2部では、18歳になり高校を卒業したヨ…

咲くやこの花(藤本有紀)

NHK土曜時代劇のノヴェライズですが、小説としても十分に成立しています。テーマが「百人一首」というので、気になって読んでみました。 深川の漬物屋の娘・こいは、地味に目立たず生きることが信条のヒロインなのですが、陰謀で亡くなった父の敵討ちとお…

2010/3 図書館 愛書家の楽園(アルベルト・マングェル)

3月には、アイルランド文学を3冊読みました。想像を絶する極貧の中で育った少年がアメリカに渡って教師となる、自伝的小説の『アンジェラの灰』と『アンジェラの祈り』に、ケルト文化と伝承が今も息づいている現代アイルランドの田舎を舞台にした短編集の…