りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2010-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ハッピー・リタイアメント(浅田次郎)

軍隊をモデルにした効率的な組織モデルは、トップを頂点としてボトムが広がる三角形で、江戸時代の幕藩体制のように終身雇用を前提とする組織は四角形に例えられるそうです。効率性と安定性を満たそうとすると、三角形の数を増やしていくしかないのですが、…

緋色の研究(コナン・ドイル)

映画「シャーロック・ホームズ」を見て、「原作に忠実なホームズ像」というあたりが気になったので、シリーズ第一作を読み返してみました。 やはり、ホームズとワトソンの出会いがいいですね。ホームズを奇矯な人物と思い、「探偵学」などキワモノと考えてい…

白い城(オルハン・パムク)

17世紀後半、トルコの海賊の捕虜となり、イスタンブールで奴隷となったヴェネツィア人は、自分と酷似したトルコ人学者に買い取られ、まるで当時の東西関係を象徴しているかのような奇妙な共同生活をおくることになります。 2人は、外見的に似ているのです…

まほろ駅前番外地(三浦しをん)

直木賞を受賞した『まほろ駅前多田便利軒』のスピンアウト小説と言われていますが、多田・行天コンビの「その後」にも触れられていますし、今後の展開も期待されるエピソードも含まれていますので、「続編」という感じです。 本編で脇役だったメンバー(若き…

アイガー・サンクション(トレヴェニアン)

最近読んだ『バスク、真夏の死』や『夢果つる街』の印象が、本書のイメージとかなり異なっていましたので、気になって再読してみました。著者のデビュー作で、クリント・イーストウッド監督・主演で映画化されて有名になった作品です。 CIIなるアメリカの…

ピンチランナー調書(大江健三郎)

生涯を持つ8歳の息子「森」と、38歳の父親「森・父」に「転換」が起こります。「森」は「8+20」で28歳の寡黙な青年となり、「森・父」は「38-20」で18歳の思春期に戻ってしまうのです。2人は「転換」という奇跡が起きたことに対して「使命…

19分間(ジョディ・ピコー)

幼稚園から高校までずっとイジメの標的になってきた少年が、耐え切れなくなってキレたら何が起こるでしょうか。銃社会のアメリカでは、銃乱射事件すら起こりえるのです。マイケル・ムーア監督「ボーリング・フォー・コロンバイン」を下敷きにした物語ですが…

図書館 愛書家の楽園(アルベルト・マングェル)

「空間の征服」と「時間の超越」とが、人間が古代から抱く2つの欲望だそうです。前者は「バベルの塔」として、後者は「アレクサンドリア図書館」として、具体化の試みがなされたものの、どちらのプロジェクトも完全な存在にはなりえませんでした。ボルヘス…

太陽の盾 - タイム・オデッセイ2(アーサー・C・クラーク、スティーヴン・バクスター)

前作『時の眼』で、人類誕生から2037年までの200万年にわたる時代の地球を切り刻んで張り合わせ、つぎはぎの地球「ミール」を作ってみせた銀河の管理者「ファーストボーン」は、その意図も明かさないまま、前作の主人公のひとりビセサを地球に帰還さ…

ころころろ(畠中恵)

「しゃばけ」シリーズ第8弾となります。このシリーズ、ちょっと前は「中だるみ感」があったのですが、「神」と「人」と「妖」の関わりをテーマとした本書はよかったですね。久しぶりに読み応えがありました。 5つの短編が収められていますが、「若だんなの…

キリンの涙(アレグザンダー・マコール・スミス)

ジンバブエで生まれ、ボツワナで働いたこともあるスコットランド人の法学教授による、ボツワナ唯一の女探偵マ・ラモツェを主人公にした「N0.1レディーズ探偵社」シリーズの第2作。ミステリというより、随所に現れる「アフリカ式思考」が楽しい本です。 父の…

一の富 並木拍子郎種取帳(松井今朝子)

安永・寛政年間に活躍した初代・並木五瓶が書いた歌舞伎狂言は、大阪時代の「時代物」が傑作と言われていますが、江戸に下ってからは「世話物」中心の作風となったそうです。理由は本人が本書の中で語っています。「江戸ではそのほうが当たるから」。^^ 本…

ハイウェイとゴミ溜め(ジュノ・ディアズ)

ニューヨークのスラム街を、他のスラム街と隔てているものが「ハイウェイとゴミ溜め」。その先には、自分たちとは別の言葉を話す別の国からの移民たちが住む、別のスラム街があるのだそうです。いわば、それは「見えない境界線」。 本書は、少年の時にドミニ…

偽りをかさねて(ジョディ・ピコー)

『わたしのなかのあなた』が良かったので、著者の過去の作品も借りてきました。本書のテーマも「家庭の崩壊と再生」です。 専業主夫として愛娘を育て、漫画家としてもデビューした父親ダニエルと、大学でダンテを教える母親のローラ、そして2人に愛されて育…

青い野を歩く(クレア・キーガン)

最近読んだばかりの『アンジェラの灰』は、戦前から戦後の時代に絶望的な貧しさの中で育ったアイルランドの少年の物語でしたが、本書は「ケルト文化」が今も息づく現代アイルランドの田舎を舞台にした8編の短編集です。著者は「ケルティック・ウーマン」の…

抱擁(辻原登)

映画「シックス・センス」と似た雰囲気のある小説です。 ニ・ニ六事件から1年後の東京。前田公爵邸で5歳の令嬢・緑子のお世話係りとして雇われた、18歳の「わたし」。天使のように可愛い緑子でしたが、時々様子がおかしくなるのです。通路の大時計の横や…

アンジェラの祈り(フランク・マコート)

アイルランドで極貧の少年時代をすごした著者が、19歳でアメリカへと船出するまでを描いた自伝小説の傑作『アンジェラの灰』の続編です。 夢の地ニューヨークに降り立ったフランクは、同郷者の斡旋でホテルの清掃係の職を得て新生活を始めるのですが、若い…

蒼き狼の血脈(小前亮)

チンギス・カンを題材とした古典的名作としては、井上靖さんの『蒼き狼』があります。彼の子孫たちの物語としては、陳瞬臣さんの『チンギス・ハーンの一族』がありますが、チンギスの3男オゴディ即位の内幕に関する部分を除けば、物語の中心となっていたの…

拮抗(ディック・フランシス、フェリックス・フランシス)

英国紳士精神を有する主人公たちが活躍する「英国競馬ミステリ」を次々と発表してきたディック・フランシスさんが亡くなりました。90歳になられていたのですね。このシリーズの最後の3作は、息子さんとの共著となっていますが、実際にはほとんど息子さん…

ロシヤにおける広瀬武夫(島田謹二)

『坂の上の雲』のドラマ化で、秋山真之の友人として脚光を浴びている広瀬武夫海軍中佐のロシア留学時代を、2000通もの手紙や資料から再現した作品です。司馬遼太郎さんも執筆の際に参考にした研究書ともなっています。 明治31年(1898年)に再開さ…

ブラッド・メリディアン(コーマック・マッカーシー)

「ニューヨーク・タイムズ」紙上の著名作家の投票で「ベスト・アメリカン・ノヴェルズ(2006‐1981)」に選出された小説だそうです。原書の出版は『すべての美しい馬』より前の1985年ですから、「国境三部作」の序章ともいうべき位置付けの作品なのでしょう…

暖簾(山崎豊子)

山崎豊子さんのデビュー小説です。親子二代に渡って昆布商店の暖簾を守りぬいた大阪商人のモデルは、著者の実家。一介の丁稚から叩き上げて、主人からの「暖簾分け」で自分の店を持つに至った吾平のモデルは著者の実父の山崎菊蔵。戦後の焼け跡から店を再興…

仏陀の鏡への道(ドン・ウィンズロウ)

東部エスタブリッシュメントの互助組織「朋友会」のために探偵として働くニールは、英文学研究に生涯を費やしたいと願う心優しい大学生。前作『ストリート・キッズ』で依頼者であった大物政治家の怒りを買ったため、ヨークシャーの荒れ野に隠棲して、読書に…

アンジェラの灰(フランク・マコート)

1930年代、アイルランド南西部のリムリックを舞台に、貧困の中で逞しく育った著者の回想小説ですが、その貧困ぶりがハンパじゃありません。まずは、冒頭の数行を紹介しておきましょう。「アイルランド人の惨めな子供時代は、惨めさの桁が違う。口名ばか…

楊令伝11(北方謙三)

宋は既に滅亡し、宋を倒した金にも広大な中原を支配する準備はできていない。宋の将軍であった岳飛や張俊は地方軍閥として独立しそうな勢いを保つ一方で、江南に逃れた青蓮寺は新たな国の形を整えようとしていますが、まだはっきりとした姿は現れていません…

2010/2 カデナ(池澤夏樹)

今月は、日本人小説家による新作が上位を独占するランキングになりました。たまにはこういうのも、いいでしょう。ただ「最高におもしろい!」という作品が揃ったわけではなく、「水準」が揃ったにすぎない感じですので、どれも「★」かなぁ。 むしろ、かなり…