りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-09-01から1ヶ月間の記事一覧

中間航路(チャールズ・ジョンソン)

「中間航路」とは、アフリカの奴隷を西インド諸島やアメリカに運ぶ航路のこと。19世紀はじめ、アメリカがまだ奴隷貿易に手を染めていたころの海洋冒険物語。 イリノイ生まれで親切な牧師から教育を受けた後、牧師の死後解放されることとなった元奴隷の黒人…

銀二貫(高田郁)

『八朔の雪』と同様、大阪の「食文化」をテーマにした商人物語です。仇討ちで父を亡くしたところを、大阪天満の寒天問屋のあるじ和助に銀2貫で救われ、丁稚として引き取られた10歳の少年・鶴之助は、名前を松吉とあらためさせられ、商人としての厳しい躾…

この庭に - 黒いミンクの話(梨木果歩)

わっ、わかりにくい・・。童話っぽいけど理解できませんでした。『からくりからくさ』の4人(蓉子、与希子、紀久、マーガレット)が育てている、マーガレットが産んだ男の子、ミケルを主人公とした幻想的な物語。 冬の日。雪に降り込められた部屋。大人にな…

ダンス・ダンス・ダンス(村上春樹)

初期3部作の続編にあたります。『羊をめぐる冒険』での寂寥としたエンディングから4年後にあたる1983年、心は凍りつかせたままで「文化的雪かき」をこなしながら生きてきた「僕」が、ふたたび「いるかホテル」を訪れることから物語は動き始めます。 時…

ダッシュ(五十嵐貴久)

陸上部のスーパーレディの「ねーさん」こと菅野桃子先輩に憧れている4人の後輩が、手術で片足を失ってしまう「ねーさん」のために奔走します。 それが半端じゃない。彼らが青春をかけて「ねーさん」に尽くす様子は、ちょっと例えは違うでしょうが、「ヨン様…

白き瓶-小説 長塚節(藤沢周平)

子規晩年の弟子であり、伊藤左千夫とともに「アララギ派」の中心的な役割を担った歌人であるだけでなく、農民文学の不朽の名作として讃えられる小説『土』を著した長塚節は、結核によって37歳の若さで亡くなっています。 本書は、山形県の教員時代に同じ病…

リリアン(エイミー・ブルーム)

1924年、ロシアのポグロム(ユダヤ人迫害)によって両親と夫を惨殺され、一人娘も失ったリリアンはボロボロになってニューヨークにたどり着きます。まだ若くて美しいリリアンは、経営する劇場のお針子として雇われるのですが、やがて劇場経営主の父と俳…

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)

村上春樹さんの4作めの長編です。初読の時はめちゃくちゃ面白く感じ「村上さんの最高傑作」と信じていたのですが、再読してみると、それほど物語に引きずり込まれる感覚を味わえませんでした。「ファンタジー仕立ての展開」が、今では新鮮味を失ってしまっ…

告白(湊かなえ)

少年犯罪によって我が子を校内で亡くした女性教師が、犯人の2人の少年に復讐を果たす物語ですね。しかも、それぞれの少年たちに、最も近しい存在である母親を自らの手で殺害させるという残虐な方法で・・。その顛末が、時系列を追っての関係者の独白という…

神様がくれた指(佐藤多佳子)

ちょっと変わった人情ビカレスク小説です。天才的なスリ師ながら人情味に溢れ、兄妹同然に育った幼馴染の咲子をかけがえのない存在と思いながらも、彼女の愛に応えられないでいるマッキーこと辻政夫。 マッキーが出所した日に目撃した少年スリ集団を追って、…

ミスター・ピップ(ロイド・ジョーンズ)

東ティモール紛争は知っていますが、そのすぐ近くのパプア・ニューギニア領のブーゲンビル島で、独立を求めて内乱が起きていたことは知りませんでした。1988年から1998年にかけての10年間、1万人を超える死者を出すほどの激しい戦闘が行なわれた…

静子の日常(井上荒野)

宇陀川静子、75歳。50年連れ添った夫に先立たれ、息子の家族と同居中。このおばあちゃんがチャーミングなんです。苦手の水泳を習いに通っているフィットネスクラブでは人気者だし、嫁との関係も、つかず離れずでうまくいってるなんてのは、まだ序の口。…

西の善き魔女8 真昼の星迷走(荻原規子)

第6巻『闇の左手』でこの世界の謎は明らかになったのですが、この世界が不安定であり、これから先、今までと同じやり方では行き詰る可能性が高いということも示されました。今後この世界をどうしていくのか・・というところまで、あえて描いたのが本巻。 従…

西の善き魔女7 金の糸紡げば(荻原規子)

この巻は完全に「外伝」ですね。幼い頃のフィリエルとルーンの出逢いの物語。もうすぐ8歳になるフィリエルの「家族」は、天文台に住む父親のディー博士と、お隣りのホーリー夫妻。人里離れたセラフィールドの住人は4人しかいないんです。そこに現れたのが…

紀文大尽舞(米村圭伍)

女だてらに戯作者志望のお夢ちゃんが、戯作のネタを捜し求めて、紀伊国屋文左衛門の一代記を書こうと調査を始めるのですが、紀文は逃げ回り、お夢は命を狙われてしまう。 そもそも紀文の経歴には謎が多いのです。江戸に出てくる前の紀州での経歴は不明だし、…

女中譚(中島京子)

秋葉原のメイド喫茶に入り浸る、謎の老女こと「アキバのオスミババア」。まったく不思議な存在ですが、昭和初期の世界を女中、女給、時には女郎として生き抜いてきた彼女には、当時の文壇と密接に関わっていた過去があったのです。 まずは、林芙美子の『女中…

日曜日の空は(アイラ・モーリー)

著者は、イギリス人の父と南アフリカ人の母を持ち、南アフリカで生まれ育った後、アメリカ人と結婚して、現在はカリフォルニアで執筆されている女性です。 アメリカ人男性の牧師と結婚し、故郷の南アフリカを離れてハワイへ移住したアビー。しかし、貧しいな…

1973年のピンボール(村上春樹)

井戸掘りの話からはじまって、11月の雨の匂いで終わるデビュー第2作は、一気にシュールさを増して難解になります。以前この小説を読んだときには大江健三郎の『万延元年のフットボール』のパロディかと思ったものですが、両者の共通点はごくわずかですね…

風の歌を聴け(村上春樹)

『羊をめぐる冒険』を再読したら、村上春樹さんの全長編を読み返してみたくなってしまいました。まずは、デビュー作である本書から。 1978年に29歳となった「僕」が、1970年夏の21歳の時に起きた物語との形式を取っていますが、なんとまぁ計算さ…

薄暮(篠田節子)

雑誌の編集に携わる主人公は、エッセイストが旅先で触れて紹介した無名の画家の、田園を美しく輝かせる一瞬の光の描写に感銘を受けます。画家は既に亡くなっていたものの、何とかその画家を世に広めたいと画集の製作を企画した主人公が見出したのは、地元で…

喋々喃々(小川糸)

直前に読んだ桐野夏生さんの『In』と較べたら、なんて綺麗な不倫小説なのでしょう。東京・谷中でアンティークきもの店「ひめまつ屋」を営む栞(しおり)が、父とそっくりの声をした男性客・春一郎と出逢って別れるまでの1年間の物語。でも、別れてないのか…

In(桐野夏生)

桐野さんの新作は、なんともドロドロした不倫小説でしが、それだけではありません。「自分だけの秘密」を、形を変えながら何度も繰り返して「書くこと」が宿命である「小説家」という人種は、不倫の「狂乱と抹殺」をどう扱うのか。「書くこと」の本質に迫る…

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか(内山節)

レトロさんが紹介してくれた本です。かつては「人がキツネに騙された」という話は日常的なありふれたものだったのに、1965年頃を境にして、この種の話は新しく発生しなくなってしまったとのこと。どうして日本人はキツネに騙されなくなってしまったので…

山田風太郎明治小説全集 8.エドの舞踏会

いわゆる「鹿鳴館時代」を舞台として、明治の元勲たちの夫人たちをオムニバス形式で描いた本です。反骨精神に溢れる、著者の明治時代小説の中でも異色の作品でしょう。当時、西郷従道海軍大臣のもとで秘書官を努めていた若き山本権兵衛と、アメリカ留学後に…

西の善き魔女6 闇の左手(荻原規子)

ついに「この世界の謎」が明らかになる、本編の最終巻。「世界の果ての壁」の謎を追うフィリエルとルーン。ユニコーンを駆って竜退治に赴くユーシス。自ら陣頭に立って軍を率いるレアンドラ。大きく南方に迂回してグラール侵略をたくらむブリギオン軍。物語…

西の善き魔女5 銀の鳥プラチナの鳥(荻原規子)

フィリエルとルーンの物語は、しばしお休み。この巻は、東の帝国ブリギオンの侵攻を止めるために東方の隣国へと使わされたアデイルの奮闘振りが描かれる物語となります。 アデイルは、彼女の学友であったヴィンセント(彼女も実は傍系王族の娘です)とともに…

バスク、真夏の死(トレヴェニアン)

第一次大戦直前の、フランス・バスク地方にある小さな温泉町サリーで働き始めた駆け出しの青年医師ジャン・マルクは、カーチャという魅力ある女性と恋に落ちる。カーチャには皮肉屋で悪魔的魅力を放つ青年である双子の弟ポールがいるのだが、彼はジャン・マ…