りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-08-01から1ヶ月間の記事一覧

2009/8 ミレニアム(スティーグ・ラーソン)

今月の1位は、スウェーデン発の傑作ミステリ・シリーズの『ミレニアム』。何より、全編を貫いて流れる著者の主張が素晴らしい。出版前の著者の急死によって、続編を期待できないことが残念でなりません。 佐藤亜紀さんの『激しく、速やかな死』は、「難解」…

ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(スティーグ・ラーソン)

実の父親でありながら宿敵となったザランデルと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷ついて瀕死の状態に陥ってしまいますが、現場に駆けつけたミカエルの手配で、一命をとりとめます。 これに衝撃を受けたのは、ソ連からの亡命スパイ…

羊をめぐる冒険(村上春樹)

連れ合いが図書館から借りて読んでいた本を横取りして、再読してしまいました。『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』に続く、初期三部作の締めくくりと言われていますが、前2作との関係は登場人物の造形と全編を通じての雰囲気であり、この作品か…

奴の小万と呼ばれた女(松井今朝子)

「奴の小万」の名で芝居の題材にもなり、大坂中の評判を呼んだ型破りな女の半生記です。大坂屈指の商家・木津屋の娘に生まれたお雪は、色白な美少女ながら180cm近い大女で、虚弱で大人しい兄とは対照的に奔放に育ち、時代からどんどんはみ出していってし…

森に眠る魚(角田光代)

10年前に東京の文教地区の町で起きた「お受験殺人」をモチーフに書かれた小説。たまたま出会ったごく普通の母親たちが、育児を通して次第に心を許しあい、親交を深めていくものの、子どもの小学校受験を控えて、その関係が変容していく。 セレブな生活にあ…

老人と宇宙2 遠すぎた星(ジョン・スコルジー)

宇宙へと進出した人類が、好戦的な異星人たちと遭遇した遠い未来。人類の平和と繁栄を守るために結成されたのが、75歳以上の老人たちで結成された「コロニー防衛軍」でした。そんな老人たちが闘えるのかって? 心配後無用。彼らは超絶テクノロジーで若返り…

通話(ロベルト・ボラーニョ)

2003年に50歳の若さで亡くなったチリの作家による短編集です。17歳の時にアジェンデ社会党政権の誕生を経験し、20歳の時にそれがクーデターによって転覆させられるのを目の当たりにした彼の世代は、日本でいうと全共闘世代にあたるのでしょうか。…

ゴルディオスの結び目(ベルンハルト・シュリンク)

『朗読者』や『帰郷者』の作者であるシュリンクさんは、アクション・ミステリも書いていたんですね。故郷のドイツを離れて南仏で翻訳業を営んでいるものの、仕事もなく、恋人にも去られて失意の日々をおくっていたゲオルグでしたが、突然事故死した翻訳事務…

西の善き魔女4 世界のかなたの森(荻原規子)

南方から竜がさまよい出てくる「竜の道」が広がっている? 竜の被害に悩む隣国の要請で、グラール王国は伝統の「竜退治の騎士」を派遣します。名乗り出たのは、前巻でフィリエルに婚約を申し込んだロウランド伯爵家のユーシス。 フィリエルもまた、ルーンを…

西の善き魔女3 薔薇の名前(荻原規子)

異端の研究者として追われている幼馴染のルーンを潜ませる場所は、なんと首都の王立研究所。「木は森の中に隠せ」ということですね。時同じくしてフィリエルも、女王候補アデイルとともに首都の王宮へと上がります。アデイルの養家であるロウランド伯爵家は…

やんごとなき読者(アラン・ベネット)

これは「ローマの休日」を思わせてくれるファンタジーですね。といっても、主人公は若い王女でもなく、素敵な殿方が登場するわけでもありません。80歳の誕生日を控えたエリザベス二世が、読書にハマってしまうお話なんです。 逃げ出した飼い犬(もちろんコ…

我らが影の声(ジョナサン・キャロル)

キャロルの長編で読み残していた作品です。これが2作めだったんですね。 主人公ジョーは13歳の時に、魅力的ながら我がまま勝手な兄を事故で亡くしていました。というのは嘘で、自分が兄を線路の上で突き飛ばした結果、高圧線に触れて感電死してしまったの…

激しく、速やかな死(佐藤亜紀)

『ミノタウロス』以来、佐藤亜紀さんの1年ぶりの新作は短編集でした。帯には「歴史の波涛に消えた思考の煌きを華麗な筆で描き出した」とありますが、どの作品にも、いかにも佐藤さんらしいヒネリが効いています。 そもそも「どうしてこの人物のこの思考なの…

ある秘密(フィリップ・グランベール)

一人っ子で病弱な主人公の少年は、想像上の兄を創って遊んでいたのですが、ある日屋根裏部屋で、本当に兄がいたという形跡を見つけ出します。少年は「家族の秘密」を探り出すのですが、それは悲しい秘密でした・・。主人公の姓はフランス風の「Grinbert」で…

ユダの季節(佐伯泰英)

スペイン内戦と今に残された「内戦の後遺症」を描く日本人作家というと逢坂剛であり、彼の作品には日本人のフラメンコ・ギタリストが登場するのですが、こちらの作品には日本人の闘牛写真家が登場します。 1973年秋。独裁者フランコ政権末期のスペイン。…

f植物園の巣穴(梨木香歩)

時代は明治30年くらいでしょうか。『家守綺譚』や『村田エフェンディ滞土録』と同じ頃のこと。数年前に千代という名の妻を亡くしてf植物園に移動してきた男が何かの巣穴と思われる木のうろ(何かの巣穴)に落ちたことから、異界と交わっていきます。 前世…

ストリップ・ティーズ(カール・ハイアセン)

デミ・ムーア主演で映画化された作品です。フロリダで、別れた夫と娘の養育権を争っているストリップ・ダンサーのエリンは、ある晩ステージでのダンスの途中で酔っ払いに抱きつかれてしまいます。それ自体は酔客がハメを外した他愛もない行為だったのですが…

カフカ・セレクション1 時空/認知(フランツ・カフカ)

カフカの全ての中短編を3冊に編集した企画の第1巻です。19世紀末のプラハに生まれ、幻想的で不条理な世界を描き続けたカフカの世界が、短いものでは1ページに満たない掌編からはじまって、数十ページの中篇まで、徐々にページ数が増えていく順番で纏め…

国芳一門浮世絵草紙3 鬼振袖(河治和香)

『侠風むすめ』と『あだ惚れ』に続く、「国芳一門浮世絵草紙」シリーズの第三弾です。 「鬼振袖」とは薹(とう)の立った娘の振袖姿のこと。破天荒な浮世絵師国芳を父に持ち、それぞれが魅力ある一門の絵師たちに囲まれて育ったおきゃんな美少女登鯉(とり)に…

災いの古書(ジョン・ダニング)

警官から古書店主へと転身したクリフォード・ジェーンウェイの「古書シリーズ」4作目。前巻『失われし書庫』で、新大陸におけるリチャード・バートン卿の足跡をともに辿った弁護士のエリンと、そのままつきあっているクリフォードですが、今回はそのエリン…

西の善き魔女2 秘密の花園(荻原規子)

第2巻は、いきなり「学園ドラマ」になってしまいます。伯爵によって、貴族の娘としてふるまうのに必要な教育を受けるために修道院附属学校に入学差させられたフィリエルですが、そこもまた、陰謀渦巻く世界でした。 女王後継者としてアデイルと対立している…

西の善き魔女1 セラフィールドの少女(荻原規子)

荻原さんというと「和製ファンタジー作家」という印象があって、このシリーズにはなかなか手を出せないでいました。だって、『指輪物語』や『ゲド戦記』のように、洋風の地名を持つ架空の世界で、洋風の名前を持つ登場人物が活躍する物語なんですから。 第一…

シェイクスピア・シークレット(ジェニファー・リー・キャレル)

いわゆる「シェイクスピア学」には「オカルト・シェイクスピア」と呼ばれる学問領域があるそうです。別に心霊的なものではなく、とかく謎の多いシェイクスピアという人物や著作について解明していく学問ですので、もともとミステリ向きのテーマですね。 本書…

ミレニアム2 火と戯れる女(スティーグ・ラーソン)

第2部では、リスベットの衝撃の過去が明かされます。天才的な頭脳を持ちながら、他人に自分を理解してもらうことははじめから放棄しており、社会と折り合いをつけることができず、自分を傷つける敵には死に物狂いで立ち向かい、さらに、「女を憎む男たち」…

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女(スティーグ・ラーソン)

スウェーデン発の「社会派ミステリ」というと、10年に渡ってスウェーデン社会の変貌を追う中で、当時すでに萌芽しつつあったグローバリズムの暗黒面に警鐘を鳴らしていたペール・ヴァールーとマイ・シューヴァルの『マルティン・ベック・シリーズ』を思い…

2009/7 1Q84(村上春樹)

今月の1位にあげるべき本は、言わずと知れた大ベストセラー『1Q84』しかありません。しかし、なんとまぁ、レビューを書きにくい本なのでしょう。村上春樹さんが生み出す不思議な世界では、ひとつの謎の解明は新たな謎を生み出して、読者を安直な結論に…

楊令伝9(北方謙三)

楊令率いる梁山泊と、童貫率いる宋禁軍の戦いに、ついに決着がつきます。互いに大きな犠牲を出しながら正面から対峙する形を作り上げた両軍の最後の戦いは、ナポレオン戦争を俯瞰した『戦争と平和』と、兵士の立場から見た『パルムの僧院』を合わせたような…

修道士カドフェル5 死を呼ぶ婚礼(エリス・ピーターズ)

本書の舞台は1139年の、ウェールズとの国境に近いイングランドの町。この時代のイングランドは、ヘンリー1世の死で1135年にノルマン朝が途絶えた後、先王の甥のスティーブンと、先王の娘マティルダが王位を狙って争った「無政府時代」。両者の和解…