りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-07-01から1ヶ月間の記事一覧

ファミリーポートレイト(桜庭一樹)

桜庭さんの凄みは「書くことへの執念」と「命の煌き」を感じさせてくれることにあるように思います。彼女を「ストーリーテラー」と思っては、本質を見誤るような気がするのです。 本書は2部構成。「第一部 旅」では、情痴殺人を犯したと思われる母親マコに…

新しい資本主義(原丈人)

シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストが、日本を舞台に未来を語ります。市場を万能の神と崇め、株主至上主義を歌い上げたアメリカ発の金融資本主義がすでに欠陥を露呈していることは誰もが認めているでしょうが、ではその後に続くべきものは何…

天使の蝶 (プリーモ・レーヴィ)

トリノ生れのユダヤ人で、アウシュヴィッツの強制収容所に送られた経験を持ち、化学者でもあった著者が生み出した、不思議な短編集です。レトロさんが紹介してくれた本。 まず印象に残るのは、6作に登場するアメリカ製の事務機セールスマンであるシンプソン…

リンカーンの夢(コニー・ウィリス)

南北戦争時代の歴史小説を専門に書いている作家の調査助手をつとめているジェフは、友人の精神科医の紹介で、アニーという女性と出会うのですが、彼女は奇妙な夢に悩まされていました。南軍が敗色濃くなった、南北戦争の光景を夢に見るのです。 ジェフは次の…

幻獣ムベンベを追え(高野秀行)

レイモンド・オハンロンの『コンゴ・ジャーニー』の前に、コンゴ奥地のテレ湖に棲息するという謎の怪獣モケーレ・ムベンベの発見を賭けて「探検」をした人たちがいたんですね。しかも、それが「早稲田大学探検部」というのですから驚きです。ねこりんさんが…

チャイルド44(トム・ロブ・スミス)

裏表紙にある「内容紹介」に勝る概略を書けませんでしたので、丸写しさせていただきます。 【上巻】スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻…

プラハ歴史散策(石川達夫)

先に読んだバンヴィルの『プラハ 都市の肖像』が、全然概括的ではありませんでしたので、気を取り直して、プラハの歴史、人物、建築物などを「初心者向けにきちんと説明した」新書を読むことにしました。 本書はプラハを「歴史の劇場」として捉え、第1部で…

遠い音(フランシス・イタニ)

5歳の時に猩紅熱で聴力を失ったグローニア。前半はグローニアを思いやる家族や友人や教師たちに囲まれて、彼女が「言葉」というものを理解し、学んでいく課程がじっくりと描かれます。 娘の看病が不十分だったと自分を責め、聴力が回復する奇跡を望み続けた…

RDG2 レッドデータガール はじめてのお化粧(荻原規子)

シリーズ2作めです。紀伊山地の奥深くの玉倉神社に育った泉水子は、引っ込み思案で何事にも自信を持てず、内気で弱気で繊細な女の子なのですが、彼女には不思議な力がありました。 彼女の一族の女性は、代々「姫神さま」の依り代というか、生まれ変わりとい…

悪魔の調べ(ケイト・モス)

前作の『ラビリンス』は、南仏を舞台に13世紀の少女と現代の女性が時を越えて共闘し「古代の秘密」に決着をつける物語でしたが、本書も同じ趣向です。 1891年。17歳のレオニーは兄のアナトールとともに、フランス南西部のレンヌ・レ・バンに住む伯母…

犬たち(レベッカ・ブラウン)

かつて読みかけてあまりのグロさに序盤で挫折した、多和田葉子『変身のためのオピウム』を思い出しました。想像上のものであっても、身体的な暴力を連想させるエロティシズムにはついていけません。それでもこの本を最期まで読んだのは、訳者が柴田元幸さん…

英国太平記(小林正典)

13世紀末、イングランドのエドワード1世の侵略によって、一旦は主権を失ったスコットランドが、30年に渡る抗争の結果、再び独立を取り戻すまでの史劇です。 ウェールズを屈服させたイングランド王・エドワード1世は、スコットランド女王マーガレットの…

八朔の雪(高田郁)

著者と同姓同名の知人がいますので、「まさか」とは思いましたが、もちろん別人。^^; 幼い頃に両親を失った際に、大阪の名料理屋夫婦に救われた少女・澪(みお)でしたが、今度はその奉公先も火事で失い、今は、母のように慕うおかみさんと2人で江戸の長…

ポトスライムの舟(津村記久子)

2009年1月に芥川賞を受賞した作品ですが、最近の受賞作の中では「読めるほう」。 工場の契約社員、パソコン講師、カフェの店員と、非正規雇用者として3つの仕事を持っている29歳独身女性のナガセが主人公。工場での年収163万円と同額で、世界一周…

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語(カズオ・イシグロ)

カズオ・イシグロさんが、『わたしを離さないで』以来4年ぶりに書き下ろした小説は、音楽をテーマにして「叶わなかった夢」の周辺をたゆたう「男女の悲哀」を連作的に描いた、美しい短編集でした。 「老歌手」 ベネチアのカフェで演奏するギタリストが受け…

スコットランドの黒い王様(ジャイルズ・フォーデン)

タイトルの「スコットランド王」とは、ウガンダの独裁者であったイディ・アミンのこと。クーデターによって旧英連邦領ウガンダの大統領となったアミンは、スコットランド独立を主張する勢力と勝手に共闘し、勝手に「スコットランド王」を名乗っていたんです…

いつも隣に犬がいた(宮忠臣)

映画やドラマに出演した犬たちの写真集が半分。あとの半分が、警察犬の訓練士から映画の世界に飛び込んで、感動の名場面を陰から支えるドッグトレイナーとなった著者の半生記。人間よりも短い寿命である犬たちと、別れの日の到来を予感しながらも心を通い合…

サンダカン八番娼館(山崎朋子)

「できるだけ多くの人に読んで欲しいと思う本」が稀にあります。明治・大正期の貧しかった日本から海外に身売りされ、南方の娼館で働かされていた少女たち「からゆきさん」の実像を聞き取って綴った本書は、そんな一冊。 本書を読んでいなくても、映画「サン…

プラハ 都市の肖像(ジョン・バンヴィル)

再来週にプラハへの出張がありそうです。行き先はプラハではなくて別のところなのですが、経由地のプラハで1泊できる日程になりそうなんですね。残念ながら上司と一緒なのですが・・。^^; ということで、プラハに関する本を探して読んでみました。ところ…

1Q84(村上春樹)

いわずと知れた大ベストセラーですが、なんとまぁ、レビューを書きにくい本なのでしょう。優れた小説というものは多くの場合、多義的な内容を含んでいるのですが、村上さんが初めて三人称で書いた長編小説である本書も、ひとつの立場や見方から割り切れるよ…

レインボーズ・エンド(ヴァーナー・ヴィンジ)

社会的インフラとしてユビキタス・ネットワークが整備され、衣服のように装着できて思念で操作できるウェアラブル・コンピュータが常識となっている近未来社会を舞台としたSF小説です。 物語の縦糸は、感染性ウィルスと情報の組み合わせによって、マインド…

木でできた海(ジョナサン・キャロル)

ニューヨークの郊外にある「クレインズ・ヴュー」という小さな町を舞台にした三部作の最終巻。今回の主人公は、前2作にも登場していた元不良少年の警察署長フラニー。 目の前で死んだ三本足の犬を埋葬して以来、彼の周囲で不思議な出来事が相継ぎます。埋葬…

2009/6 天涯の船(玉岡かおる)

今月のキーワードは「ユーモア」でしょうか。荒唐無稽な計画をコミカルに語りながらも深みを感じさせる『イエメンで鮭釣りを』も、大真面目な登場人物の振る舞いがどことなく滑稽な『最終目的地』も、いい作品でした。『イエメンで鮭釣りを』は今年から刊行…

マリリン・モンローという女(藤本ひとみ)

父親の居ない家庭に生まれ、母親が精神を病んだために孤児院や養家をたらい回しにされた少女が、女優としての成功と幸福な家庭を追い求めます。ハリウッドで成功の階段を上りながらも、それと引き換えに手に入れたものは「女性としての幸福」とはほど遠いも…