りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

失われし書庫(ジョン・ダニング)

デンヴァーの警官から古書店主へと転身したクリフ・ジェーンウェイを主人公とする「古書ミステリ」の第3弾です。 第1作『死の蔵書』では、アメリカ古書界と「古本ハンター」と呼ばれる人々の実情を描き、第2作『幻の特装本』では一転して、稀覯本となるこ…

紅無威おとめ組 南総里見白珠伝(米村圭伍)

米村版「大江戸チャーリーズ・エンジェル」の第2弾は「里見八犬伝」をモチーフにした物語でした。というより「八犬伝」の誕生秘話。 老中・松平定信の妹という身分を隠して、「軽業娘の小蝶」や「お色気発明家の萩乃」とトリオを組んでいる「女武道家の桔梗…

貧困に立ち向かう仕事(西水美恵子)

アメリカ留学を経て、経済学者から世界銀行に転身、南アジア担当副総裁となった著者が、途上国の貧困解消と女性の地位向上のために世界を駆け巡ってきた半生を綴った作品です。 世銀が抱えている構造的な問題や、担当した地域に対する専門的な分析などをカバ…

蜂の巣にキス(ジョナサン・キャロル)

先に『薪の結婚』を読んでしまっていたことは、本書に関してはマイナスではなかったようです。解説で豊崎由美さんが「これって普通のミステリーじゃん」と書いていましたが、決してそうではないことは前もってわかっていたのですから。この本は「クレインズ…

山田風太郎明治小説全集 7.明治断頭台

山田さんの「明治もの」は年代順に収録されているのですが、本書は「番外」のような位置づけで、時代的には『警視庁草紙』より前の明治2~4年を舞台とする物語。 太政官弾正台(役人の汚職を調べ糾弾する役所)の大巡察、香月経四郎と川路利良が維新直後の「…

夢の狩人―The sandman(ニール・ゲイマン)

『アナンシの血脈』や『アメリカン・ゴッズ』などの、混沌とした古代神話的な世界を題材にした小説と得意とする著者は、「サンドマン」というアメリカンコミックの原作も手がけているとのこと。「サンドマン」とは夢を司る不思議な存在であり、まぶたに砂を…

イエメンで鮭釣りを(ポール・トーディ)

北洋を回遊する鮭を、砂漠の国イエメンに放流する? スコットランドに広大な地所を持ち、鮭釣りを愛するイエメン人の富豪シャイフからの依頼は、母国の枯れ川(ワディ)に鮭を移入したいという、前代未聞の無謀なプロジェクト。 国立水産研究所に勤めている…

ハイク・ガイ(デイヴィッド・G・ ラヌー)

ニューオリンズの大学で英文科教授をしている著者は、20年来の俳句研究者だそうです。本書は、伝統的な俳句と現代小説を組み合わせた実験的な試みであると同時に、フィクションを装った「ハイク・マニュアル」にもなっている楽しい本に仕上がっています。 …

三四郎はそれから門を出た(三浦しをん)

直木賞を受賞してしまった三浦さんが語る「読書大好き少女?」の生態。前半は「ブックガイド」で、後半は「エッセイ」になっています。「三四郎はそれから門を出た」という秀逸なタイトルは、三浦さんの造語ではなく、漱石の初期三部作を覚えるための受験生…

アーサー王ここに眠る(フィリップ・リーヴ)

アーサー王に関する小説はたくさん出ていますが、「アーサー王伝説」を再編するものと、「歴史上の人物としてのアーサー王」の真実の姿を探ろうとするものとに大別されます。 本書は児童書として書かれたものですが、その両者を融合させた「アーサー王物語」…

荒野の呼び声(ジャック・ロンドン)

誰もが知っている名作ですが、今まできちんと読んだことがありませんでした。 アラスカでゴールドラッシュが起こった19世紀末に、一攫千金を夢見てアラスカとカナダで探鉱者としての生活をおくった経験が、著者にこの本を書かせました。当時はまだ、犬ぞり…

幻の特装本(ジョン・ダニング)

前作『死の蔵書』で警察を辞めて古書店主となったクリフが遭遇した新たな事件。存在するはずのない、エドガー・アラン・ポー作「大鴉(RAVEN)」の1969年限定版を盗んで逃亡中という女性を連れ戻して欲しいというのです。 その女性エリノア・リグビーは…

天涯の船(玉岡かおる)

大河ドラマの風格漂う小説です。明治17年。旧姫路藩家老の姫君の身代わりとして米国へ留学した下働きの少女ミサオが、オーストリア子爵家の血を引く青年マックスに求婚され、やはり留学中に知り合った日本の青年実業家・光次郎に心惹かれながらも、欧州へ…

ぐるりのこと(梨木香歩)

「ぐるりのこと」とは、身の回りのこと。自分の周囲に目を向けて気づいたことや、心の奥から立ち上がってきた思いを綴ったエッセイ集です。梨木さんオリジナルの表現ではなく、他の方の本で見つけた言葉で、その語感の柔らかさと広がりに惹かれて、タイトル…

グリフターズ(ジム・トンプスン)

「グリフターズ」とは詐欺師たちのこと。口先たくみに人を騙して小銭を稼いでいるロイですが、彼がこんなふうになったのは、まだ30代で、14歳の時にロイを生んだ若い母親リリイの影響があったんです。息子であるロイの世話や教育をほとんど放置していた…

帰郷者(ベルンハルト・シュリンク)

母子家庭で育ったペーターが祖父の家で見つけた、雑誌の断片に書かれていた「帰還者の物語」。ロシアから帰還したドイツ兵が自宅で見たのは、突然の夫の登場に驚愕する妻と、妻に抱かれる幼い少女。さらに怪訝な顔をして妻の肩に手をかけている見知らぬ男性…

ジーザス・サン(デニス・ジョンソン)

「1992年に出版されて以来、多くの読者に衝撃を与え、20世紀末のアメリカ短篇集の最高峰として、誰もが名を挙げる一冊であり続けている」との出版社コメントがつけられています。衝撃的な本であることは間違いありません。 若くしてドラッグにはまり、…

門(夏目漱石)

『三四郎』、『それから』に続く、明治期の知識人の苦悩を描いた三部作の終編にあたります。主人公の名前や設定は変えられていますけどね。 前作の『それから』は、主人公が親友の妻に恋心を告白し「高等遊民」としての安穏とした生活を破綻させドストエフス…

ミュージック・ブレス・ユー(津村記久子)

「音楽について考えることは、自分の人生について考えることよりずっと大事」な日々をおくっている高校3年生のアザミ。地方の進学校らしく、まわりは進路を決めつつあるのに髪は赤く染め、目にはメガネ、歯にはカラフルな矯正器。いつもイヤホンを耳に突っ…

最終目的地(ピーター・キャメロン)

ナチスの迫害を逃れてドイツからウルグアイの小さな村オチョス・リオスに移り住んだ作家ユルス・グント。作家はすでに世を去っていますが、そこでは遺族たちが身を潜めるように静かな生活をおくっています。 作家の妻キャロラインと愛人アーデン。作家の兄ア…

英雄の書(宮部みゆき)

宮部ファンタジーは、いつものことながらかなり「思わせぶり」で理屈が多い感があるのですが、最後まで読めばテーマは明快。 でも、その前に本書の「世界」を概括しておきましょう。(ネタバレです。ご注意あれ!)。(1)真の物語の数だけ「世界」が生まれ…

エンジェル・エンジェル・エンジェル(梨木香歩)

寝たきりになってボケてしまったおばあちゃんの世話をすることと引き替えに、熱帯魚を飼うのが許されたコウコ。彼女には「熱帯魚を飼育することで癒されたい」という思いがあったのですが、悲惨な結末を迎えてしまいます。熱帯魚が共食いをはじめてしまった…

リヴァイアサン(ポール・オースター)

製作中の爆弾が暴発して、路上で死亡した身元不明の男。著者自身を思わせる主人公は、その男が長年の友人であることに気づき、彼の人生と主張の再構築を試みます。その男サックスは、いったい何に絶望し、なぜテロリストになったのか。 もっともテロリストと…

2009/5 アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)

現代の神話ともいうべき奇想天外な物語を次々と生み出すニール・ゲイマンさんは、好き嫌いが分かれる作家ではないかと思います。『アメリカン・ゴッズ』は、なぜ、ヨーロッパなど旧世界に数多くいる神々や妖精はアメリカにいないのか、アメリカは「神なき地…