りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

修道士カドフェル4 聖ペテロ祭殺人事件(エリス・ピーターズ)

このシリーズの舞台は、12世紀中ごろのイングランドですので、『黒のトイフェル』よりは100年ほど前の時代になります。ウェールズとの国境に位置するシュールズベリの修道院はケルン大聖堂とは比べ物にはなりませんが、この巻では、街の商人たちと修道…

格闘する者に○(三浦しをん)

タイトルからして「格闘家」と関係する物語かと思っていたら(笑)、女子大生の就職物語なんですね。ある出版社の入社試験担当者が、試験の説明に際して「該当するものにマルしてください」の「該当」を 「かくとう」と読んでいたとのエピソードから来ていま…

死の蔵書(ジョン・ダニング)

古書稀覯本専門の書店を開いていたこともある著者による、古書好きの刑事を主人公とした警察小説です。もっとも主人公のクリフは物語の途中で警官をやめてしまうのですが・・。 古本の山から数百ドルの値打ちの本を探し出すことを生業とする「古本掘出し屋」…

黒のトイフェル(フランク・シェッツィング)

「トイフェル」とはドイツ語で「悪魔」のこと。大聖堂の建設が進む13世紀のケルンで、建築監督のゲールハルトが殺害されます。足を滑らせて足場から転落したというのが、目撃者を名乗る者たちの証言。ところが、こそ泥のヤコブは、悪魔のような黒い影が建…

小説フランス革命3 聖者の戦い(佐藤賢一)

シリーズ第3巻は、1789年の暮から翌年の革命一周年までを描きます。王家と内通したミラボーは相変らず睨みをきかせていますが、青臭い正論を吐き続けるロベスピエールが左派を代表する理論家として力を持ち始める一方で、オータン大司教、タレイランが…

紅無威おとめ組 かるわざ小蝶(米村圭伍)

米村版の「大江戸チャーリーズ・エンジェル」ストーリー。時は寛政元年、老中・松平定信の時代。軽業小屋で人気を博す早飛小蝶は、老中の風俗取締りのせいで行方不明となってしまった育ての親の敵討ちを決意して、老中宅に忍び込みます。捕まりそうになった…

それから(夏目漱石)

有名な作品ですのでなんとなく読んだ気になっていましたが、初読でした。『三四郎』、『それから』、『門』と三部作をなしている要の作品です。といっても、『三四郎』の登場人物が出てくるわけではありません。 主人公は「高等遊民」の代助。学歴もあり近代…

女三人のシベリア鉄道(森まゆみ)

ノンフィクション作家で市民運動家でもある著者が、明治末から昭和初期にかけての時代に全長9000キロを超えるシベリア鉄道を経て、パリへと向かった3人の女性作家の足跡を追って旅をします。ハルビン、バイカル、イルクーツク、エカテリンブルグ、モス…

きのうの世界(恩田陸)

「恩田ファン以外の人は楽しめない」という作品が、最近とみに多い気がするのですが、本書もそんな一冊でしょうか。 失踪した男が、3つの塔と水路がある街のはずれの水無月橋で死体となって発見されます。「あなた」と呼ばれる人間が(後で女性とわかります…

アメリカン・ゴッズ(ニール・ゲイマン)

ヨーロッパやアフリカなど旧世界のあちこちにいた神々は、アメリカには来なかったのか? 実は「神々にとっての不毛の地」アメリカにも、旧世界の神々は移民たちとともに渡ってきていたのに「アメリカ生まれの新しい神々」によって片隅に追いやられているとい…

三谷幸喜のありふれた生活7 ザ・マジックイヤー

朝日新聞に連載されているエッセイの単行本化も、もう第7弾となりました。本書の中心となっているのは、昨年公開された映画『ザ・マジックアワー』の監督として撮影を進める日々の生活。 もちろん「もっとも多忙な脚本家」としては、これだけということはあ…

あなたはなぜ値札にダマされるのか?(オリ&ロム・ブラフマン)

副題に「不合理な意思決定にひそむスウェイの法則」とありますが、「Sway」とは「人間の意識の中に潜み合理的な行動を妨げる力」のことであり、人はなぜ、生活やビジネスの大事な場面で「不合理な決断」をしてしまうのかを解析した「行動経済学」的な著作で…

直筆商の哀しみ(ゼイディ・スミス)

デビュー作『ホワイト・ティース』では、ロンドン下町の優柔不断男とバングラデシュ出身の誇り高いムスリムの友情を軸にして、ロンドンのカオスをハチャメチャに笑い飛ばしてくれた著者ですが、中国系の父とユダヤ人の母を両親に持つ本書の主人公は、人種的…

コシャマイン記・ベロニカ物語(鶴田知也)

プロレタリア文学でありながら、第3回芥川賞(昭和11年)を受賞した作品が表題作です。コシャマインというと、15世紀に道南のアイヌを率いて和人に対する蜂起を起こしながら後に松前藩を起こす蠣崎氏に討たれた英雄を想起させる名前ですが、本書は全く…

プリンセス・トヨトミ(万城目学)

京都の『ホルモー』、奈良の『鹿男』ときたら、次の舞台は大阪ですね。ただはじめに言ってしまうと、この作品は前2作にあったような楽しさに欠けています。「大阪の人々が400年の間、豊臣家の子孫を守ってきた」という設定が、普通の伝奇小説とそれほど…

山田風太郎明治小説全集 5~6.地の果ての獄

明治10年の西南戦争直前の『警視庁草紙』、明治17年の加波山事件直前の『幻燈辻馬車』に続く、明治小説の第三弾です。 時代は明治19年。2年前の加波山事件や秩父事件で弾圧された自由党は解党に追い込まれ、事件の首謀者たちは政治犯として獄舎につな…

蝉しぐれ(藤沢周平)

次々と映画化されている藤沢作品の中で、最初に映画化されただけの理由はあります。 少年の淡い恋、親友との長年にわたる交友、派閥争いに巻き込まれて刑死した父への尊敬の念と、苦しい生活の中で息子に愛情を注ぐ母への感謝の念、剣の修行で鬱屈したエネル…

アメリカ素描(司馬遼太郎)

普遍的で合理的なものが「文明」であり、民族などの特定の集団でのみ通用するが集団外ではむしろ不合理となるものは「文化」である・・との視点から世界を眺めてみる。そのうえで「普遍性があって便利で快適なものを生み出すのが文明であるとすれば、いまの…

戦場の画家(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

地中海に臨む中世の望楼にただひとり篭って、写真では表現し切れなかった戦争風景の壁画を描いているのは、戦争を撮り続けてきた元カメラマン。彼の心を去来するのは彼が見てきた戦争の光景と、彼の目の前で地雷を踏んで死んでいった元恋人の思い出。 そんな…

川は静かに流れ(ジョン・ハート)

デビュー作『キングの死』は、スコット・トゥローを思わせる法廷サスペンスでしたが、第2作の本書は、T.ジェファーソン・パーカーばりの「壊れた家族のドラマ」でした。 裁判では無罪になったものの、一旦殺人罪の被告となった者はもう田舎には住めません…

2009/4 ローマ亡き後の地中海世界(塩野七生)

4月には地中海世界の古代・中世史に関するノンフィクションを3冊読みましたが、やはり圧倒的なのは塩野七生さんの『ローマ亡き後の地中海世界』ですね。 いきなり「真のイスラム教は暴力の行使を嫌悪していると言われることが多くなっているが、つい先ごろ…