りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

ローマ亡き後の地中海世界(塩野七生)

『ローマ人の物語』の続編にあたりますが、時代的には『海の都の物語』とほぼ等しく、6世紀から16世紀にかけての、千年を超える期間の地中海世界が対象となっています。 キリスト教や民主主義、平等主義などの近代思想に基づく史観をいっさい採らずに、「…

僕とカミンスキー(ダニエル・ケールマン)

ベストセラーとなった『世界の測量』で、同時代に生きて互いに異なる「極限」を目指した2人のドイツ人、ガウスとフンボルトを魅力的に描いた著書のメジャーデビュー作だそうです。 本書は「盲目の老画家との奇妙な旅」と副題がついているように、主人公と画…

偽りの書(ブラッド・メルツァー)

聖書に記録された人類最初の殺人は、兄カインによる弟アベルの殺害なのですが、その記録には決定的な謎があるとのこと。凶器については何も記されていないそうです。 一方、1932年にミッチェル・シーゲルという男がクリーブランドで殺害されており、死の…

恋文の技術(森見登美彦)

京都の遠く離れた能登半島のクラゲ研究の実験所に飛ばされた大学院生がひとり。この男、守田一郎は、あまりの無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住んでいるかつての仲間たちに手紙を書きまくります。 友人の恋の相談に(いいかげんに)乗り、家庭…

ランボーとアフリカの8枚の写真(鈴村和成)

21歳で詩作をやめて放浪生活をおくったあと、25歳でアフリカの武器商人となり、36歳で骨肉種を患って帰国して右足を切断したものの、癌は既に全身に転移しており37歳で夭折した早熟の天才詩人ランボー。本書は、文芸評論家でランボー研究家である著…

三月の招待状(角田光代)

最後まで違和感を覚えた本でした。 友人の離婚パーティで顔を合わせた、学生時代の友人同士であった5人の男女。離婚パーティの当事者である、浮気な夫・正道と、彼にずっと振り回されていた裕美子。ライターとして成功しつつあるが、年下でグータラな同棲相…

まぼろしのロンリヴィル(エラン・クロバンド)

1800年ころの西部、突然のがけ崩れによって出口のない谷間に閉じ込められてしまった、それぞれ4家族のスコットランド人とネイティブ・アメリカン。直前まで争っていましたが、こうなったら当然休戦。4家族の娘と息子たちが結婚し、そのまた子どもたち…

ギリシャ三国志(佐野量幸)

ペルシアのギリシア侵攻を3度にわたって食い止めたペルシア戦争と、アテネとスパルタが30年に渡って覇権を争ったペロポネソス戦争、ペルシアの支援を受けたテーベとアテネが唯一の超大国となったスパルタをその座から引き摺り下ろしたコリント戦争を長い…

ビリー・ザ・キッド全仕事(マイケル・オンダーチェ)

21歳で死ぬまでに21人殺したと云われる伝説のアウトロー、ビリー・ザ・キッドの短い生涯を、詩、挿話、写真、証言、インタビューなどで再構成した作品なのですが、この本を読んでもビリーの伝記的な生涯はわかりません。ここに現れてくるのは、銃撃戦、…

イノセントゲリラの祝祭(海堂尊)

『バチスタ』の真の主役は「AI(オートプシー・イメージング )」なる死亡時画像診断でした。難度の高い手術中の死亡という、失敗しても誰も死因を疑わない状況下での犯罪を暴いたのは、手術対象とは関わりない箇所での異常だったのです。 日本における死亡…

エ/ン/ジ/ン(中島京子)

かつて迷子を売り物としたツアーで実際に失踪した男性の捜索が、吉田超人(ウルトラマン)が香港にいるという伝説と結びついていく『ツアー1989』と似たテイストの小説です。 身に覚えのない幼稚園の同窓会の招待状を受け取った葛見隆一は、人嫌いだった…

家、家にあらず(松井今朝子)

文庫の解説にもあるように、本書は『レベッカ』にも比肩するゴシック・ロマンです。ただし主人公は、古い洋館に嫁いだ若奥様ではなく、大名屋敷の奥御殿に奉公する若い女中。 同心の娘・瑞江は母を亡くした直後、「伯母」と名乗る女性の紹介で彼女が年寄役を…

山田風太郎明治小説全集 3~4.幻燈辻馬車

時代は明治15年といいますから、西南戦争の開始までを描いた『警視庁草紙』から5年後。自由民権運動の高揚期を背景にして、元会津藩町方同心の干潟干兵衛が御者をする辻馬車が、孫娘のお雛とともに、東京の街を走ります。 妻のお宵を会津落城の折に、次い…

三四郎(夏目漱石)

夏目漱石の『三四郎』というと、熊本から上京して学生生活をはじめた純情青年の三四郎が、広い世界に出て、学問に恋に成長していく「教養小説」との印象が強く、今でも人気の高い作品です。私もかつて、そんな読み方をした覚えがあります。 ところが水村美苗…

潜行(スチュアート・ウッズ)

『警察署長』で有名なウッズによる本格スパイ小説です。冷戦時代の物語ですが、一人の野心家によってソ連軍が動かされ、全世界を震撼させる戦争が準備されるという設定は、古くて新しいテーマです。現代の私たちは、民主主義国家を標榜する超大国が、大統領…

山田風太郎明治小説全集 2.警視庁草紙・下

大久保利通を敬愛して新政府の一翼を担う大警視・川路利長率いる警視庁に対して元江戸南町奉行所の面々が挑む知恵比べは、予想もつかないエンディングに向かって進んでいきます。 全体を俯瞰した時に見えてくるのは、個々の事件に対しては冴え渡る推理を働か…

夢の守り人(上橋菜穂子)

シリーズ第3作です。舞台はふたたび「新ヨゴ王国」に戻ってきます。 現実世界(サグ)と異世界(ナユグ)が重層構造を持っていることは、第1作の『精霊の守り人』で示されましたが、ナユグはさらに多層な構造を持っていて、そのひとつである「人の夢を糧と…

アレトゥサの伝説(柘植久慶)

副題に「地中海世界の十字路シチリアの物語」とあるように、古代から現代にかけてのシチリアの歴史を綴った本です。現代のシチリア島シラクサを訪れた「私」になぜか泉の女神アレトゥサが降臨して、2800年に及ぶシラクサの歴史を、それぞれの時代の君主…

嵐を走る者(T・ジェファーソン・パーカー)

カリフォルニアを舞台にして人間の愛憎や悲哀を描き出す良質ミステリを生み出し続けている作家の邦訳最新書です。本書でも、最愛の妻子を失い凍えていた男性の心が、新たな出会いによって再び溶け出していく過程が、鮮やかに描かれています。 元保安官補のス…

堕ちてゆく男(ドン・デリーロ)

ドン・デリーロの本を読んだのは、ケネディ暗殺事件を犯人のオズワルドの側から描いた『リブラ 時の秤』以来、2冊め。 9.11テロの直後にマンハッタンで撮影された、灰や埃にまみれたスーツ姿の男性がスーツケースを持って茫然として歩いている姿を捉え…

2009/3 仮想儀礼(篠田節子)

1位こそ、現代日本が病んでいるさまを「ネット宗教」という断面図から見せてくれた篠田節子さんの『仮想儀礼』にしましたが、『イングリッシュ・ペイシャント』の著者、マイケル・オンダーチェさんの到達点も素晴らしい。断片化されたコラージュのような構…