りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

深山に棲む声(森谷明子)

ロシア民話「一本足のババ・ヤーガ」を下敷きにして中世日本の舞台に移植したファンタジーかと思いつつ読んでいたら、ラスト2章でひっくり返してくれました。「物語」の衣をまとった「現実」が、再び「物語」として昇華されていくのです。三浦しをんさんの…

仮想儀礼(篠田節子)

「信者が30人いれば食っていける。500人いればベンツに乗れる」というのは本当か? ゲーム作家を夢みて仕事も家族も失った正彦は、やはり事業に失敗した元編集担当の矢口と再会した夜、9.11テロで崩壊するワールド・トレード・センターの映像に衝撃…

シェヘラザードの憂愁(ナギーブ・マフフーズ)

アラブ人作家として初めてノーベル文学賞を受賞した著者が、晩年に紡ぎ出した小説は、『アラビアン・ナイト』が終わった翌日から始まりました。花嫁を次々に殺害してきた残忍なスルタン・シェハルヤール陛下に「物語」を捧げ続けて、ついに彼の愛と信頼と子…

極北で(ジョージーナ・ハーディング)

良質の海外文革を届けてくれるクレストブックスの常連翻訳家で、アリス・マンロー、ゼイディ・スミス、ヤスミン・クラウザーなどの作品を手がけている小竹由美子さんが、また1人、新しい作家を届けてくれました。1616年の夏、イングランドの捕鯨船が北…

修道士カドフェル3 修道士の頭巾(エリス・ピーターズ)

シリーズ3巻めです。第1巻で中世の修道院の雰囲気と、ウェールズとの国境近くであるが故の人種的問題を描き、第2巻で12世紀のイングランド王位を争う戦闘に巻き込まれた、複雑な政治状況を描き、第3巻で主人公カドフェルの過去を描くというのは、考え…

楊令伝8(北方謙三)

前巻から続く楊令率いる梁山泊軍と童貫率いる宋禁軍の総力戦は、いよいよ「最後の決戦」の形に向かっていきます。とはいえ、そこに至るまでの生死をかけた「削りあい」も過酷であり、それぞれの戦いにも大きなドラマがあるのです。 たとえば扈三娘。聞煥章の…

幸運は誰に?(カール・ハイアセン)

著者は、デミ・ムーアの主演映画「ストリップ・ティーズ」の原作となった小説を書いた方。この本もそれと同様、粗暴でチンケな「アホでマヌケなアメリカ白人」の犯罪者が徹底的にコケにされる、ユーモアたっぷりの犯罪小説です。 美人で強くてスタイル抜群な…

時間封鎖(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

「ある夜、空から星々が消え、月も消えた。翌朝、太陽は昇ったが、それは贋物だった」。突然地球が膜で覆われて宇宙から遮断されてしまいます。後に明らかになるのは、地球だけが外の世界よりも1億倍も遅い時間の流れの中に封鎖されてしまうという不思議な状…

山田風太郎明治小説全集 1.警視庁草紙・上

『山田風太郎明治小説全集』というのが全14巻で発行されていたのですね。今回その第1巻を読んだのですが、面白すぎます。順次読んでいこうと思います。 この『警視庁草紙』は、初代警視総監・川路利長を先頭に近代化を進めている警視庁と、隠棲した最後の…

日本語が亡びるとき(水村美苗)

アメリカのアイオワ大学に各国から集まった作家達の交流を通じて、「人はなんと色々な所であらゆる言葉で書いているのだろう」と感嘆した著者が、言語的なグローバリズムの風潮の中で、日本語の行く末に警鐘を鳴らした本です。 言語は平等ではありません。世…

面影小町伝(米村圭伍)

『風流冷飯伝』と『退屈姫君伝シリーズ』に続く3部作の完結編であり、物語の設定も登場人物も、前2作と共通しているのですが、テイストは全く異なっています。前2作が「お気楽時代劇」だったのに対し、こちらは「伝奇バイオレンス」なのです。 主人公は、…

ディビザデロ通り(マイケル・オンダーチェ)

物語の始まりとはいったい何で、どこで終わるのか。ある種の物語は読者にも引き継がれて、無限の連鎖や分岐を持っているようにも思えます。ところが、小説には始まりがあって、終わりがある。とすると、確固たる開始点と揺るぎのない大団円を備えた小説が、…

女神記(桐野夏生)

「新・世界の神話シリーズ」で、日本を代表して「イザナキ・イザナミ神話」を再構成してくれたのは、桐野夏生さんでした。遥か南の海蛇の島で、大巫女を継いだ姉と、穢れを背負う運命の妹。16歳で運命に逆らい掟を破った末に死んだ妹ナミマは、迷える魂が…

犬博物館の外で(ジョナサン・キャロル)

『月の骨』から始まる、一連の「キャロル・ワールド」の第4作です。 サンタ・バーバラに住むハリー・ラドクリフは、とっても嫌味な天才建築家。傲岸不遜な自信家で、クレアとファニーという2人の女性とつきあっている。そんな彼に訪れた転機は、中東のオイ…

ブラザーサン・シスタームーン(恩田陸)

高校時代に出会った3人が、小説、音楽、映画とそれぞれの道に進み、過去を振り返ります。普通の高校生が普通の大学生になって、普通に生きていく中でたまたま才能を開花させた。3人それぞれが主人公となっての3章構成ですが、3人に共通した思い出は、高…

闇の守り人(上橋菜穂子)

『精霊の守り人』の続編です。主人公は、前作と同様に30代の女用心棒バルサ。前作の旅は、為政者によって歪められた伝承が、本来協力し合うべき関係の者たちを抑圧者と被抑圧者に分っていた不幸な歴史を正しましたが、今度の旅は自らの過去へと向かいます。…

ハブテトル ハブテトラン(中島京子)

「ハブテトル」とは備後弁で「すねている、むくれている」という意味で、「ハブテトラン」とはその否定形だそうです。東京の小学校に通う5年生のダイスケは、荒れるクラスと無責任な教師の間に立って登校拒否になり、両親の薦めで祖父母が暮らす広島県の松…

猫を抱いて象と泳ぐ(小川洋子)

後年、リトル・アリョーヒンという名で呼ばれる幻想的なチェス・プレイヤーとなる少年は、まるで言葉を拒絶したかのように唇を閉ざされて生まれてきました。繊細で美しい心を持つ少年を魅了したのは、巨大になりすぎてデパートの屋上から降りられなくなり生…

グローバリズム出づる処の殺人者より(アラヴィンド・アディガ)

タイトルと帯に騙されて読んでしまいました(笑)。だって聖徳太子の名文をもじって「グローバリズム出づる処インド・バンガロールの起業家が、民主主義が没する処の天子温家宝に書を致す」なんて、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか。たとえ「真の起業家…

神宮の奇跡(門田隆将)

昭和33年(1958年)という年は、日本にとっての転換点だったようです。この年に東京タワーが完成し、巨人軍に入った長嶋茂雄は大活躍し、皇太子ご成婚の発表で「ミッチー・ブーム」が沸き起こり、戦後の高度経済成長が始まったのです。 時を同じくして…

はじまりのうたをさがす旅-赤い風のソングライン(川端裕人)

音楽を志しながらも平凡なサラリーマン生活をしている隼人のところに舞い込んだのは、曽祖父からの遺産相続の話。戦前に真珠採りのダイバーとしてオーストラリアに渡った曽祖父ワジマは、アボリジニの生活に融けこんで、一族を繁栄させたとのこと。 オースト…

最後の晩餐の作り方(ジョン・ランチェスター)

食通のイギリス人であるタークィン・ウィノットは、第二の故郷であるプロヴァンスへとひとり旅をしている途中。ホテルやレストランでの食事の模様や、料理に関するレシピや薀蓄を延々とひけらかしながら、自分自身の生い立ちや家族の思い出をついでのように…

ブーリン家の姉妹(フィリッパ・グレゴリー)

新興貴族ブーリン家の野望のために、イングランド国王ヘンリー8世のもとに差し出されたアンとメアリーの姉妹。1歳違いの姉妹は、今までの「ブーリン家で一番の娘」の競争から「イングランドで一番の女性」を競う戦いの中に放り込まれます。 先にヘンリー8…

2009/2 われらが歌う時(リチャード・パワーズ)

2月のベストは文句なしに『われらが歌う時』で決まりです。昨年の後半からリチャード・パワーズに嵌まりこんでしまい、今まで翻訳された本を読んできたのですが、ようやく新刊にたどり着きました。期待通りに素晴らしい。何よりこの作者は表現が美しいので…