りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

たのしい木曜日(ジョン・スタインベック)

『キャナリー・ロウ』の続編です。1930年代の大不況時代から10年後、第二次大戦後の「缶詰横丁」のメンバーには少々変更がありました。戦争で犠牲になった者、町を出て戻らなかった者もいる中で、主役級だった海洋生物研究所の学者先生(通称ドク)と…

ひかりの剣(海堂尊)

『ブラックペアン1988』と同様に、やはり『バチスタの栄光』から20年前の物語。『ジェネラル・ルージュ』で颯爽と登場した東城大病院の天才救命外科医・速水晃一と、『ジーン・ワルツ』で代理母出産疑惑を追った帝華大病院の天才婦人科医・清川五郎は…

ジャック・ロンドン放浪記(ジャック・ロンドン)

力強い短編集『火を熾す』で紹介されていたジャック・ロンドンの生涯には驚きました。後年、作家として文名を上げる前には、児童労働者であり、牡蠣密漁者であり、遠洋航海船の船員であり、失業者であり、独学の社会主義者でもあったというのですから。 この…

退屈姫君これでおしまい(米村圭五)

他愛もない「お気楽時代劇」ですが、深い教養と時代考証に裏づけされた楽しい物語。 「すてき!すてき!」と「天下の一大事」に眼がない、甘やかされて育った大藩の末娘のめだか姫が、弱小の風見藩の正室に嫁いで始まったシリーズも、これで終了のようです。…

麻雀放浪記 1青春編(阿佐田哲也)

麻雀のことはよくわからないのですが、それでもこの本の魅力はわかります。日本の小説の中でピカイチのビカレスク・ロマンです。 終戦直後、上野不忍池付近のドヤ街でのサイコロ賭博を皮切りにして、ギャンブルにのめりこんでいく17歳の「坊や哲」が、それ…

盾・シールド(村上龍)

「わたしたちの心とか精神とか呼ばれるもののコア・中心部分はとても柔らかくて傷つきやすく、様々なやり方でそれを守っているのではないか。そのための色々な手段を『盾・シールド』という言葉で象徴させてみた」というのが、村上龍さんが本書を書かれた動…

キャナリー・ロウ(ジョン・スタインベック)

旅行計画前予習の第3弾は、地元の作家スタインベックが地元を描いた小説です。モントレーの漁港にある、缶詰工場が並ぶ通りの通称はキャナリー・ロウ(缶詰横丁)。ここに住む、貧しいけれどちょっと変わった人々が巻き起こす「人間喜劇」。 マックと彼の仲…

火を熾す(ジャック・ロンドン)

世紀の変わり目に生きたジャック・ロンドンは、40年の人生の中で、児童労働者であり、牡蠣密漁者であり、遠洋航海船の船員であり、失業者であり、独学の社会主義者だった方。もちろん小説家でもあり、200作以上の作品を残しているとのこと。 「火を熾す…

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル3(スザンナ・クラーク)

いよいよ第三部では、物語がクライマックスに入っていきます。イギリスでただ2人の魔術師であるジョナサンとノレル氏の関係が決裂したのをあざ笑うかのように、異界の存在はますます人間界に忍び寄ってくる。気に入った人間を妖精界に連れ去るだけでなく、…

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル2(スザンナ・クラーク)

第二部になって、若いジョナサン・ストレンジの活躍が本格的にはじまります。自分以外の魔術師を排除しようとしていたノレル氏も、天才肌のジョナサンには惚れこみ、師弟関係を結ぶのですが、彼にも読ませたくない本は隠したりして、やはりセコさは健在。 ジ…

ジョナサン・ストレンジとミスター・ノレル1(スザンナ・クラーク)

著者のスザンナさんは1959年生まれといいますから、『ハリー・ポッター・シリーズ』のJ・K・ローリングさんより6歳年上ですが、ほぼ同年代の方ですね。オクスフォード大学を卒業した後、出版関係の仕事をしながら10年かけて本書を書き上げたそうで…

光(三浦しをん)

生活のいっさいを断ち切って奪い去るほどの、暴力的な天災に襲われた者が身に纏うのは、諦めの念なのか。それとも、天災と同じような暴力なのか。三浦さん、かなり力を入れてダークな物語に挑戦してますが、成功しているかどうか・・。 突然の津波に全てを飲…

モダンタイムス(伊坂幸太郎)

ファシズムの到来を懸念して「検索するのではなく思索せよ」と訴えた『魔王』の続編。荒廃した日本にファシズムをもたらしそうであった犬飼首相に、安藤兄が対決してから50年ほどあとの物語。日本には徴兵制が導入されているものの、それほど国情が悪化し…

真理子の青春日記&レター (林真理子)

昭和50年代の初めの頃。大学は卒業したけれど、就職できず小説も書けない。お金もないし、恋人もいない。自分の才能を信じる気持ちも薄れてくるし、恵まれた人を嫉妬して悪口だって書いてしまう。でも、夢だけはありました。林真理子さんが、「怒れる文学…

居酒屋ゆうれい(山本昌代)

かつて、萩原健一、山口智子、室井滋といったメンバーで映画化されました。妻・しづ子の死の直前に「新しい女房はもらわない」と約束した居酒屋の主人の壮太郎ですが、周囲からの世話もあって、後妻を迎えてしまいます。もちろん、そんな約束は忘れて・・。 …

サラマンダーは炎のなかに(ジョン・ル・カレ)

ル・カレさんというと、『スクールボーイ閣下』や『リトル・ドラマー・ガール』など、冷戦時代を舞台にしたおそろしく出来のいいスパイ小説を書いていた方(過去形!)との印象があるのですが、先般映画化された『ナイロビの蜂』では、アフリカで人体実験を…

空に浮かぶ子供(ジョナサン・キャロル)

『月の骨』と『炎の眠り』で脇役として登場していたウェーバー・グレグストンが主役。映画監督をやめてニューヨークで癌患者による劇団を運営していたウェーバーのもとに、親友でやはり映画監督のフィルが、ホラー映画シリーズの新作を完成させる寸前に自殺…

雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉(伊集院丈)

1980年代、日本のコンピュータ産業が巨人IBMを追撃していた最中のこと、富士通と日立がIBMのソースコードを盗んだと訴えられた事件が起きていました。当時のコンピュータ産業は「IBM互換製品」をIBMより安価に売ることによってIBMの顧客…

ティンブクトゥ(ポール・オースター)

なんと本書の主人公は「犬」でした。名前はあります。「ミスター・ボーンズ」。翻訳を手がけた柴田元幸さんによると、表紙の犬の写真はオースターさんの実際の飼い犬とそっくりのものを使ったとのことで、もうこのイメージで読むしかありませんね。 ボーンズ…

エドウィン・マルハウス(スティーヴン・ミルハウザー)

11歳で夭折した天才作家、エドウィン・マルハウスの伝記!しかも伝記の著者は、やはり11歳の親友ジェフリー・カートライト!ここまで意表を衝いた設定の本というと、いかにも小難しい「実験小説」のようですが、これがなかなか読ませてくれます。 生後6…

映画篇(金城一紀)

ベタな本ですが、この本に限ってはそれも許される。映画が与えてくれる感動は、だいたいにおいてベタなものだから。では、この本は映画のような迫力に満ちているのか。答えはYES。少なくとも、本書を読んだ人はすぐに映画を見たくなるはずですから。 映画…

コンゴ・ジャーニー(レドモンド・オハンロン)

19世紀末から20世紀はじめの「ナショナル・ジオグラフィック」に掲載された冒険譚の抜粋を編集した『大冒険時代』のレビューで「今ではこんなに心躍る冒険は消滅した」と書きましたが、間違ってました。Beckさんに勧めてもらった本です。 本書は、199…

ラッコの海-写真集(野口伸一郎)

仕事が忙しくなると、むしょうに旅行に行きたくなります。昨年の夏にアンセル・アダムスさんの写真集『YOSEMITE』を見て以来、「次の旅行はヨセミテ周辺」と決めているのですが、こんな写真集を見ると、計画がいっそう膨らんでいきます。 サンフラン…

われらが歌う時(リチャード・パワーズ)

オバマ新大統領の就任式典で、200万人もの参加者がワシントンのナショナル・モールを埋め尽くした光景は圧倒的でしたが、本書の主人公たちもここで運命の出会いを果たします。亡命ユダヤ人物理学者のデイヴィッドと黒人音楽学生のディーリアは、第二次大…