りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-09-01から1ヶ月間の記事一覧

精霊の守り人(上橋菜穂子)

和製ファンタジーとして、荻原規子さんの『勾玉シリーズ』と双璧と言われている作品ですが、なかなか手を出しにくかったのです。主人公が30歳の女性と聞いて読む気が起きました(笑)。 著者はアボリジニ研究を専門とする文化人類学者とのことでしたので、…

永遠を背負う男(ジャネット・ウィンターソン)

角川書店から刊行されている「新・世界の神話」シリーズの一冊。ジャネット・ウィンターソンによる「アトラス」神話です。もちろん、彼女自身の解釈であり、彼女の自伝的なエピソードまで絡ませた創作です。 オリュンポスの戦いでゼウスに敗れて「世界」を支…

メアリー・スチュアート(アレクサンドル・デュマ)

文豪デュマが歴史小説で大ヒットを飛ばすようになる前に書いた「歴史読本」的シリーズのひとつで、悲劇のスコットランド女王メアリー・スチュアートの一代記です。スコットランド国王ジェームズ5世を父に、イングランド国王ヘンリー7世の娘を母に持ち、は…

生ける屍(ピーター・ディキンスン)

架空の英国王室に起きた怪事件の顛末を描いた『キングとジョーカー』が楽しかったので本書も手に取ってみたのですが、はっきり言って訳のわからない作品でした。サンリオSF文庫史上最も入手困難といわれるこの本が図書館にあったことには感謝なのですが・…

国芳一門浮世絵草紙2 あだ惚れ(河治和香)

天保の改革によって華美な錦絵の出版が禁止される中で、江戸っ子気質を発揮して世相を風刺したり、奇抜な手法で禁令をすり抜るような作品を描き続けた歌川国芳の娘、登鯉(とり)を主人公とした短編連作シリーズの第2弾です。 前作の『侠風(きゃんふう)む…

オレンジだけが果物じゃない(ジャネット・ウィンターソン)

『さくらんぼの性は』の後から翻訳出版されましたが、実はこちらが処女作です。 「父は格闘技を観るのが好きで、母は格闘するのが好きだった」とはじまる本書は、熱烈なキリスト教徒の母親から伝道師になるための厳しい教育を叩き込まれて育ち、世界のすべて…

さよなら渓谷(吉田修一)

ある犯罪をめぐる男女の出会いをミステリー・タッチに描きながら、普遍性の強い「愛」の物語へ昇華させていくという点では、前作の『悪人』と共通しています。でも、両者を比較してしまうとちょっと内容が薄い。 自分の幼児を渓谷に投げ込んで殺害した容疑が…

本所深川ふしぎ草紙(宮部みゆき)

世情に通じて人情にも厚い岡っ引の親分の「回向院の茂七」を狂言回しとした本書は、以前にNHKでドラマ化されてもいます。個人的な「宮部時代劇」の再読企画の第3弾ですが、この本の物語は結構覚えていました。 片葉の芦 強欲者と言われている近江屋藤兵…

キングとジョーカー(ピーター・ディキンスン)

1975年ころに英国王室で起きた、ジョーカーと名乗る人物の悪ふざけ事件。はじめは、ハムが入っているはずの皿の蓋を開けたらガマガエルが飛び出してきたとか、突然グランドピアノが17台も届けられるとかの、他愛のないいたずらだったのですが、段々エ…

ゼロの迷宮(ドゥニ・ゲジ)

パリ大学の科学史教授による、アラビアにゼロが伝えられてアラビア数字が完成するまでをめぐる「歴史ロマン」とのことですが、ネタバレなしではレビューにならないほど内容は薄い。以下は、完全にネタバレです。 2003年のバグダッド。 イラク戦争のさな…

ラジ&ピース(絲山秋子)

FM局アナウンサーの野枝は、人との関わりが苦手で、容姿にも強い劣等感を抱いています。ラジオ局に入社したのも、東京を避けたのも、自分で「対人バリア」を張りまくった結果。入社後もディスクジョッキーを務める番組以外の全てが嫌いで、スタジオだけが…

楊令伝6(北方謙三)

南方で宗教叛乱を起こした方臘は戦死し、北方の燕雲十六州を独立させようとの動きは頓挫。前巻で宋禁軍の南北の戦いは終結し、間隙を縫って一州をほぼ独立させた梁山泊軍ともども、力を蓄える時期が訪れました。 何れの側でも老いていく者と育っていく者との…

泥棒兵士のホームステイ(永田俊也)

原潜が配備されようとしている横須賀で、米軍と市民の交流を深めようという企画に乗ったのは、海軍物資を横流しして金儲けをしようとたくらんでいる水兵クレンショーでした。 彼を受け入れた家庭のほうも、一見幸せそうな裕福な家族と見えたのですが、実はめ…

ただマイヨ・ジョーヌのためでなく(ランス・アームストロング)

マイヨ・ジョーヌとは、自転車レースの最高峰であるツール・ド・フランスで1位を走る選手だけが着ることができる、栄光のジャージのこと。近藤史恵さんの『サクリファイス』で自転車競技に興味を持ったので、本書を手にしてみました。 アルプスやピレネーを…

黄色い雨(フリオ・リャマサーレス)

沈黙と記憶に蝕まれて、すべてが朽ちゆく村で、亡霊とともに日々を過ごす男。「悲しみ」や「喪失」といった言葉はこの小説には必要ない。「悲しみ」や「喪失」は、ここには空気のように偏在しているから。なのに、なぜ、すべてがこんなにも美しいのだろう? …

四十七人目の男(スティーヴン・ハンター)

『極大射程』シリーズの主人公、ボブ・リー・スワガーの物語は、前作『狩りのとき』で完結したと思っていたのですが、まだ続きがありました。しかし、ハンターさん。この作品は「やっちまったな^^;」です。 父アールが激戦地・硫黄島から持ち帰った日本刀…

幻色江戸ごよみ(宮部みゆき)

久々に『あやし』を再読して、宮部さんの時代小説の良さを再認識しました。本書も再読ですが、かなり忘れていたようで、新鮮な気持ちで読めました(笑)。 本書は12の月に仮託された12編の短編からなっていて、丹念に語られる一編一編の物語からは、一年…

あやし(宮部みゆき)

宮部さんの新作『おそろし』を読む前に、連作短編シリーズと思える本書を再読してみました。江戸商家を舞台にした「宮部怪談」9編ですが、そこから漂ってくるのは「こわい」というより「不思議であやしい」感じです。タイトルはぴったりはまっています。怖…

限りなき夏(クリストファー・プリースト)

現代イギリスSF界の巨匠であるだけでなく、『奇術師』や『双生児』でジャンルを超えた人気を博しているプリーストさんのベスト短編集です。私の好みは、時空に隔てられた男女の恋愛を描いた最初の2作。 「限りなき夏」 1903年の平和な夏の日、まさに…

囚人のジレンマ(リチャード・パワーズ)

相手を密告すれば無罪放免されると聞かされた2人の囚人は、どう行動するべきなのか。そんなジレンマが100人に、千人に、数十億人に広がったら、どういう未来が現れるのか。実は、ジレンマから解放される道もあったのです。それは、自分の利益を最大にす…

クライマーズ・ハイ(横山秀夫)

1985年8月の日航機墜落事故に対する、地元新聞社の報道を巡る緊迫した状況が題材ですが、小説のテーマは「報道」というものを超えています。 墜落事故に関する全権デスクに任命された地元紙の遊軍記者、悠木和雅は、山を通じて知り合った同僚の安西と谷…

RDG レッドデータガール はじめてのお使い(荻原規子)

『勾玉シリーズ』の荻原さんによる現代ものですが、これは長編のはじまりなのかもしれません。 ヒロインの泉水子(いずみこ)は、世界遺産に認定される熊野の神社で生まれ育った中学三年生。おとなしくて、引っ込み思案で、男の子と接するのは大の苦手な目立…

レッド・ボイス(T・ジェファーソン・パーカー)

ジェファーソン・パーカーの小説は、警察ミステリという表現形式を用いながら、人間関係の奥深さを描き出すことに成功している稀有な例と言えると思います。全米探偵作家クラブ賞の最優秀長篇賞を2度も受賞しているというのも頷けます。 彼の小説の舞台は、…

またの名をグレイス(マーガレット・アトウッド)

カナダを代表する作家であるアトウッドさんの本を読むのは『侍女の物語』以来、2作目。本書は、1843年にカナダで実際に起きた殺人事件に題材を求めて、カナダ犯罪史上最も悪名高いと言われている女性犯グレイス・マークスについて描いています。 当時1…

2008/8 光州の五月(宋基淑)

毎年8月には読書量が落ちるのですが、今年はそこそこのペース。でも、ベスト本を5冊も選びきれないというのでは、質的にはどうだったか・・。しかも上位は全て、ノンフィクション系統ですからね。 ル=グウィンさんの新シリーズは、3巻まで読了してから評…