りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

当マイクロフォン(三田完)

『俳風三麗花』で昨年の直木賞候補となった三田さんの手による、昭和を生きた破天荒な実在のアナウンサー、中西龍の一代記です。昭和28年にNHKに入局し、若い頃から仕事の鬼となってラジオ界屈指の語り手となった人物ですが、その一方で遊郭に入り浸っ…

聚楽-太閤の錬金窟(宇月原晴明)

ルーアンからヴェネチアを経由してキタノショウへ・・。前世紀に火刑とされた聖処女ジャンヌ・ダルクに魅せられて異端となった元イエズス会修道士が操る錬金術の邪法が、生涯お市の方を慕い続けた晩年の秀吉の前にグロテスクな姿で現れます。燃えあがる火の…

年下の男の子(五十嵐貴久)

突発的にマンションを購入してしまった37歳の晶子。これってもう「あきらめた」ってこと? そういえば30代後半になって出会いのチャンスも少なくなってるし、これ以上のタブーといったら「猫を飼うこと」しかない!(笑) そんな晶子が、取引先の14歳…

アフガンの男(フレデリック・フォーサイス)

逮捕劇のさなかに自殺したアルカイダ幹部のパソコンに残された、「アル・イスラ」という作戦名。コーランで最重要とされている、教祖モハメッドの「夢の旅」を意味するコード名のついた作戦は、恐るべき規模のテロであろうと予測されたのですが、詳細は一切…

四十七人の刺客(池宮彰一郎)

もはや古典となっている「忠臣蔵」を、新しい視点で描いた小説です。そもそも、ただの仇討ちであれば「闇討ち」するチャンスなどいくらでもあったはずなのに、あえて「討ち入り」をかけて吉良上野介を討ち取る必要が、なぜあったのでしょう。著者は、これは…

RURIKO(林真理子)

林真理子さんの取材による「フィクション」の「浅丘ルリ子伝」ですが、限りなく真実に近いのではないかと思わされます。本人の了解もとっているのでしょうしね。 終戦間際の満州帝国。満州映画協会の理事長である甘粕正彦(大杉栄と伊藤野枝を殺害とされる人…

最後の瞬間のすごく大きな変化(グレイス・ペイリー)

村上春樹さんの翻訳です。この人の本を読むのは『人生のちょっとした煩い』に次いで2冊めですが、フェルメールの絵画を鑑賞するような感じにさせらてしまいます。どちらも寡作で知られているだけでなく、その場の光景を、周囲の空気までも含めて切り取って…

封印の島(ヴィクトリア・ヒスロップ)

レトロさんに紹介してもらった本です。仕事にも恋人にも手ごたえを感じられないアレクシスは、母がいっさい語ってくれない過去を求めて母の故郷であるクレタ島の寒村プラカを訪れますが、母ソフィアの旧友が語ってくれた家族の歴史は、驚くべきものでした。 …

YOSEMITE(アンセル・アダムス)

せっかくの休暇期間ですが、あまりにも暑いのとTVでのオリンピック観戦に熱中してしまうのとで、読書が全然進みません。こんな時には、涼しそうな写真集でも眺めてみましょう。 ヨセミテ国立公園のモノクロ写真で名高いアンセル・アダムスさんは、1920…

平成お徒歩日記(宮部みゆき)

江戸時代のコンセプトに従って、平成の世を徒歩で歩き回るという形の「旅日記」。半年ごとに行なわれていた雑誌の企画なのですが、もう10年以上も前のことなんですね。 登場人物は「ミヤベ」に加えて、さまざまなニックネームをつけられた雑誌社の方々。あ…

真田手毬唄(米村圭五)

『影法師夢幻』とのタイトルで出版された小説が、文庫化に際して改題されたとのこと。 「花のようなる秀頼さまを 鬼のようなる真田が連れて のきものいたり鹿児島へ」。大阪夏の陣で秀頼と淀君が自刃した後に流行した手毬歌は、秀頼の鹿児島落ちの伝説を残し…

カソウスキの行方(津村記久子)

「カソウスキ」なんてロシア人の名前のようですが、「仮想好き」のこと。本社でのゴタゴタから郊外の倉庫に飛ばされてしまった主人公女性のイリエが、あまりにも乾燥した情けない毎日を紛らわすために、冴えない倉庫番の同僚である森川のことを好きだと仮定…

狼たちの月(フリオ・リャマサーレス)

スペイン内戦に敗れた後、1937年から1946年までの10年間をアストゥリアス地方の険しい山岳地帯に隠れて生き延びた敗残兵の物語ですが、本書を理解するために、内戦時代のスペインについての予備知識などを必要とするものではありません。この本に…

西のはての年代記Ⅱ ヴォイス(ル=グウィン)

新シリーズの2作目は、『ギフト』の時代から20年程度後の時代に移ります。北の高地を降りたオレッグとグライは結婚して、諸国を巡って詩歌を発掘する生活をしています。動物と心を通じさせるグライの能力は昔のままですが、オレッグは、自分に授けられた…

さくらんぼの性は(ジャネット・ウィンターソン)

17世紀のピューリタン革命のさなかのロンドン。数十匹の犬を飼いながら社会の底辺に生きる大女(ドッグ・ウーマン)に拾われたジョーダンは、「12人の踊る王女たち」の末っ子である幻の女性フォーチュナータを探して旅に出ます。 「12人の踊る王女たち…

カラシニコフⅡ(松本仁一)

朝日新聞に連載されていた第2シリーズです。第1シリーズでは、「カラシニコフの銃口から生まれた」アフリカの「失敗国家」の悲惨な現実が紹介されましたが、本書の舞台は南米からアフガニスタン、中東へと広がります。 貧困ゆえにコカイン密輸ゲリラに身を…

カラシニコフⅠ(松本仁一)

世界の紛争の場にいつも存在してきた、「悪魔の銃」とも呼ばれることのあるカラシニコフ。本書は、国家が銃器を統制できなくなった時に何が起きるのかを丹念に検証していきます。 著者はまず、シオラレオネに目を向けます。村を襲われて弟を殺され、教室から…

オリガ・モリソヴナの反語法(米原万里)

ロシア語通訳の第一人者であった、故米原万理さんが書いた唯一の長編小説です。 1960年代のプラハで、ソビエト学校に通っていた日本人留学生の小学生・志摩の記憶に残る相当の高年齢ながら年齢不詳の舞踏教師オリガは、卓越した舞踏技術だけでなく、ガラ…

光州の五月(宋基淑)

16年間に渡って軍事独裁政権を築いていた朴正煕大統領の暗殺後、韓国には「ソウルの春」と呼ばれる民主化ムードが起きたのですが、それも全斗煥が粛軍クーデターで実権を握るまでの短い間のこと。全国に戒厳令を布告した全斗煥は、反軍部民主化デモが続い…

西のはての年代記Ⅰ ギフト(ル=グウィン)

『ゲド戦記』の作者であるル・グウィンさんが久々に書き著した新シリーズの第一作。「西のはての年代記」と呼ばれるシリーズは、『ギフト』、『ボイス』、『パワー』の三部作となることは既に発表されており、現在のところ第2巻までが刊行されています。全…

総統の子ら(皆川博子)

「ヒトラーの時代」を生きたドイツの少年たちの軌跡を描いた物語。皆川さんの耽美的・幻想的な作風は、少年たちの幼い頃のエピソードに少々登場するだけで、かなりリアリズムに満ちた小説に仕上がっています。 物語は、1934年、エリート養成機関ナポラを…

2008/7 航路(コニー・ウィリス)

7月も前月に続いて、ノンフィクション系に読み応えのある本が揃いましたが、やはり上位はフィクションを選びましょう。新感覚SFのワンツーフィニッシュです。 1.航路 (コニー・ウィリス) 臨死という固くて暗そうなテーマを扱いながら、上下2巻を一気…

悶絶スパイラル(三浦しをん)

オダギ〇ジョーとコミックをこよなく愛し、弟以外の男性とは全く縁のない「しをん」さんが、オタクモードも妄想モードもバリバリの全開にして「Boiled Eggs Online(ネット雑誌ですか?ブログですか?)」に連載していたエッセイです。 タイトルをいくつか見…