りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-04-01から1ヶ月間の記事一覧

2008/4 メタボラ(桐野夏生)

本屋大賞を受賞した伊坂さんの『ゴールデン・スランバー』を、ようやく読めました。皆さんの評価も高かったので期待していたのですが、期待しすぎるとよくないですね。かえって「物足りなさ」を感じてしまいました。 今月の上位にあげた3冊には、フィクショ…

無実(ジョン・グリシャム)

リーガル・サスペンスの第一人者であるグリシャムさんによる、初のノンフィクションです。本書で扱われているのは、ズバリ「冤罪」。 1982年にオクラホマの田舎町で起きた、ウェイトレスのレイプ殺人事件。警察の捜査は行き詰っていましたが、事件から5…

ロミオとロミオは永遠に(恩田陸)

日本人だけが地球に居残り、膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。そこでエリートとなるには「大東京学園」の卒業総代になるしかなく、過酷な入学試験と厳しい生存競争が繰り広げられる学園生活をくぐり抜けなくてはなりませんでした。ところ…

ルドルフ(フレデリック・モートン)

19世紀末のウィーンを震撼させた、ハプスブルグ家の皇太子ルドルフの心中事件。果たしてそれは、どのような時代背景のもとで、どのような事情から起きたのでしょうか。本書は、事件に至るまでの10ヶ月間のウィーンを描いて、それをつきとめようとします…

ゴールデンスランバー(伊坂幸太郎)

ストーリーテラーとしての伊坂さんの真骨頂が発揮されています。今年の「本屋大賞」を受賞した作品。 巨大な陰謀によって首相暗殺事件の犯人に仕立てられた男の逃亡物語なのですが、読者の意識の振幅を狙った構成がいいですね。まず、第一部「事件のはじまり…

メタボラ(桐野夏生)

この本は、ワーキングプアーと呼ばれる請負派遣労働の実態を描きたかったのでしょうか。それとも、沖縄に流れてくるナイチャー(内地人)社会の実態を描きたかったのでしょうか。どちらの問題も、根はひとつに思えますが。 未来に希望を持てず、どこにも定着…

DOJO-道場(永瀬隼介)

主人公は、腕っ節はめっぽう強いが「押され」に弱い、お人よしの空手家・藤堂忠之29歳。でも、「空手バカ一代」的な物語ではありません。 藤堂は世界的に有名な空手流派で黒帯を取った、実戦空手のエリートではあるのですが、勤めていた会社をリストラされ…

シャドウ・パペッツ(オースン・スコット・カード)

「エンダーシリーズ」から派生した、エンダーの副官であり影でもあったビーンを主人公とする「シャドウシリーズ」の3作め。エンダーが宇宙に去った後の地球でエンダーの兄であるピーターを補佐し、ピーターが地球統一政府のヘゲモンとして平和をもたらすま…

神の獲物(C・J・ボックス)

イエローストーン国立公園に隣接する広大なワイオミングの大自然と家族をこよなく愛する、心優しい猟区管理官ジョー・ピケットが主人公。「自然保護ミステリー」とも言えるシリーズの第3作めです。 ワイオミングの牧場や山林にも、エネルギー高騰という実世…

ゴールデン・マン(フィリップ・K・ディック)

1980年に出版された、ディック初期のSF7品を収めた短編集です。表題作が今年のGW映画「NEXT」の原作とのことで、最近復刊されました。 「ゴールデンマン」とは、全身が金色に輝いている黄金像のようなミュータントで、未来予知能力を持った存在…

廃墟の上でダンス(ミラーナ・テルローヴァ)

1994年、14歳になった少女ミラーナは村恒例のダンスパーティを心待ちにしていたのに、その冬、パーティは開かれませんでした。始まったのは戦争だったのです。 14歳の冬、川に向かって平和を祈りながらも、「チェチェン人は世界から見捨てられている…

グラデーション(永井するみ)

ごく普通の14歳の少女が、恋愛や、友情や、家族や、進学や、就職といった、誰にでも訪れる問題をひとつひとつ受け止めながら、成長していく様子を丁寧に綴った小説です。 主人公の真紀は、まじめで地味な女の子。明るくて人好きのする年の離れた姉と対照的…

水辺にて(梨木果歩)

梨木さんはカヤックを漕ぐ趣味をお持ちなんですね。イギリス留学中に湖水地方はウィンダミア湖で漕ぎはじめたとのこと。 アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』の舞台がウィンダミア湖であることを今まで知りませんでした。今は「ピーターラビットの…

天使の記憶(ナンシー・ヒューストン)

1957年のパリ。フルート奏者ラファエルは、家政婦として雇ったドイツ人娘サフィーに一目ぼれして結婚。全てに無関心で感情を持たない人形のようだったサフィーは、プロポーズにも軽く頷いただけで、息子エミールが生まれた後も、彼女の様子は何も変わり…

ドリームマシン(クリストファー・プリースト)

タイトルが似通っているので『スペースマシン』の姉妹編かと思ったら、全然別もの。邦題を似せてつけただけのようです。原題を直訳すると「ウェセックスの夢」。 本書の出版時点(1977年)では近未来だった1985年に行われたプロジェクト。これは集団…

しゃべれどもしゃべれども(佐藤多佳子)

落語家の今昔亭三つ葉は、26歳の二つ目。普段の暮らしも着物で通し,喧嘩っ早くて女に疎いという、「坊ちゃん」のような性格。芸風も古典一筋で、小三文師匠の模倣に徹するといえば聞こえはいいけれど、自分の解釈を加えることもできず、まして新作なんて…

アフリカの瞳(帚木蓬生)

『アフリカの蹄』から12年後、前作の主人公で日本人医師のシンは、黒人の恋人パメラと結婚して、この国でずっと医療活動を続けていました。アパルトヘイトは撤廃されたものの、貧困とエイズという二重の枷のもと、この国の黒人たちは依然として底辺で苦し…

アフリカの蹄(帚木蓬生)

架空の国の物語とされますが、アパルトヘイトがあった国ですから、誰が見たって南アフリカ。心臓外科の研修のために赴任してきた日本人医師の作田シンの眼を通して、アパルトヘイトの実情と、それに対する闘いを描き出した、ヒューマニズムに溢れた作品です…

シェイクスピアのたくらみ(喜志哲雄)

聖書と並ぶ「古典」であり、欧米人の基本的教養ともなっているシェイクスピア。でも本来は実際に舞台にかけるための戯曲であり、観客の反応を計算しつくして書かれたものというのが本書の主張。18世紀のロマン派によるヒューマニスティックなシェイクスピ…

楊令伝4(北方謙三)

ついに宋禁軍の戦闘が南北でが開始されました。南では、童貫自らが兵を率いて方臘による江南の宗教蜂起の制圧へ。連環馬戦法で信徒軍を蹴散らす禁軍ですが、信徒が何十万人殺されても童貫ひとり倒せば勝ちという戦いの形の中で、戦いの行方には暗雲がたちこ…

優しいオオカミの雪原(ステフ・ペニー)

19世紀半ばのカナダ。スコットランド移民たちが新天地を求めて移り住んだ入植地。罠猟師が殺され、ひとりの青年が行方不明になった現場に残された足跡は、オオカミの棲む森と極寒のツンドラしか存在しない奥地をめざしていました。 行方不明となった青年・…

ナインスゲート(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

最近では『剣士アラトリステ』シリーズがフューチャーされているレベルテさんですが、以前はウンベルト・エーコのような作品も書いていたのですね。 スペインの稀覯本ハンターであるコルソに、同時に2つの奇妙な依頼が持ち込まれます。ひとつは、デュマの『…

こころげそう(畠田恵)

「こころげそう」とは「心化粧」であり、「口には言わないが内心恋こがれる」ことだそうです。あたしも、べるさんと同様に「こ、転げそう」かと思いました(笑)。 お江戸を舞台にした「男女9人恋物語」とでもいう内容。幼馴染9人には、それぞれに想い人が…

スペース・マシン(クリストファー・プリースト)

19世紀末のイギリス。しがないセールスマンのエドワードは、大科学者の秘書アメリア知り合い、恋に落ちます。2人は博士の留守中に、博士が作り上げていたタイムマシンで未来に向かって時間旅行に出るのですが、行き着いた先の1903年で彼が眼にしたの…

2008/3 大冒険時代(マーク・ジェンキンズ編)

3月は、奇想に満ち満ちたSF小説や幻想小説に「当たり」がたくさんあったのですが、それらを抑えて1位となったのは、『大冒険時代』。19世紀末から20世紀前半にかけて、まだ「大冒険」という言葉が生きていた時代の、冒険物語が持つリアリティの前に…