りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2008/2 ベルリン転換期3部作(クラウス・コルドン)

2月の1位は、文句なしに宮部さんの『楽園』と思っていましたが、一気読みしてしまったクラウス・コルドンの『ベルリン転換期3部作』の迫力を買いましょう。 一方で「とんでも科学理論」に立脚(?)する作品が2冊、印象に残りました。「量子論的唯名論」…

聖遺の天使(三雲岳斗)

『旧宮殿にて』と同様、ミラノ時代のレオナルド・ダ・ヴィンチを主人公としたルネサンス・ミステリーですが、こちらのほうが先に書かれたようですね。 ミラノ宰相ルドヴィコ・スフォルツァ(通称イル・モーロ)によってフィレンツェから招聘されたレオナルド…

ベルリン1945(クラウス・コルドン)

ベルリンの下町に住む、普通の労働者の家族であるゲープハルト一家を主人公として、20世紀初頭の激動期を描く『ベルリン三部作』の最後は、ドイツ敗戦の年。 本書の主人公は、ナチスが権力を掌握した1933年にゲシュタポによって逮捕されたヘレとユッタ…

楊令伝3(北方謙三)

『北方水滸伝』の続編ですが、水滸伝に集った英雄豪傑の残党や宋政府の要人たちなど架空の人物に加えて、「金」を立国した女真族の完顔阿骨打や、後に南宋の悲劇の名将と謳われることになる岳飛少年など、虚実が入り混じって物語が進行していきます。 第3巻…

最後の陪審員(ジョン・グリシャム)

リーガル・ミステリーの第一人者であるグリシャムさんの新作ですが、初期の代表作の『法律事務所』や『ペリカン文書』などのサスペンス路線を期待すると当てが外れます。むしろ、味わいは自伝的名作である『ペインテッド・ハウス』に近いかもしれません。 1…

ベルリン1933(クラウス・コルドン)

『ベルリン1919』に続く「ベルリン三部作」の第2作は、ナチスの権力奪取前夜の暗雲がドイツを覆っていくかのような暗い時代の物語。前作では13歳の少年だった、ゲープハルト家の長男・ヘレはすでに27歳。機械工となって結婚もし、筋金入りの闘士に…

通訳(ディエゴ・マラーニ)

beckさんとレトロさんに紹介された本です。23種の言語が共存するEUの翻訳官である、言語のプロによって書かれた不思議な物語。 「全生物が話す普遍言語を発見しかけている」と主張する、精神に異常をきたした通訳を解雇した、通訳サービスの責任者・ベラ…

街道をゆく 32.阿波紀行・紀ノ川流域(司馬遼太郎)

唐突にこんな本を読んだ理由は、今年のGWに四国旅行を計画しているから。今まで四国には一度も足を踏み入れたことがないんです。コースや日程を決める前に、何か関係のある本を読んでみようと思った次第。 司馬さんの『街道をゆく』シリーズは初めて読みま…

桐畑家の縁談(中島京子)

ずっと苛められっ子で地味で目立たなかった妹の佳子が、突然結婚を決めたことで、姉の霧子は動揺してしまいます。 妹と違ってずっと可愛い女性でいて、男性からも適当にもてていて、今でも医者と交際している霧子ですが、ただいま現在は微妙な位置にいるので…

さよなら僕の夏(レイ・ブラッドベリ)

『たんぽぽのお酒』から55年たって出版された「続編」です。とはいっても、本書の部分も『タンポポのお酒』と同時に書かれていたそうですから、著者の中で続編として出版するとの気持ちが熟成されるのに、それだけの時間を要したということなのでしょう。 …

コルシア書店の仲間たち(須賀敦子)

須賀さんが20代から30代の日々を賭けた、ミラノのコルシア書店。この書店でめぐり合ったペッピーノを夫とし、彼の早逝後もその場所にとどまり、個性的で理想に燃える仲間たちと共に仕事をした、彼女にとって一番大切な場所。 この本は、ある意味では挫折…

タカラジェンヌの太平洋戦争(玉岡かおる)

神戸に生まれ育ち、幼い頃からの熱烈な宝塚ファンであり、「神戸の女性」を主人公に小説を書き続けている玉岡さんが、戦争前後の宝塚を取材して纏め上げた新書です。 まずは歴史を追いましょう。阪急電鉄の総帥・小林一三が、阪急沿線に開発した宝塚新温泉の…

カイトランナー(カーレド・ホッセイニ)

最近、『君のためなら千回でも』と改題されて文庫化されました。オリジナルタイトルのほうがずっといいのに、こんな純愛ものみたいな書名にして・・とがっかりなのですが、内容の素晴らしさを損なうものではありませんよね。 アフガニスタンの裕福な家に育っ…

中原の虹4(浅田次郎)

清朝末期から共産党による統一まで100年以上も続く、激動の中国近代史。浅田さんはどこまでを描くのだろうと思っていましたが、張作霖を主役とし、袁世凱を準主役としたこの本は、東北王となった張作霖がついに長城を越えて中原になだれ込む場面でいった…

ベルリン1919(クラウス・コルドン)

第一次大戦末期のベルリンの貧民街でたくましく生きている13歳の少年・ヘレと家族を、激動が襲います。父親が、片腕を失った傷病兵として帰宅したのは悲喜こもごもの出来事でしたが、キール軍港の水兵が反乱を起こしたとのニュースが飛び込んでくるや否や…

ブラックベリーワイン(ジョアン・ハリス)

少年時代の思い出を描いた小説で華々しくデビューした作家ジェイは、その後はしがないSF小説しか書けず、14年もの長いスランプに陥っています。そんなジェイの気持ちを動かしたのは、少年時代に出会った老人ジョーが遺した、古びたワインの味でした。衝…

仏果を得ず(三浦しをん)

文楽は一度だけ見たことがあります。たしか「心中宵庚申」だったと思うけど、ストーリーはあまり覚えていません。ただ、最後の道行きの場面の色っぽさとせつなさは、強烈に記憶に残っています。そんな文楽を、青春小説に仕立て上げてしまった、三浦さんの最…

お家さん(玉岡かおる)

明治~大正期に日本を代表する財閥として勃興し、一時は三井や三菱を上回る規模のビジネスを展開しながらも、昭和金融恐慌の前に破綻した鈴木商店を描いた小説では、城山三郎さんの『鼠』が有名ですが、その主人公は大番頭であった金子直吉でした。 この本は…

MM9(山本弘)

「ウルトラマンシリーズ」に夢中になったことがある人には、たまらない本ですね。地震、台風などと同じく自然災害の一種として「怪獣災害」が存在する「現代」で、日本を襲う多彩な怪獣たちと戦う気象庁特異生物対策部、通称「気特対」の物語!(ウルトラマ…

楽園(宮部みゆき)

「次作への期待度×期待者数」という統計を取ったら、現在のNo.1は宮部さんでしょうか。この作品も、出版されてから半年近く待たされました。とにかく予約人数が半端じゃない! でも、待った甲斐がありました。伏線が全部、最後に効いてくる展開はお見事で…

Y氏の終わり(スカーレット・トマス)

大学院生のアリエルは、呪われた本といわれる『Y氏の終わり』にめぐり合います。その本の中で、Y氏は他者の精神に入り込むための薬の処方を記していたのですが、それを試してみたアリエルもまた、不思議な世界に飛び込んでしまいます。 ネズミやネコや隣人…

2008/1 神なるオオカミ(姜戎)

1位の『神なるオオカミ』は、青年時代に内モンゴル自治区に下放されていた著者が、たった1冊だけを30年以上かけて書き上げた「奇跡の本」です。古来より、オオカミをトーテムとする遊牧民族の血が、漢民族に輸血されることによって中国という国家が成り…