りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

私の男(桜庭一樹)

直木賞受賞作ですが、読んでて辛かった。暗い北の海から逃げてきた「父・淳悟」と「娘・花」の陰湿な関係の終わりと始まり。 背徳を描いた文学は数多くあり、深い感動をもたらす作品もあるけれど、この本は生理的に受け付けられませんでした。だって、いくら…

ショコラ(ジョアン・ハリス)

謎めいた女性ヴィアンヌと彼女の小さな娘アヌークが、フランスの田舎の村に流れ着き教会の近くにチョコレート店を開いてから、村が変わり始めます。 ヴィアンヌの薦めるチョコレートは、なぜかそれぞれの人の好みにピタッと合い、固く閉ざされていた村人たち…

ドゥームズデイ・ブック(コニー・ウィリス)

『犬は勘定に入れません』より前に書かれた、タイムトラベルSFですが、パラドックスの起こりえない時間旅行の仕組みや、オクスフォード大学の史学部が時間旅行を管理しているとかの枠組みは、すでにこの作品で出来あがっています。ピント外れの所で一生懸…

ホルモー六景(万城目学)

笑撃のデビュー作『鴨川ホルモー』をめぐる、6話のオムニバス小説。どれも、ホルモーの余韻をしっかり楽しめる作品にしあがっています。京大だけじゃなく、どの大学でもホルモーは物語を生み出していたんですね。 『鴨川(小)ホルモー』 美女なのに男に縁…

ベーコン(井上荒野)

「食べ物」をタイトルとして、性愛に関する出来事を描いた短編集です。記憶の底に深く眠っていた出来事を、その時に流れていた「音楽」をキーにして鮮やかに思い出すことがありますが、その傍らにあった「食べ物」も記憶のキーとなるんですね。言われてみれ…

女たちの内戦(桂望実)

「内戦」と書いて「セルフウォーズ」と読ませています。つまり「自分自身との戦い」のことなのでしょう。でも、ここの登場する女性たちは4人とも、戦っている感じではないんですね。 仕事は腰掛けで結婚願望の強い29歳の真樹は、理想の相手を探して合コン…

神なるオオカミ(姜戎)

文革時代に内モンゴル自治区に下放され、青年時代を遊牧民と共に暮らした著者が、自らの経験を基にして、30年もの年月をかけて書き上げた「奇跡の本」です。上下巻合わせて千ページの大作ですが、一気に読んでしまいました。 主人公の陳陣(チェンジェン)…

ときどき意味もなくずんずん歩く(宮田珠己)

「旅行家」で「シュノーケラー」で「ジェットコースター評論家」である宮田さんが綴る、不思議なおかしさに溢れた、脱力系エッセイです。この人の本、はじめて読みましたが、癖になってしまいそうな「おかしさ」なんですね。でも、この「おかしさ」は「爆笑…

生物と無生物のあいだ(福岡伸一)

タイトルに少々だまされた感がありました。「無生物に近いながら自己複製機能を持つウィルスが果たして生物と呼べるのか」とか、「単なるタンパク質であるプリオンがどうして狂牛病を引き起こすのか」とか、文字通り「生物と無生物の境界」について、生物学…

スカイラー通り19番地(E・L・カニグズバーグ)

『クローディアの秘密』 の主人公は1960年代の少女でしたが、本書のマーガレットは1980年代の少女でしょうか。物語に出てくる、分割された巨大通信会社のモデルはATTでしょうから。 でも、20年の時を経ていても、思春期にさしかかった少女が抱…

地獄のババぬき(上甲宣之)

第1回『このミス』大賞で話題になったとの『このケータイはXX(エクスクロス)で』に続く作品だそうです。前作は未読ですが、本書の中で前作の説明があったので違和感なく読めました。(前作を読んだ方には、説明部分はウザイのでしょうが・・) とはいえ…

架空通貨(池井戸潤)

地域経済や雇用に対して、圧倒的に巨大な力を持つ企業が存在する「企業城下町」。そんな企業が地域で勝手気ままにふるまったら、どんなことが起こるのか。そして、その企業が倒れる時には、どれだけのものを巻き添えにするのか。銀行出身の著者が、経済問題…

クレイ(デイヴィッド・アーモンド)

1960年代、中学生となって視界が一気に広がり、今まで意識していなかった故郷や家族や隣人の貧しさを理解しはじめた少年の感覚を、みずみずしく描いた『火を喰う者たち』以来のアーモンド作品です。 本書の主人公もやはり、1960年代のイギリスの片田…

失われた町(三崎亜記)

評価の分かれる本だと思いますが、私は楽しく読めました。 冒頭の「プロローグまたはエピローグ」で主要な登場人物の名前だけ出しておいて、その後の各章で彼女らがプロジェクトと係わるようになった個人的な事情と思いを描いていく。それと並行して「町の消…

中原の虹3(浅田次郎)

前巻で、このシリーズの前作『蒼穹の昴』以来のヒロインであった西大后も世を去り、中心人物を失った清朝は一気に滅亡へと向かいます。実はそれこそが、中国を破滅から救うために西大后の書いたシナリオでした。物語上は取り立ててドラマチックな盛り上がり…

ゼノサイド(オースン・スコット・カード)

『エンダーのゲーム』と『死者の代弁者』に続く、シリーズ第3作。(サイドストーリーである『エンダーズ・シャドウ』は別です) 前作から30年後、エンダーによって3つの異種族が共生する道を指し示され、スターウェイズ議会から半独立状態となった殖民惑…

なつかしく謎めいて(ル=グィン)

ファンタジー作家、SF作家として名高い著者による異次元旅行記。空港で何時間も足止めを食らっている時に、消化不良とストレスにさいなまれながら、硬い椅子に座っていることによって可能となる、「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」。発見者の名前がつ…

金毘羅(笙野頼子)

40歳を過ぎて自分が金毘羅だったことに気づいた「私」の物語。1956年3月16日に、四日市に生れ落ちた瞬間に死亡してしまった赤ん坊。金毘羅である「私」は、その女児の肉体に宿り落ち、自分の正体を知らないまま40数年、人間の女性として生きてき…

ブックストア・ウォーズ(碧野圭)

舞台は武蔵野の駅前にあるペガサス書店。主人公は40歳の女性副店長(後に店長)の理子と、26歳のコネ入社女性の亜紀。亜紀は職場恋愛の相手を振って、大手出版社のエリート編集者と結婚したばかり。理子は失恋したばかりということもあって、勝手気まま…

英国紳士、エデンへ行く(マシュー・ニール)

エデンの園はタスマニアにあった?! 19世紀半ば、進化論や地質学によって信仰のよりどころを危機にさらされた牧師は「エデンはタスマニアにあった」との新説を発表し、キリスト教世界で人気を博しますが後援者のおせっかいで、タスマニアまで実証の旅に出…

千年の祈り(イーユン・リー)

アメリカに住む中国出身の新鋭作家、イーユン・リーの短編集。彼女自身が移民でありながら、彼女が綴るのは「移民の物語」というより「中国の物語」が多いようです。 宦官を輩出してきた家系に、党主席そっくりの顔で生まれたために数奇な人生を送る男。結婚…

クローディアの秘密(E・L・カニグズバーグ)

新しい年は、煩悩を取り去って、児童文学の名作からスタートしましょう。レトロさんに教えてもらった本です。 退屈している少女クローディアは弟のジョージを誘って、家出を決行します。家を出て行く先は、なんとメトロポリタン美術館。昼間は小学生の団体に…

2007/12 また会う日まで(ジョン・アーヴィング)

年間ベストをアップした後に12月のベストを書くのも間が抜けていますが、12月の1位争いがそのまま年間ベストを争うという、稀に見る激戦でした。1位とした『また会う日まで』と、2位とした『ガラスの宮殿』は僅差です。 SFの名作『エンダーのゲーム…

天下御免1~3

年末の大掃除と、TV特番と、正月の準備の合間、今年の読み納めとしたのは、35年前に驚異的な人気を誇ったという、傑作時代劇のシナリオでした。 主人公は「早く生まれすぎてしまった男」、平賀源内。時は享保の徳川時代、藩とか武士という枠組みをサラリ…