りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

最後のウィネベーゴ(コニー・ウィリス)

傑作タイムマシン小説『犬は勘定に入れません』の著者による中編作品集。 表題作は、犬が絶滅してしまった近未来のアメリカで、15年前に亡くした愛犬の姿をはからずも見出すことになった、孤独な男の物語。やはり各州で禁止され、絶滅しつつあるキャンピン…

幻のマドリード通信(逢坂剛)

『カディスの赤い星』で直木賞を受賞する直前の、20年前の短編集。4作品ともスペイン内戦に関連したテーマであって、著者の原点ですね。 スペイン内戦終結後、再開された日本帝国公使館で発見された焼死体の謎を描いた表題作は、反ファシズム民主政府内で…

堕ちた天使アザゼル(ボリス・アクーニン)

日本語の「悪人」からペンネームを取ったロシア人作家アクーニンによる、ファンドーリン・シリーズの第一作です。このシリーズ、今年になってから2冊翻訳されて人気も上々のようですが、5年前に本書が出版された当時はあまり話題にならなかったようです。 …

バーチウッド(ジョン・バンヴィル)

カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』を押さえてブッカー賞を受賞した作品が、佐藤亜紀さんの翻訳で出版されました。これはもう、読むしかありません。 3部からなっています。第1部は、かつては優雅な屋敷だったバーチウッドに戻ってきたガブリエ…

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(本谷有希子)

佐藤江梨子さん主演で、映画が公開されています。もともとこの作品は戯曲として書かれたものだそうですから、閉鎖された空間の中でテンションをあげまくるキャラクターとテンポのよい展開は、小劇場にこそふさわしいのでしょう。 「あたしは絶対、人と違う。…

カラヴァッジョ(ペーター・デンプ)

バチカンで、「聖ペテロの磔刑」や「十字架降下」を見たことがあります。画面内の明暗の差が激しく、宗教画としては極めてドラマチックな作風のカラバッジョの絵画は、16世紀末までのルネサンス美術を葬り去って、17世紀バロックの幕を開けることになり…

シッピングニュース(E・アニー・プルー)

最後の一行がいいですね。「愛が苦痛や悲嘆を伴わずに生まれることも、時にはありえるのだ」。ラッセ・ハルストレム監督がケビン・スペイシー主演で映画化した作品ですが、内容はいたって地味。 主人公の30代後半の男性・クオイルが、「どんだけ~」と叫び…

しずく(西加奈子)

あちこちのブログで人気の高い、西さんの本をはじめて読んでみました。6編の「女どうし」の関係を綴る短編集。 組み合わせは色々です。 ・長い間をおいて偶然再会した、幼なじみの2人 ・結婚を望む30過ぎの女性と、恋人の連れ子 ・夫に先立たれた老未亡…

【再読】天使 & 雲雀(佐藤亜紀)

旅行の最後に、佐藤亜紀さんの『天使』と『雲雀』を読み返してみました。さすがにはじめに読んだときほどの興奮を感じることはなかったものの、その分、彼女のキリッと締まった文体の素晴らしさと、展開の巧みさを、じっくり味わうことができたようです。 ま…

博士と狂人(サイモン・ウィンチェスター)

副題に「世界最高の辞書OEDの誕生秘話」とあるように、41万語以上の収録語数を誇る世界最大・最高の辞書『オックスフォード英語大辞典』が19世紀末に作り出されるまでのノンフィクションです。 あらためて気付かされるのは、普段、当たり前に使ってい…

ワイオミングの惨劇(トレヴェニアン)

『アイガー・サンクション』や『シブミ』といったスパイアクションで一世を風靡したトレヴァニアンが、(おそらく)老齢をおして書き上げた「西部劇」です。 でもこれは「西部劇」なのでしょうか。確かに構成はまさしく「西部劇」なのです。西部の街に突然現…

カジノを罠にかけろ(ジェイムズ・スウェイン)

映画では「オーシャンズ」シリーズが華々しくカジノ荒らしを仕掛けていますが、この本はカジノ側に立って「イカサマ・ハンター」として雇われる男の物語。長年勤めたラスベガス署の刑事を定年退職し、今はカジノのコンサルタントとしてマイアミで優雅な老後…

旅のラゴス(筒井康隆)

この物語のおもしろい所は、時間の長さかもしれません。主人公のラゴスは、それこそ生涯をかけて旅をするのです。故郷を出たときに彼に思いを寄せていた少女は、彼が戻ってきた時には兄嫁となっていて、すでに60歳を超えてしまっているのですから。 そこか…

スコーレNo.4(宮下奈都)

主人公・麻子の人生の中の4つの時間を「スコーレ(人生の学校)」として切り取った本書は、少女から大人の女性へと変わっていく麻子の成長過程をとってもみずみずしく描いた、素晴らしい小説でした。 華やかな名前と容姿を持つ妹・七葉を愛しく思いながら、…

世界の歴史9「第二次世界大戦と戦後の世界」(J.M.ロバーツ)

昨年12月からゆっくりと読み始めた「世界の歴史」も現代に近づきました。第9巻では、1939年に勃発した第二次世界大戦によって引き起こされた人類史上未曾有の混乱と危機と、それがもたらした戦後の世界構造を描きます。 第2次世界大戦については、こ…

モンティニーの狼男爵(佐藤亜紀)

フランス革命前夜・・といっても、パリでも、ベルサイユでもなく、革命からも遠く離れた、モンティニーなる片田舎が舞台。田舎者の青年男爵が、持参金がたっぷりついた修道院育ちの娘と結婚します。もちろん、典型的な政略結婚。ところが男爵は、妻となった…

2007/7 FUTON(中島京子)

今月は候補がいっぱい。 プリーストの『奇術師』とサラの『夜愁』の一騎打ちかと思ってましたが、同じプリーストの『魔法』のほうがよく思えてきて、最後は選びきれなくなり、全くテイストの異なる『FUTON』が漁夫の利で1位(笑)。田山花袋の『蒲団』…

充たされざる者(カズオ・イシグロ)

イシグロさんの第4長編。これで彼の作品を全部読んだことになります。しかし作者自身が「実験小説」と読んでいる本書は、長すぎです! 世界的に著名なピアニストという主人公のライダーが、中欧ヨーロッパのどこかであろう小都市で開かれる「木曜の夕べ」と…

ハル、ハル、ハル(古川日出男)

「この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ」という断言的な書き出しは、『サウンドトラック』の疾走感を予感させてくれましたが、期待はずれに終わりました。 いや、疾走感だけは、それなりにあったのかな。ただ、もう内容についていけません。作者は…

FUTON(中島京子)

文学史上有名ではあるけれど、読まれない本の代表ともいうべき田山花袋の『蒲団』を見事に「打ち直して」くれました。^^ オリジナルの『蒲団』は、ひそかに思いを寄せていた若い女性の弟子に去られた中年作家が、彼女が使っていた蒲団に顔をうずめて涙する…