りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ブロークンエンジェル(リチャード・モーガン)

『オルタード・カーボン』の続編です。 27世紀。人間の心はデジタル化されてメモリースタックとなり、異なる肉体への移し変えが可能になっています。肉体的な死はもはや「死」を意味せず、バックアップのないメモリーを破壊された人間のみが、「真の死」を…

ファンタージエン 夜の魂(ウルリケ・シュヴァイケルト)

ファンタジー史に残る名作である、ミヒャエル・エンデさんの『ネバー・エンディング・ストーリー』へのオマージュです。ファンタージェンについては、この本だけでなく、ドイツの作家があたかも競作するかのように、シリーズで書かれているんですね。 「虚無…

林檎の木の下で(アリス・マンロー)

『イラクサ』に続く、クレストブックスからの短編集。第一部はスコットランドから海を渡ってカナダに根を下ろすに至る「作者自身の一族の物語」であり、第二部は作者の自伝的な小説になっています。決して「大河小説」ではありません。祖先たちの、両親の、…

グッド・オーメンズ(ニール・ゲイマン、テリー・ブラチェット)

『アナンシの血脈』では、物語を司る古代の神の子孫に訪れた試練をおもしろおかしく描いてくれた作者ですが、今度は黙示録の世界にズバリ直球勝負で挑戦です。 といっても、この作者のことですから、展開はめちゃくちゃコミカル。ハルマゲドンを起こすべく地…

バルザックと小さな中国のお針子(ダイ・シージエ)

文化大革命時、再教育のため農村に下放されていた知識人子弟の世代は、いまや40~60代。中国外に出て文筆活動を行っている者も多く、『ワイルド・スワン』や『睡蓮の教室』など、「下放体験記」ともいえるジャンルを形成している感すらあります。著者の…

アキレス将軍暗殺事件(ボリス・アクーニン)

日本語の「悪人」からペンネームをとったという、日本通ロシア作家が、19世紀末の世界を舞台にして、ロシアの若き外交官ファンドーリンを活躍させる人気シリーズの第2弾です。 前作の『リヴァイアサン号殺人事件』は、彼が日本へ赴任する途中での出来事で…

イースターエッグに降る雪(ジュディ・バドニッツ)

『空中スキップ』の作者が2002年に書いた長編小説です。前半は、東欧の寒村から抜け出して渡米するイラーナの半生が綴られ、後半は、イラーナにはじまる4代の女性(娘サーシィ、孫娘メーラ、曾孫のノミー)の4人が、家族の人生を交互に語る物語。 なん…

ハリウッド100年のアラブ(村上由見子)

『イエローフェイス』では、アジア人がハリウッド映画でどのように描かれてきたのかを徹底的に検証した村上さんが、今度はアラブ人のケースに挑みました。ハリウッド映画に登場するアラブ人といえば、9.11以前であれば、湯水のように金を使う民族服を身…

ナイロビの蜂(ジョン・ル・カレ)

昨年、映画が公開されました。スパイ小説の巨匠、ル・カレの大作ですが、70歳を超えたというのに全盛期の『リトル・ドラマー・ガール』や『スクールボーイ閣下』に匹敵する素晴らしい作品に仕上がっています。お年を感じさせませんね。 ケニア駐在の英国人…

英仏百年戦争(佐藤賢一)

西洋歴史小説の第一人者である著者が、英仏の中世史に挑みます。「それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった」と!!!1337年から1453年にかけてフランス王位継承権をかけて戦われた英仏両国間で闘われた戦争という常識は、冒頭から覆され…

チョコレートマウンテンに沈む夕日(スーザン・エルダーキン)

チョコレートマウンテンと呼ばれる、アリゾナ砂漠の片隅での物語。現在の話と、脈絡のないように見える2つの過去の話が結びついて生み出されたのは、不思議な感動を呼ぶ1つの物語でした。 現在・・。幾千の星とサボテンの庭に囲まれたトレーラーハウスに暮…

安徳天皇漂海記(宇月原晴明)

作者によると、「『平家物語』から安徳天皇という核を取り出して『吾妻鏡』や『東方見聞録』の細胞に入れた」物語だそうです。ジャンルとしては、「伝奇ファンタジー」とでもなるのでしょうか。 滅亡する平氏一門とともに、壇ノ浦で二位の尼に抱かれながら入…

空白の叫び(貫井徳郎)

少年法改正による「厳罰化」の流れは止まりません。2000年11月に、刑事罰適用年齢が14歳に引き下げられたのに続き、現在はそれを12歳まで引き下げようとの「改正案」が審議されています。 少年法改正前に書かれた本書には、14歳の中学生殺人犯が…

空中スキップ(ジュディ・バドニッツ)

原題は「Flying Leap」。訳者の岸本さんが後書きで書いていたように、彼女の作品は「跳ねて飛ぶ」。飛んだ瞬間に着地点がずれてしまい、もう元の地点には戻れないのです。 戦争が迫る世界で犬になった男、炎の中に飛び込んでいくチアガールたち、突然子供が…

世界の歴史8「帝国の時代」(J.M.ロバーツ)

いよいよ、現在の世界と直接に繋がっている時代の記述に入りました。西欧文明の最盛期を描いた本書は、欧州諸国の植民地政策が進展した過程と、古い歴史を有するアジアの国々(インド、中国、日本)の対応と苦難、さらには、第一次世界大戦とロシア革命の勃…

アラビアの夜の種族(古川日出男)

GWの最後の日に読みふけったのは「現代のアラビアンナイト」。 へジュラ暦1213年(西暦1798年)、イギリスとインドの連携を絶つべくエジプトに侵攻してきたナポレオン軍を迎え撃つ、マムルークの首長たち。500年前に十字軍を打ち破った過去の栄…

ひとり日和(青山七恵)

今年の芥川賞受賞作ですが、やっぱり想像通りの小説でした。「若い女性が世間に出る時の心の動き」というのは、ひとつのジャンルとなった感がありますが、だいたい、おもしろくありません。それは、主人公に魅力がないからなのです。 母の中国転勤により、母…

【新釈】走れメロス(森見登美彦)

期待していただけのことはありました。古典的短編を下敷きにして、あの「京都大学」の学生群像を描いた作品ですが、単なるパスティーシュにとどまらず、しっかり森見ワールドになってるのです。 冒頭の「山月記」がいいですね。己の文才に絶大な自信を持ち、…

ナイチンゲールの沈黙(海堂尊)

前作『チーム・バチスタの栄光』に続く、東城大学付属病院もの第2弾。 眼球に発生する癌である網膜芽腫(レティノブラストーマ)にかかってしまい、眼球を摘出されてしまう子供たちの運命に心を痛める看護師の小夜は、大量吐血で緊急入院した伝説の歌姫と出会…

少女七竈と七人の可愛そうな大人(桜庭一樹)

とても燃えにくく、七度竈に入れなくてはよい炭にならないという七竈。あまりの堅さに、とても食べられない赤い実は、美しいまま朽ちていく。 25歳の時にふと「辻斬りのように男遊びをしたいな」と思って、1ヶ月の間に7人の男と寝た母から生まれた、世に…

リヴァイアサン号殺人事件(ボリス・アクーニン)

日本語の「悪人」からとったというペンネームのロシア人作家による、高村薫さんも絶賛していたグランド・ミステリー。 19世紀末のパリで発生した大富豪殺人事件。盗まれたのは、富豪が蒐集していた、インド秘宝のコレクション。手がかりは、インドへ向かう…

2007/4 テロル(ヤスミナ・カドラ)

今月のイチオシは、早川書房で新しく始まった「ブック・プラネット」叢書からいきなり2冊連続して出版されたヤスミナ・カドラさん。中立的な視点から「イスラムの声」を伝え続け、高い評価を得ている作家ですが、彼のペンネームは女性名。フランスに亡命す…

スコール(小檜山博)

ぞうの耳さんのブログで紹介されていました。これは「大人の童話」ですね。現代農家の「嫁取り譚」。 嫁不足の農村の不幸を一身に背負ったような、42歳の正男。6年前には結婚式をドタキャンされ、半年前には結婚サギの被害者に。ついにフィリピンまで嫁探…

世界の歴史7「革命の時代」(J.M.ロバーツ)

「革命の時代」と題した第7巻は、第6巻「近代ヨーロッパの成立」と対になって「近代国民国家の成立」をダイナミックに記述しています。アメリカ独立戦争の個々の戦いや、二転三転するフランス革命の主役たちの権力争いの詳細な記述があるわけではありませ…